別れと家族と旅立ち
魔物との戦いで生き残ったゴル村の村人達は、自分達の出来る事に全力を尽くした。
次第に、怪我人も減り動ける者達が増え、少しづつ余裕が出来て来た。
動けるようになった者達は思い思いの行動をしていた。
ある者は、市場に並べられた遺体の側で悲しみ。
ある者は、壊れた家から遺品や大事にしていた物を探しだし、抱きしめていた。
ある者は、自分達の将来を考えボーッとしていた。
ある者は、生き残れた家族達と再会の喜びを分かち合っていた。
だが、皆はわかっている。生き残った自分達はこれからも生きて行かないといけない事を。このまま、留まり続ける事は出来ないと。
そんな中、隣村リンドに馬を走らせていたらしいモルが食料を持って帰ってきた。
その日、村長亡き今、村の役割を分担していた大人達が集まり話し合っていた。
アルトは怪我人達の治療にめどがついたので、ミーナに会いに行くことにした。魔物との戦いで傷を負って回復薬で治ったが安静にしていた。
安静にしている必要な『だけ』だったので、アルトは会えに行けていなかった。
寝ているかもしれないと思い、小さくノックをした。
「はい」
「ミーナ。身体は大丈夫?」
「アルト・・・。遅い! 来るのが遅い!」
「ごめんなさい」
「ずっと、待っていたんだから!」
クスクスと笑い、手招きをしてアルトを椅子に座らせた。
「意地悪してごめんね。村が怪我人とかで大変なのは知ってたから、来れないだろうな~ってわかってた」
穏やかに話ていたミーナは窺うようにアルトに尋ねた。
「アルマさんやオーロンさんの事は聞いたわ。理由はわからないけど、獣人達が私を狙って家を襲ったみたい。本当にごめんなさい。私を逃がしてくれようとしてアルマさんが・・・」
涙ぐむミーナの背を撫でながら、アルトは言った。
「ミーナが悪いわけじゃないよ。襲って来た獣人が悪いんだ。それに母さんもミーナが生きてくれて良かったって思うよ。それと、いま考えると今回の襲撃って全部ミーナを攫う為のものだったって思うよ」
「えぇ。家から逃げた時に、家を襲っていた獣人が追いかけて来て、市場に逃げたらアルト達が戦っていた獣人が一気に迫って来てた」
「最後は、棟梁っぽい獣人が儀式みたいな準備をして『たいこう』って呼ばれてた声に生贄にしようとしてたみたいだし」
「本当に怖かった。・・・でも、アルトが『約束』を守ってくれた。アルト、守ってくれて、助けてくれて、ありがとう」
涙を溢し笑顔で感謝を伝えるミーナにつられて、アルトも泣きそうになった。
(そうだ。ミーナを守れたんだ。父さん母さん、村の大勢が死んだけど、自分に出来る事を尽くしてミーナを守ることが出来たんだ)
二人は少しの間、泣いた。
「ねぇ、アルトはこれからどうするの?」
「とりあえず、村の復興を頑張るよ。薬師としても出来る事はあるだろうし。そういえば、いろいろあって忘れてたけど、リンド村のお父さんの薬とかどうなったの?」
「あれはモルさんが届けてくれたのよ。リンド村に状況の説明と食料とか分けて貰いに行くついでに」
「なるほど。そういえばモルさんもちょっと前に帰ってきたんだ。今、村の大人達と何か話し合ってる」
「そう。どうなるんだろうね」
その日の昼過ぎ、村の代表をしていた大人達が村人を集めて、話をした。
内容は『ゴル村の復興は難しい。リンド村と話し合った結果、受け入れてくれることになった。しばらくは老人や女子供を宿屋で受け入れてくれて残りはテント暮らしだが、順次、家を建設してリンド村を拡充させる。だから、ゴル村を放棄して皆でリンド村へ向かう』
と言う事になった。村人は賛成し、リンド村へ向かう準備も始まった。
話を聞き終えて立ち去ろうとしたアルトに声がかかった。モルだ。
「アルト、ちょっといいか。大事な話がある」
モルと一緒に白檀の木まで来た。この木ともお別れかと一抹の寂しさを思った。
モルは木にもたれかかるように座り、アルトを座らせた。
「アルト、村の代表者達と話し合った結果、未成年の孤児達は里親を決めて預かる事になったんだ。・・・それで、お前も、孤児になったわけだが、よかったら俺達の家に来ないか。俺はお前の事を弟のように思っているしアリアも賛成してくれてる。むしろ、連れてこいって言われてる。どうだ?」
「・・・・・・俺で本当にいいの?」
「当たり前だろ! お前には命を助けてもらって、アリアのもとに帰してくれた。その恩だけじゃない。オーロンさんやアルマさんにもたくさん世話になった。二人への恩返しを含めて、アルトの帰る場所になりたい! 俺達の家族になってくれ!」
内心アルトは、もう自分には帰る場所は無いと思っていた。それが寂しくも思っていた。
だけど、目の前にいる青年は自分達を帰る場所にしてほしいと言った。家族になってほしいと言った。
救われるような気持ちだ。一人じゃないと。側に居ていいんだ。
「モルさん、ありがとう。モルさん達の家族になりたい!」
「あぁ、あぁ。家族になろう」
涙を溢すアルトをモルは抱きした。
モルと別れたアルトは家に帰り、荷物をまとめた。これから必要な物、思い出の物、二人の遺品。
アルマの料理の秘訣が書かれたレシピブックと日記。昔、オーロンとティトの三人で読んだ薬草全集とウェールドの火酒。
それらを荷物に詰めて、モル家の家に行った。
「おかえりさない。アルト」
迎えてくれたのはアリアだった。『おかえり』の言葉に嬉しくなった。
「ただいま、アリアさん」
翌日、市場に置いていた遺体を木の台に乗せて、火をかけた。
じわじわと上る火に、ある者は、すすり泣き。ある者は、大切な人の名前を呼んだ。
大切な人達との永遠の別れ。
オーロンとアルマとの永遠の別れ。
でも、アルトは知った。あの夜、ティトの手を引き去っていたのは二人だったと。勘違いかもしれない。でも、ティトはマーラになっていた。それなら、あの三人は自分の側にマーラとなっているのだと。触れない。見れない。話せない。だけど、マーラを通して三人との絆は消えないのだと。
アルトはマーラの感知者なのだから。
一筋の涙を落とすアルトの手をミーナは優しく握った。
「出発するぞー!」
列の先頭にいる男が声をかけた。ゴル村とのお別れだ。村人達は荷物を持ち、リンド村へ移動を始めた。
アルトは白檀の木の屑を詰めた袋の香りを胸一杯に吸い込み、家族と過ごした故郷を、新たな家族と一緒に旅立った。
「さようなら」
これで第一章『夢』は完結です!
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。第二章も準備中なので、随時アップしていきます。今後ともよろしくお願いします。




