アルトの選択
袖を引っ張るミーナの手をアルトは握った。綺麗な碧眼には、『問いかけ』と『期待』が混ざり映っているようだった。
(何で、そんな目をするんだよ)
その瞳を見てアルトは迷う。本当にこれで良いのか。
目の前の林には、皆から託された大切なものを守れる道がある。ここを抜けたら、もう戻ることはない。
父と師匠の願いを叶えるために、また新しい場所で生活を作り託されたものを守る。
後ろを見れば、父と師匠が戦っている姿がある。今、悩んでいる時でさえ傷つき必死に戦っている。アルト達を逃がすために。守るために。
(ここに来る時に覚悟を決めたのに。本当に父さん達を、この場所を見捨てていいのか。ミーナに両親と故郷を失う悲しみを味わせていいのか。村の人を見殺しにするのか)
ミーナから目線を離すと、妹の顔があった。最近、歩けるようになって母を呼ぶようになった。花が咲いたような笑顔をくれる小さな温かい存在。弟ティトに出来なかったことをしてあげようと、可愛がっていた。
(こんなに小さいアリルを、いま俺以外に誰が守れる。アリルだけじゃない。ミーナや母さんだって。この先の聖地コバクに行くまでに誰が守る。着いた先だって男手はいる。それに今、父さん達の所に行って間に合うのか?)
様々な思いが巡る。どちらかしか選べない。
「アルト君・・・。お願い。急いで」
ミルテナが目の前の道を進むように言う。この先を行ってほしいと。皆を連れて生き残れと。
アルトは一歩、道を踏み出そうとした。
『アルト君、君が生き残った意味は?』
(!)
以前、マールに問われたことを思い出した。
マーラの感知者になって未来予知が出来るようになってから必死に戦い、実の両親を失いながらも大勢の命を救った日を思い出した。
(俺が生き残った意味・・・)
モルに導かれ、出した答え。ミーナに告げた、アルトが生き残った意味。
「ミルテナさん。すいません」
「......っ!」
ミルテナが顔を覆う。
「母さん、行って来るよ」
「えぇ、いってらっしゃい。ちゃんと帰って来るのよ。アリル。お兄ちゃんに、いってらっしゃいしよ」
アリアは微笑み、アリルの手をとって小さく振る。
「アルト・・・」
「ミーナ。必ず全部、守るよ」
「っ。ありがとう!」
ミーナはアルトを抱きしめる。アルトは包むように抱きしめかえして、小声で伝えた。
「『約束』も守るよ」
「うん!」
アルトはミーナに離れて、走った。自分の大切な人達を守る為。誰かの大切な人達を守る為に。
(皆を助けるんだ)
走っていくアルトを見送り、アリアはミルテナに謝った。
「ミルテナさん、本当にごめんなさい」
「・・・いいのよ。心のどこかでこうなるんじゃないかって思ってたの」
涙を拭いたミルテナはミーナを見た。
「ミーナ、後悔はない?」
「うん。アルトを信じてる。全部、守ってくれるって」
逃げる計画を伝えてから曇っていた娘の顔が、晴れやかで生き生きとした顔になって『これでいいの』と自分を納得させた。
アルトは急いで門へ向かった。途中、仮設治療所を通りマールが薬を持って門に行ったことを知った。手伝いの三人はマールにここに留まるように言っていた。
(マールさん・・・)
マールの思惑を察したアルトは複雑な思いをしたが、全てが終わった後に話そうと決めた。
門に近づくにつれ、剣戟や人の声が聞こえてくる。
(まだ戦ってる。間に合ったか)
走りながら意識を集中させてマーラを感じる。すると、門の方向でマーラの動きが不自然なことに気付いた。
「なんでこんなに激しく動いてるんだ?」
違和感を抱えながら走っていくと、一瞬、遠くから炎が見えた。
(松明とかじゃないよな。まさか、教会騎士が)
二年前、ゴル村で出会った教会騎士の技を思い出した。彼は何も無い所から水を作り、虹色の鳥も飛ばしていた。門で戦っている教会騎士達が炎を出したのだと思ったが人の悲鳴が聞こえた。
「悲鳴? もしかして、魔物が炎を」
門広場を見渡せる場所に着くと、魔物と村人達が戦っているのが見えた。遠くからモルの背中も見えて安心した。
「間に合った!」
急いでモルのもとに行こうとしたら、魔物が炎をモルに放った。
「父さん!」
炎に焼かれたのかと思ったが避けれていた。
「よかった。急がないと」
剣を抜き走った。マールがモルの後ろにいるのが見えた。マールは瓶を投げると魔物に当たり、魔物を囲っていたモルや村人が一斉に襲いかかった。膝をついた魔物にモルの一撃が首を刎ねた。
「やった! っ!」
教会騎士が魔物に斬られた。倒れた教会騎士に止めを刺そうと魔物は剣を上げた。
「ダメだ!」
衝動のまま、とっさに手を突き出すと魔物は吹き飛んだ。
「ッ!」
頭痛がアルトを襲う。痛みで一瞬、眩暈をおこしたが立ち直り目の前を見る。教会騎士は無事だった。
「アルト!」
モルが声をあげた。
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