プルセミナ共和国
第二章後編のエスト編に入っていきます!
リンド村を出発して幾日が経った。道中の旅路で、様々な話を聞いた。アーブとラウの出身地やエストのこと。そして、逆に聞かれたのが別れ際にキスした女性、ミーナの事だった。この質問への答えが、最初の試練なのかとアルトは思った。
明日の昼に、聖地コバクに到着するとのことだったので、野宿が決まった。役割分担をして、すっかり慣れてしまった野宿のお供、味の濃い干し肉を齧りながら、アーブから教会騎士になるまでの話など聞いていた。
「教会騎士には四つの階級があってな。アルトはまず、『エレーデンテ』から始まる。解り易く言うと『見習い』だ。エレーデンテの訓練が終われば、俺とラウがいる階級。『下級騎士』になる。下級騎士からが『教会騎士』って名乗れる。その証明として、太陽の半分が刺繍された灰色ローブを貰える」
アーブはリンド村にいた頃よりもくだけた口調でアルトに説明する。
アルトは、今までの教会騎士達に出会って疑問だった事を聞いた。
「教会騎士の人って、鎧とかは着ないんですか?」
「それはな、このローブは特別な糸で編んでいるんだ。例外はあるが斬撃と突きの攻撃でも裂けない」
「例外?」
「教会騎士が使っている武器と、リンド村でドヴォルが振るっていた剣があったろ。魔物が持っている武器にはローブの効果が聞かないんだ。あの時にアルトは見てなかったけどスピナーの爪や牙程度なら防げる。ただ、奴らが持ってくる武器がダメなんだ。あと、今回はじめて知ったがドヴォルが使った魔法も防げないみたいだな」
アーブは自分のローブが焦げた場所を出した。
「それなら尚更、鎧を着た方がいいんじゃ?」
アーブが干し肉の硬さに苦戦していると、ラウがアーブの言葉を引き継いだ
「鎧でも一回や二回なら防げるけど、不便でもあるんだ。自分で言うのも悲しいが、僕達みたいな未熟な下級騎士だと剣を振るうときに動きの妨げになるんだ。熟練者だと鎧を着ても平気だけど、僕達は鎧を着て戦う方が不利になる」
アルトはその言葉に驚いて問いかけた。
「二人が未熟なんですか? 俺からみたら、そんな風には」
「ははは、ありがとう。でも、本当なんだ。下級騎士でも熟練者は僕達二人掛かりで挑んでも一人は死んで、もう一人が重傷で、やっと倒せるくらい強い。その中で、試練を乗り越えれた人が下級騎士の上にある『上級騎士』になるんだ。上級騎士になると、太陽全体が刺繍された黒いローブを貰える。彼らは『マスター』や『~卿』って呼ばれる。その上級騎士の上にいるのが、『騎士団長』で太陽と剣が刺繍された赤いローブを着てる」
「そうなんですね。リンド村に来た、コルテスさんは上級騎士だから、コルテス卿って呼ばれていたんですね。てっきり、貴族の生まれだからかと思ってました」
「教会関係者に生まれは関係が無いんだ。貴族の生まれでも教会騎士に決まると、爵位は継げないから」
「貴族同然の振る舞いをする、教会関係者もいるけどな!」
アーブの吐き捨てるような言葉にラウが苦笑してアルトに教えた。
「アルト君は『選任貴族』って聞いたことある?」
「はい。キケロ様が教えてくれました。『神に選び任された貴族』って」
キケロという言葉に二人は目を細めたが、続きを話した。
「その選任貴族の生まれでマーラの感知者になった人は、教会騎士じゃなくて神官になって、この国の政治に関わっていくんだ。その人達は何というか・・・」
「解り易く言えば、クズだ」
その言葉を咎めるような視線をラウはアーブに送ったが、アーブは無視して続きを話した。
「とても、信心深い、神に選び任された選任貴族生まれの神官は、爵位は継げなくても安全で快適な神殿や宮殿で政治をする。ロクな政治じゃないがな。そして、非選任貴族と平民は教会騎士になって大陸中で命懸けの仕事をしてくる。そういう関係だから、色々と見下されバカにされる」
