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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第四部:神権の礎 第一章:指輪の記憶
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英雄の号令

「多分、この先が試練だ」


 カルシアが手帳と通路へ視線を行き交わした先に、光の入らない濃い霧が満ちていた。マーラの動きも感じる。


「この先に何かいる。カルシアは、ここで待っていて」

「一人で行かない方が良い。何の試練があるのか知らないが、ヒントは俺とこの手帳にしかない。一緒に行こう!」


 言ってる事は分かるけど、段々と幽鬼も強くなっていってる。試練が戦う事なら、カルシアは置いていきたい。でも、俺にはここの知識がないのも真実だ。


「絶対に、離れないでね」


 視線の攻防の結果、ついて来てもらう事にした。霧に手が触れると、一閃の輝きに視界を奪われた。


「隊長、エスト軍の総攻撃です!」

「西側の壁は占領されつつあります……それとギャスラ副官、戦死!」

「……先に逝かれたか」


 目を開けると、火と怒声が溢れる戦場にいた。頭上には大きな石が通り過ぎて建物を破壊する。周りには、さっきまで戦っていた幽鬼の装備をまとう兵士に囲まれている。こっちを見る人の中には、幽鬼とそっくりな顔の人もいた。幻覚とは分かっていても、生々しい光景に汗が伝う。


「そうだ、カルシアだ。カルシア、どこだ!」


 囲う兵士は俺の呼びかけに戸惑い、「カルシアとは誰か」と聞かれた。その様子は本当に存在するかのようだ。


「アルト、ここだ。そっちに行くぞ!」


 戦っている兵士を避けながらカルシアは身を低くして、側まで来ようとする。だけど、兵士達は俺との間に入り立ち塞がる。


「止まれ! 見慣れぬいで立ち、エストの間者か?」

「隊長、お下がりを」


 突然剣を突きつけられ、カルシアは尻餅をついた。斬られそうになる焦りから、兵士にやめろと叫ぶ。すると、彼らは剣を下ろし従う。


「隊長、敵将を確認しました! ご決断を!」


 櫓にいた兵士が決断を求めて来る。兵士の格好からアーリネス連邦の人だ。そして、彼らは俺を隊長と呼ぶ。


「カルシア、もしかして……」

「そう言う事だろうな。ここは、戦闘の終盤なんだろう。なら、史実に沿って命令してみよう」

「あぁ……これより、エスト軍へ突撃するぞ!」


 俺の号令が砦に響き渡ると、一瞬の静寂から歓声に変わった。


「エグゾシア・ゼトー!」

「ピュライ・ウラヌー・アノイフタイ!」


 この言葉を何度も叫び、兵士達は門前に集結する。意味は「エグゾシア、万歳」と「栄光の門は開かれた」とカルシアが教えてくれる。やっぱり、この幻覚では俺はエグゾシア役になっているんだ。

 そして、開門と同時に迫るような激しい光に視界が奪われた。


「これ、は……」

「うぷっ」


 広がる光景は凄惨なものだった。さっきまで決断を求めていた人達、歓声を上げて突撃した人達が軒並み酷い傷を負って地面に転がる。言葉へし難い惨状に、見慣れないカルシアは胃の不快感を堪えられなかった。橙色の夕日が、肉と赤い地面を照らす。

 呆然としていると、足を掴まれた。驚いて振り払うと、そこには島に上陸して初めて戦った幽鬼と同じ顔をした青年が、斬られた顔で見上げていた。


「隊長、たすけて。ぐふっ」

「エズィ、なんで逃げた……」

「痛い、痛い!」


 俺を見つめる瞳には憎悪と苦しみが満ちている。苦悶と恨み言を呟きながら、体を這い上る死体に覆われて意識が途絶えた。


『愚か者め』


 最後に聞こえた、呟きには呆れが含まれていた。

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