表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
39/282

リンド村攻防戦

 

 晴天の朝の下には、誰も見たことが無い光景があった。

 血溜まりのような赤黒い色をした人型の剣を持つ者。

 背は低く、特徴的な長い耳と鋭い爪を持った濃い肌色の者。


 ドヴォルとスピナーだ。


 物見櫓に上がっていた教会騎士アーブも、その光景に内心、緊張した。


(数はラウの言う通り、スピナーは二十くらいか。ドヴォルが三体。こっちは門前に二十人。門内に二十人。でも)


 アーブの隣で弓を構える村人は緊張から汗を垂らしていた。話で聞くより実物を見ると怖くなるものだ。


(もう逃げられない。しっかりしろ!)


 スピナー達が叫びながら走り出した。アーブは深呼吸して、弓の射程に入るちょっと前に門前のラウに合図した。


「弓、構え!」


 号令に村人達は弓を引き絞る。

 ラウは手を振り下ろした。


「放て!」


 風を切る音が響いた。


「アルト、頼むぞ」


 モルは迫るスピナーに矢を射かけ呟いた。



 ***



 村の奥まで叫び声が聞こえた。


「始まったか」


「・・・」


 仮設治療所にはアルトとマール以外に三人の手伝いがいた。彼女達は震える体を抑え、怪我人が来るのを待った。


「君達、大丈夫だよ。門の方には大勢が戦ってる。教会騎士もいるんだ。僕達はここで待とう」


 マールは緊張している三人に声を掛けて、落ち着かせようとした。

 アルトは剣の柄を触り、門の方向をジッと見ていた。


 しばらく時が経つと、門の方から誰かが来た。アルトは誰なのか警戒しながら見定めた。


「マールさん、治してくれ!」


 近くまで来たのは二人の村人だった。一人は途中で倒れ、アルトは走った。男達は、そこら中に傷を負い、スピナーにやられたのだとわかった。

 倒れた男を担ぎ、治療所へ向かった。


「アルト君、その人は向こうに置いて治療して! 三人は消毒液を傷口に塗ってください!」


 マールが指示を出す。

 深い傷から処置をしていく。その間、男は『もう嫌だ』と繰り返し呟いていた。


「ちくしょう! あいつら、何が弱いだ!」


 マールが担当してる男が叫んだ。


「動かないでください! 君達、両手を抑えて!」


 痛みで暴れる男を抑え、傷を治療しようとするが抵抗される。


「アルト君、こっち手伝って!」


「落ち着てください!」


 男はアルトに強く抑えられて、やっと大きい傷を治せた。男は息を切らせながら、戻ることを拒んだ。


「あいつら、何本も矢が刺さってるのに生きてる。死んだ奴を踏み台にして柵を飛び越えて来たんだ!」


 泣きながら拒絶している男の話を聞いていると、門から続々と人がやって来た。怪我人だ。

 アルトは男を門の方向に向けさせ叫んだ。


「あんた、あれを見ろ! 大勢の怪我人が来てるんだ! あんたが行かないと誰が門を守るんだ!」


「いやだ!」


「くそ!」


「アルト君、落ち着いて。その人はいいから、他の人を治療するんだ。歩きづらい人がいたら、運んで来て」


「わかった」


 苛立つアルトに冷静な声でマールは指示を出し、アルトは従った。門にいるモルを思うと焦りが増していく。


(モルさん・・・!)



 ***



 モルは、斉射による弓を二回放つと弓を捨てた。スピナーに当たっているが、迫る速さを少し抑えるだけだった。柵に殺到したスピナーを物見櫓から弓を放つ者、柵の隙間から槍で突く者。攻撃は当たっているのに倒れない。


(森で戦った時もこんな感じだったな)


 二年前に戦った熊のような魔物も、斬りつけても気にすること無く動いていた。教会騎士が弱いといっても、所詮は魔物なのだ。


「中に入ったぞー!」


「!」


 柵の外でやっと倒したスピナーを踏み台にして、内側に何体か入って来た。


「うわぁぁ!」


 迫るスピナーに村人は剣を振りまわすが素早く避けられて、一撃を入れられた。尻もちをついた村人にスピナーが飛び掛かろうとした時、銀色の線が宙を走った。


「グヤァァ!」


「落ち着いて柵の外にいるスピナーを討つんだ!」


 門前に配置された教会騎士ラウの一閃がスピナーを両断した。


 剣を持つ者は入って来たスピナーと戦った。

 素早い動きに、翻弄されて戦う者達に傷を増やしていく。


 モルは騙しを入れてスピナーを斬りつけるが、浅かった。


(誘導すれば、斬りやすいのか!)


 同じ方法で何度か斬りつけるとスピナーは倒れた。周りは教会騎士以外が傷だらけにされていた。


「ハァ、ハァ。確かに、あの熊に比べたら弱いか」


 物見櫓からアーブの指揮で、門内にいた村人と交代しようとするが来ない。


(これを見たら、来ないよな)


 モルはアルトを連れて来なくて良かったと思い、背後に迫るスピナーと戦った。



 ***



 物見櫓にいたアーブは手を叩きつけた。


「くそ。やっぱり動かないか!」


 隣で弓を射ている者が驚いた。

 先程から交代するように指示を出しても、門前の光景を見て門内の村人達は動けないでいた。


「すまない。弓を放ち続けてくれ」


 アーブは焦っていた。この状況もだが、奥に控えるドヴォル達の動向が読めないことに。


(なんで、あいつらは来ないんだ? 止めを刺す機会を待ってる?)


 嫌な予感がするが、目前のことに頭を切り替えた。


「嫌だぁ!」


 門前に戦っていた村人が一人逃げた。


(しまった!)


 門内に逃げた村人を見て、戦っている人達の雰囲気が変わった。アーブは急いで近く置いた弓を戦うのを躊躇っている村人の側に放った。

 周りが驚いてアーブを見る。


「逃げるなら、スピナーの代わりに俺が討つ! 目の前を見ろ! お前達の仲間が必死に戦っているんだ。助けに行くんだ!」


 それでもまだ動かない村人の側にもう一発、矢を放った。


「次は外さない!」


「・・・うおぉぉ!」


 一人が叫びながら門前に走った。それにつられるように、他の村人も動いた。

 アーブが心の中で謝罪し、下のラウに叫んだ。


「ラウ! 入れ替えるぞ! 交代させるんだ!」


「わかった! 皆、一旦下がるぞ!」


 倒れた人達を引きずりながら、交代した。


読者のみなさまへ


今回はお読みいただきありがとうございます! 


「面白かった」


「続きが気になる」


と思われた方は、よろしければ、広告の下にある『☆☆☆☆☆』の評価、『ブックマーク』への登録で作品への応援をよろしくお願いします!


 執筆の励みになりますし、なにより嬉しいです!


 またお越しを心よりお待ち申し上げております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