願いと祈り
村の奥側の家などに避難した女子供、老人は、戦いの状況がわからなかった。しかし、それぞれが夫や息子、父や恋人の無事を祈った。
宿屋では入口に障害物を築き、大勢の人が籠った。その中で、ミーナは宿屋のある場所で母ミルテナと父コーゼル、アルトの義母アリアと義妹アリルの側にいた。
前日の夜に、村を逃げる計画を聞かされ、まだ戸惑いの中にいた。もしかしたら、故郷を捨てて、両親を捨てて、逃げないといけない。
その悲しさは経験はしていないけど、知っている。
二年前、今の状況を現実に経験した少年の姿を見たからだ。獣人や魔物と戦い抜き、目覚めると全ての肉親を失い、壊れ果てた故郷を見て、言葉では表せない悲しみを負った背中を。もし自分が同じ立場だったら、周りからバカだと言われる事をしていたとミーナは思った。
だけど少年はすごい存在だった。悲しみを飲み込み、立ち上がり、大勢の怪我人を治療した。そして、故郷を捨てて新たな場所で、皆に幸福を与えてくれた。病や怪我に怯えずに過ごせる日々を。大勢が救われた。
そんな少年を知っているからこそ、ミーナは不安だった。今が無くなった先の未来で自分は、彼の様に立ち上がることが出来るのかと。
(立ち直れなかったとしても、守ってくれるんだろうな)
この思いには確信があった。獣人に攫われる前日に『約束』した事を命懸けで守ってくれたから。
たった一つしかなかった薬を、兄のように慕っていた人を諦めてまで使い救ってくれたから。
そして、今もあの『約束』を守ろうと頑張っている。つい最近、約束を守ってほしいと言ったら軽く了承した。当然の事のように。
そんなアルトをミーナは愛してしまった。
最初は、守ってくれた感謝から。
そして、悲しみを乗り越えて未来を拓こうとする姿に恋をした。その逞しい背中に惹かれた。
そこに、リンド村で一緒に過ごす中で、アルトの活躍を知り尊敬も加わった。
自分の好きな人が、こんなにもすごい人なんだと自慢したかった。ミーナはこの思いを恥ずかしいけど、伝えようとした。
だけど、知ってしまった。アルトは悲しみを乗り越えたのではなく、抱えながら精一杯頑張っていたのだと。家族を全て失った心の傷は癒えることは無い。
だから、家族の分まで真剣に生きるために、日々、努力をしてミーナが尊敬するアルトになったのだ。これを理解してからミーナは生き方を考えさせられた。
そして、『強くて優しい、頑張り屋なアルト』の後ろではなく、横に居たいと思うようになった。アルトが疲れたら寄り掛かってもらえるように。いつか、この思いを伝えれるように自分も頑張るんだと思った。
だが、実際に家族も故郷も失いそうな今、その覚悟が揺らぐ。アルトはこんな思いを急に突きつけられて頑張ってきたんだと実感させられた。
そして、願わずにはいられなかった。
(アルト、お願い。家族と故郷を守って・・・)
右手に巻かれた帯状のお守りを握り、愛する人が無事でいてほしいとも思った。
(わがまま言ってごめんね。でも、信じてる。・・・・・・プルセミナ様、女神サドミア様。アルトを、皆をお守り下さい)
救世の巫女と偉大なる女神に祈りを捧げた。
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