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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第四部:神権の礎 第一章:指輪の記憶
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再び、試練へ

すみません。予約投稿を忘れていました!

「クルマリスさんの『戦う意味を誤解していた』だけど。最初に聞いた時、俺は勝利だと思ったんだ。戦うからには勝たないと意味がない、みたいな」

「あぁ。俺も漠然と勝利ってイメージだった。でも、今なら目標達成の為の工程だって分かる。あとは、何かを守る事も当てはまると思うんだ」


 カルシアの言う通りだ。戦う意味と聞かれれば『勝つこと』と『守ること』だと思うだろう。だが、自分の戦う意味を思い返してみて、俺はそれ自体を目的化していたのだと気づいた。クルマリスさんは、カルシアから聞く限り兵士でもない一般人だ。カルシアと同じ認識でもおかしくない。そして、自分の誤解に気付き、試練へ挑み突破した。


 それじゃあ、クルマリスさんが気付いた戦う意味とは何か。ここで、ギャスラ副官の手記の一文『戦う事も、守る事も、命を未来へ繋ぐ為の手段にすぎぬ』が鍵になる。俺達の知るエグゾシアの英雄譚は、『迫るエスト軍から故郷を守る為に時間稼ぎをして、敵将を討ち取り、全員が戦死した』というものだ。


「英雄譚を聞いた時に抱いたエグゾシアの印象は、悲劇の勝者って感じだった。そう思うと、最初に俺達が考えていた戦う意味と似てるだろう?」

「確かにそうだな。前提知識として戦士なんだから勝利を追求するのは当然だとも思った」

「そこが、クルマリスさんと俺達の考えていた戦う意味への誤解なんだ。エグゾシアにとって戦う意味とは、その一文を素直に読めば、命を未来に繋げる事だと思う。その手段としての勝利がある」

「話は分かった。でも、それが分かった所で、あの試練を突破する鍵になるのか?」


 ここまでの話は、ギャスラ副官とクルマリスさんの言葉をもとに考えた、エグゾシアの思想だ。この思想を理解してしまえば、幻影世界から送り返される時、なぜお前に分からないと言われた理由を悟った。幽鬼を倒した時に流れ込んできた苦しみと、幻影世界で失敗した時に見せつけられる悲劇が、その裏付けだ。


「――あの試練の正解は、自己犠牲だ」

「自己犠牲?」

「うん。エグゾシアにとって戦う意味は、命を未来へ繋ぐ事。勝敗そのものに意味はない。――いや、救えた命の数こそが勝敗と言うべきかもしれない」


 ゴル村からリンド村に移住してしばらく経った頃、俺は神狼って呼んでいた使徒ナリダスへの復讐を考えていた時だった。成人した俺を、兄弟子のマールさんは仕事終わりにミーナが働く酒場へ行こうと誘ってくれた。楽しそうに笑いながら、料理と酒を味わっている人達を見て、マールさんはこう言った。


『失った命を数えるよりも、目の前にある今の命と笑顔を見るんだ。彼らが生きて笑っている姿こそが、命を預かる者への希望となる』

『この笑顔こそ、僕達の勝ち星だ』


 死を数え、怒りを募らせていた俺には、この言葉はとても胸に響いた。死に立ち会う事が多い仕事である薬師として、大切な教えでもある。時代や立場も違うけど、エグゾシアはこれと似た考えを持っていたのかもしれない。どれだけの命を救い、未来へ繋げるか。

 具体的な記録は無いけど、生前のエグゾシアは国や大義よりも自分の後ろにある命を守る事を重視していただろう。だからこそ、あの悲劇的な戦いが後悔として残っている。それなら、あの試練で相応しい行動は一つ。


 自分を犠牲にして、部下達を逃がす。


 カルシアの話を聞く限り、あの戦い自体は不要だったと俺は思った。史実だと、アーリシア連邦が反撃体制を取るための時間稼ぎの戦いだと残されている。だけど、俺には後付けの印象だった。それは結果論であって、当初の目的だったとは思えない。圧倒的な戦力差な上、援軍も来ない。獣人戦争を経験したから分かる。それがどれほど絶望的な戦いか。将軍であるエグゾシアが理解していないはずがない。


 それなら、なぜ全滅を覚悟で戦い続けたか。残念だけど、それは分からない。でも、深い後悔だけは理解できた。


 この一連の話をカルシアにすると、納得する様子だった。それに、自己犠牲という選択はまだ選んでいなかった。試すにしても丁度良いだろう。


「前半の意味と、エグゾシアの思想は分かった。でも、後半の一文の意味は?」

「大丈夫。その意味も理解してるよ。むしろ、あれを理解しないで挑むと失敗すると思う」


 後半の一文『一人を想う剣が、いずれ世界を救う剣となる』。これこそが、エグゾシアの強さと覚悟の象徴だ。その説明をすれば、カルシアは感嘆と恥ずかしさで頬を掻く。確かに、恥ずかしい部分は共感する。ギャスラ副官の手記だと、エグゾシアがこの話をしたのは、酒を酌み交わしている時だったらしい。真剣な内容だけど、酔いでこの想いを話したんだと思うと、エグゾシアに親近感を覚えた。


「よし、俺の覚悟は決まった。試練に挑んで来る!」

「あぁ。俺も近くで待ってるからな!」


 通路の先――悲劇の戦場へ、俺は身を投げた。

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