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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第四部:神権の礎 第一章:指輪の記憶
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原点の笑顔

 戦う事の意味。これを考えた時、すぐに思い浮かんだ事はある。それは、ミーナだ。ミーナだけじゃない。養子に迎えてくれた父さんと母さん。俺を産んで育ててくれた(オーロン)(エルマ)やマールさん。ジェットだってそうだ。ただ、それも理由だった。使徒ナリダスとの遭遇から始まった理由だ。


 理由も目的もあるのに、俺は何の為に戦っているんだ?」

 自分の意味の空白に気付いた瞬間だった。


「落ち込んで、どうしたんだ?」

「……何と言うか、自分の空っぽさに打ちのめされてた」


 カルシアは、試練を突破する手掛かりを探して古文書を読み解いていたが、その手を止めた。俺の向かい側の椅子に座った時、軋む嫌な音を立てる。


「カルシアに聞かれた、俺の戦う意味を考えていたんだ。でも、頭に浮かぶのは理由と目的と目標だけ。この戦いの意味が見い出せないんだ」

「それで空っぽって訳か。聞いておいてアレだけど、確かに意味って難しいな。成し遂げた先に意味ってある事だろうしな」


 それだ。俺は何も成し遂げてないし、到達点に来ていない。使徒ナリダスへの復讐は出来た。だけど、あいつを含めた使徒達による、リンドア征服の目論みは潰えていない。マス・ラグムを倒した事で、今回の勇者戦争を乗り切っただけだ。命への価値観の変化も、獣人戦争を切っ掛けとしたファーレン伯爵家と、その周囲に限られていた。大きく動いていくのは、ラキウスによる教皇親政後の話だ。


「何だか、滑稽だな。自分の戦う意味も分からない俺が、世界平和や優しい世界の為に戦ってるって」


 湧き上がるやるせなさを溜息に混ぜた。そんな俺の様子に、カルシアも顎を撫でながら考え込んでいた。


「ごめん。今は、クルマリスさんが書き残したヒントを考えないとね」

「……思ったんだが、アルトが剣を取ろうとした原点って何だったんだ? どんな事があって、軽く扱われる命への価値観を変えたいって思ったんだ?」


 剣を取ったのは、ティトが殺されたのを機に、強くなろうと決めた時だった。その後、ミーナと出会って、迫る恐怖と戦う決断をした時だ。命への価値観は、初めて首都へ行く時に人々の悲しみと怒りや現実を知ったから。


「その原点こそ、今の戦う意味があると思う。意味って言葉だけを見れば遠大な存在だけど、どんな事にもそこに至る為の原点があるはずだ」


 剣を取った原点、戦いを始めた原点、命を慈しもうと思った原点、命の尊さを知った原点。それに気付いた瞬間、星々のように輝きを胸の内に感じた。目を閉じれば脳裏を駆ける、忘れる事の無いたくさんの光景。点だった光が線に変わって、広がり伸びていく。


「ミーナ」


 零れ落ちるように、大切な女性の名前が出た。無性に、ミーナから貰った指輪を触りたくなった。指輪の宝石は、普段の輝く緑色から薄ら青に見える時がある。その青に変わる度、ミーナとの繋がりを強く感じた。まさに、今がそうだ。


「愛してる人を守ろうと剣を取ったんだ。それから、色んな事があって世界の脅威から大切な人達を守ると、教会騎士にもなって戦いを始めた。戦いの日々の中で知った、命は軽いもので踏みつけられる現実。奴隷の事もあったけど、その足が彼女や大切な人達へ向かないようにしたかった」


 カルシアは何も言わず、静かに話を聞いてくれる。肘を机に付き、組まれた指に顎を乗せていた。見覚えのある姿に、思わず笑った。

 まるで、リークトがそこにいるみたいだった。リークトとも、色んな事を話している時に、思わぬ気付きを与えられた事があった。本人は嫌がってたけど、皆は教会騎士よりも教師の方が向いてるってからかったな。

 思い浮かぶ懐かしい顔を避け、原点に意識を戻した。


「俺の原点は、戦う意味は、ミーナの笑顔を守る為なんだ。ミーナが笑顔でいられるように、彼女を守り、ミーナが大切にしているものを守ろうとして来た」


 リークトに似ていると思うと、話しているのが恥ずかしくなって来たな。それでも、ミーナの名前を出す度に胸が温かくなる。恥ずかしさと引き換えに、大切な気付きを得たような気分だ。そして、強く感謝した。


「俺が背負っていた世界平和や優しい世界って、いつの間にか外向きの想いになってたんだな。でも、カルシアのおかげで本来の想いに戻れたよ。ありがとう」

「おう。それなら良かった。何か、そんな笑顔を向けられると照れるな」


 頭を掻きながら顔を背けるカルシアの言葉で、自分が笑っていた事に気付いた。だけど、まだ感謝の想いは続く。それは、道が拓けたからだ。


「照れてる場合じゃないよ。今の話で、ギャスラ副官の手記とクルマリスさんの手記の意味が見えてきた」


 照れた表情から、一瞬で驚きの顔に変わった。

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