走りぬく
アルトは宿屋に向けて急いで走っていた。
(なんで俺は、守られてばっかなんだ。......悔しい!)
手を強く握り、後ろで戦っているであろう父と師匠のことを思う。
「なんで!」
アルトの叫びは小さく村に響くだけだった。
宿屋に着いたアルトは、足音を立てないように裏側に行き、人がしゃがんで通れるくらいの穴を塞いでいる石を動かした。小声で奥にいる人物を呼び掛けた。
「コーゼルさん。コーゼルさん」
閉じられていた向こう側が開かれて、コーゼルが顔を出した。
「アルト君・・・。今、行かせる」
反対側で何かやり取りをして、ミルテナが顔を出した。
「周りは大丈夫かい?」
周囲を見渡し、誰もいないことを確認した。
「はい」
「...アリアさんとアリルちゃんを先に出すよ」
しばらくすると、灰で汚れた二人が出て来た。
「母さん、これでアリルを拭いて」
裏側に隠してあった荷物からタオルをだした。アルトの言葉に、目を少し見開きタオルを受け取る。
「...ママ?」
「大丈夫よ」
アリアの動揺が伝わったのか、アリルが問いかけるがアリアは顔を拭いた。
奥では、ミーナとコーゼルの声が聞こえる。
「ミーナ、行きなさい」
「...うん」
ミーナが奥から出て来た。
「ミーナちゃん。これで顔を拭いて」
「ありがとうございます」
アリアからタオルを受け取り顔を拭く。
拭き終わるとミーナはアルトを見た。
「アルト。行かないといけないの?」
「・・・そう」
アルトが言いかけるとミルテナが出て来た。
「皆、こっちに来て」
五人は静かに移動した。そこは雑木林で覆われた場所だった。
ミルテナは草を掻き分けると、小さな道があった。
「下をよく見て。道が出来てるのがわかるでしょう。この道を暫く辿れば、村の外に出れる。そこから、東に行くと街道に当たるわ。その時は、ゴル村も通ることになるけど、迂回しなさい。もしかしたら盗賊がいるかもしれないから。うまくいけば、聖地コバクから送られている援軍にも会えるかもしれない」
ミルテナはアルトの手を握り伝えた。
「アルト君、ミーナをお願いね。あたし達の大事な娘を守ってちょうだい」
アルトは返事が出来ずに、その手を強く握った。ミルテナもアルトの気持ちを察していたので、何も言わなかった。
道を進もうとするアルトの服の袖を誰かが引っ張った。
「......アルト、本当に行くの?」
ミーナの深い青色の瞳がアルトを見つめる。問いかける言葉と瞳に、返す言葉が出てこなかった。
アルトは袖を掴むミーナの手を握った。
***
「こいつら、普通のドヴォルじゃない! 魔法に気を付けろ!」
アーブは警戒を呼び掛ける。周りには体に火が付き、のたうち回る人がいた。
「くっ!」
ドヴォルの剣と見たことがない攻撃を受け、教会騎士達は苦戦していた。
その正体が解らずに『魔法』と呼んだ。
二体のドヴォルを教会騎士達が引き受け、もう一体は村人達で対応した。
「何なんだ、こいつら!」
「待て! 無闇に近づくな!」
ドヴォルは重そうな剣を振るい、攻撃をしてくる。
何とか剣を受けた村人は精一杯力を入れて、鍔迫り合いの状態にした。
するとドヴォルの後ろから、何人かで斬りかかった。
声を上げるドヴォルに攻撃が効いていることを知り、急いで離れる。
「モル、大丈夫か!?」
「手が痺れる。馬鹿力だ・・・」
「もう一度、剣を受けれるか!?」
「やるしかないだろに!」
距離を取り、呼吸を整えながら目の前のドヴォルの様子を見る。
するとドヴォルは握り拳をつくり、力を込めているようだった。その動作に全員がドヴォルから離れた。その拳をモルのいる方向へ手を広げながら突き出した。
(やばい!)
炎が目の前に迫って来る。急いで横に逃げたが腕に掠り、火傷を負う。
「あぁっ!」
「モル!」
「掠っただけだ・・・」
仲間の声に返すが、腕の痛みは激しい。
「モル、避けて!」
後ろから聞こえた、聞き覚えのある声に一瞬で判断しモルは離れた。
投げられた瓶はドヴォルの肩に当たった。
「グアァァ!」
悲鳴を上げたドヴォルは剣を落とし瓶が当たった肩を抑えた。
「今だ! 全員、突き刺せ!」
「肩に触れるな!」
モルの号令と瓶を投げたマールの声に従い、囲んでいた全員でドヴォルの体を突き刺した。
体に無数に刺された剣にドヴォルは苦しむ。
「刺した剣を捻り抜け!」
刺した剣を捻り抜くと、ドヴォルは膝をついた。
「くたばれ!」
モルの一撃がドヴォルの首を刎ねた。
倒れたドヴァルの体が崩れ始めた。
「ハァ、ハァ。...マール、助かった」
「間に合って良かった! 火傷したのか。これを」
マールは持って来ていた、中級回復薬を火傷した腕にかけた。一瞬の痛みに耐えると、火傷は治った。
「やっぱお前、すごいな」
「アルト君のお陰だよ。今頃、村を出たと思う
」
「そうか。ありがとう」
モルに手を貸し、立たせると叫び声が聞こえた。振り向くと、教会騎士ラウが斬られた。
「ラウ!」
アーブがドヴォルと戦いながら、仲間を名前を叫ぶ。
ドヴォルは止めを刺そうと剣を上げた時に、横に吹き飛んだ。
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