「・・・あまり、会いたくないですね」
「口を開けば、命令。考えれば、バカなことを思いつく。歩けば、護衛に駆り出されて迷惑」
「・・・アーブ」
「いいだろ。今のうちに教えといて、心構えさせた方が会ってから不快な思いをせずに済む」
アーブはそう言うと、干し肉と再び格闘を始めた。アルトは複雑な思いだった。
「この国って、そういう人達に管理されているんですね・・・」
「確かに、国と教会の長、『プルセミナ教皇』や教会序列二位、三位の『枢機卿』と教会騎士を監督する『司教』に、そういう人がいるのは事実だけど、立派な方もいるのは覚えておいてほしい。
ここバラール地方は教皇の直轄地だけど、事実上の領主で聖地コバクにいる『カラムリア・テイゾ大司教』はその一人だよ。
アルト君みたいにゴル村からの流入民がリンド村へ住むことになった時に、必要な物資と人を送って救難したり。今回の魔物襲撃への援軍もコルテス卿から聞いた話だけど、少ないけど素早く動けてコルテス卿みたいな強力な教会騎士を入れた第一陣と、あとから来る大勢の兵士で編成した第二陣に分けて派遣したり、一人で管理するには広すぎるバラール地方を守ってる方なんだ」
アーブは忌々しいとばかりに干し肉に嚙みついていたが、カラムリア・テイゾの名前が出てから、そっぽを向いて静かにしていた。
「だから、アーブの言葉が全てじゃないんだ」
「わかりました。覚えておきます。それと、この国ってプルセミナ教会が全てを取り仕切ってるんですね。故郷のゴル村の外って意識したことが無かったから知らなかったです」
「確かに、ここだと貴族領主やましてや選任貴族はいないから意識はしないかもね。そうだな・・・。
下から階級を言うと、リンド村や他の地域の『平民』が一番下。
その上に、国の政治に関われる『選任貴族』と関われない『非選任貴族』。
で、教会からは選任貴族と同じ待遇で政治に関われる『司祭』。司祭の上位は、教会側のまとめ役である、教会序列三位の『司教』。司教はどの貴族より偉い人。
貴族と司教の上位で国政と教会を束ねる、教会序列二位で教皇を補佐する『枢機卿』。枢機卿だけは、司教と教会に多大な貢献をした選任貴族が就ける立場。
そして、その枢機卿から教会出身の人だけで選ばれた人が、教会序列一位で王を兼任してる『プルセミナ教皇』」
「ん? 教会騎士はどこに位置付けられるんですか?」
「教会騎士は、教会側の兵士ってイメージでいいよ。貴族は領地の兵士を、教会は教会騎士って感じかな。組織としての教会騎士団を監督するのが司教達」
「なるほど。この国を治めてるのは教会と選任貴族なんですね。非選任貴族は政治に関われないのは神に任されてない貴族だからですか?」
「教会に行った後に学ぶことだけど、三百年前に大陸を支配していた『エスト帝国』とプルセミナ教会が戦った『大戦』の時に、教会側に付かなかった貴族が今の非選任貴族なんだ。教会と対立した貴族達は次々に滅ぼされていったけど、強い貴族もいた。『大戦』でエスト帝国は崩壊して、教会が勝ったけど生き残った、教会と対立した強い貴族も最終的に教会に服従して、今のプルセミナ共和国になった。そういう経緯で教会と対立した貴族を国政に関わらせない様にしたんだ。ついでに言うとプルセミナ共和国が完成した後に、教皇から任命された貴族が選任貴族になった」
「そんな歴史があったんですね。知らなかった」
「まぁ、ここら辺もおいおい学ぶさ。そろそろ寝ようぜ。明日の昼には聖地コバクだ。初めて見ると驚くぞ」
アーブはニヤニヤしながら寝袋に入った。
「おい、サラッと見張りを僕に押し付けるなよ」
「おやすみ。アルトも寝ろよ」
パチパチと焚火が鳴った。
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