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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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破壊の到来

 

 モルとの約束後、胸に重い物を感じながら仮拠点となる仮設治療所の設置などをした。


(ミーナは、その時になったらどうするんだろう・・・)


 モルの話では、ミルテナとコーゼルからミーナを説得すると聞かされている。

 アルトの中で、皆を守りたい、助けたいという気持ちに嘘はない。だけど、これでいいのかと葛藤する。


 ここは、ただ住む為だけの村じゃない。ゴル村の皆が一からやり直そうと心を奮い立たせ、二年で拡張も出来た。アルトや色んな人達の活躍で皆が良い暮らしを享受していた。そして、新しい家族と過ごした第二の故郷。なにより、大切な想い人の故郷。

 自分みたいに、故郷が壊されて追い出されるような思いをミーナにさせないといけないのか。しかも、その足下には魔物との戦いで死んでしまうであろう、大勢のリンド村の村人の死体を踏み越えて。


「はぁ」


「モルから聞かされた計画で、溜息をついてるのかい?」


 思わず出た溜息を一緒に仮設治療所を立てていたマールに聞かれた。


「やっぱり、知ってるんだ」


「もちろん」


「その、・・・マールさんはどうするの?」


「モルと一緒にできるだけ粘るつもりだよ。アルト君達の時間稼ぎになるように。薬師たるもの、作れるのは良い薬だけじゃないからね。強酸や即効性のある毒も用意してあるんだ。素早いスピナーに投げて当ててるかわからないけど。ドヴォルには当てやすいらしい。ささやかな抵抗だけどね」


 そのマールの言葉に返事が出来ない。

 何故、モルやマールはこんなにも自分を守ろうとしてくれるのか。何故、一緒に戦わせてもらえないのか。


「マールさん、俺って頼りないのかな。二人が俺を大切にしてくれるのはわかってるけど、守ってもらってばかりで・・・」


 目に見えて落ち込むアルトを見て、マールは自分の思い語りかけた。


「頼りなくなんかないよ。むしろ、頼ってるんだ。モルはアリア達を、ミルテナさん達はミーナさんをアルト君に託しているんだ。必ず、守ってくれると信じて。さっき言ってくれたけど、僕は君を大切にしてる。だから、僕が託すものはアルト君自身だ。僕やモルが死んだ後、君は深く悲しむだろうけど、それでも託された人達と自分自身を守ってくれる。生き延びてくれると信じているんだ。その先の未来で幸せに笑ってくれてることを信じて。だから、頼りなくなんかない。信じ頼ってる」


 信頼と託される責任。その言葉がアルトの肩に乗る。

 理性だと、マールの言ってることが理解できる。でも感情は、モルとマール、リンド村を犠牲にして未来の自分が笑っている姿が想像できず、納得がいかない。


 悩み苦しんでいる様子のアルトにマールはこれ以上、掛ける言葉は無かった。言葉は尽くしたと思っていた。


 夜、モルは家族と明日の打ち合わせと荷物をまとめさせた。アリアはモルとアリルを包むように抱きしめた。その様子を見ていられずにアルトは自室へ行った。


「覚悟を決めないと」


 これから、背負って生きて行かないといけない重みを実感して目を閉じた。マーラの存在を感じる。この存在の中に、父と母と弟がいることを思い、願った。


「皆を守れるように力を貸して。父さん、母さん、ティト」


 しばらくすると、部屋をノックしてアリアが来た。


「アルト、となり座っていい?」


「うん」


 アルトと一緒にベッドに座ったアリアはアルトを抱きしめた。


「明日のことだけど、モルはああ言ってたけど、アルトの思うように動きなさい」


「え?」


「迷っているのよね? アルトにとって苦しい選択だと思う。あなたは私達、皆を大切に思ってくれてる。アルマさんの代わりでしかないけど、貴方を母親として心から愛してる。その時に思ったの。何がアルトにとって幸せか。間違いないのはミーナちゃんと結ばれることだと思う。けれど、ここを捨てた後にアルトが笑顔でいられるのか、私にはわからない。だから、後悔の無いように貴方の思うように動きなさい。私達を連れて逃げてもいい。魔物に立ち向かってもいい。私がアリルとミーナちゃんを守るから。アルトが一番良いと思うようにして。アルトの選んだ道を、どんな結果でも受け入れるわ」


「アリアさん、ずるいよ。決心しようと思ってた所だったのに」


「ふふ、ごめんなさい」


 アルトはアリアを抱きしめ返し、アリアはアルトの肩口で小さく謝った。

 扉の近くにいたモルは妻の言葉を静かに聞いていた。



 朝、物見櫓で見張っていた村人が遠くに向けて合図を送った。すると、村の鐘が鳴り響いた。

 その音に、村の全ての人に緊張が走った。


 魔物達が来た。

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