志した姿
市場を離れたアルトは家に向かった。帰った家の扉はガタガタでどれだけ激しく攻撃されたのかわかる。
中に入ると、床に血の跡があった。
(ここで母さんが・・・)
家は暗く静かで、アルトが歩くと軋む音が響いた。
(床って、こんなに軋んでたっけ)
自分の部屋に行くと変わらない光景だった。ベットに横になり、ボーッとする。
アルトはいつの間にか眠っていた。
朝、目を覚ますと自分の部屋の天井だった。今までの事が夢だったのではと思ってしまうが、痛む右腕が現実だと教えてくれる。
起き上がり、アテも無く歩くと、白檀の木に来ていた。そこには先客がいた。
「よっ。・・・さすがに、今日は何も言えねぇわ」
「ジェット。親父さんは?」
「魔物にやられた。魔物ってあんなに怖いんだな。聞いたけど、お前、あんなのとよく戦ったよ」
アルトとジェットはしばらくボーッとしていたが、ジェットが自らに問いかけてるような質問をした。
「アルト、お前、これからどうする?」
「わかんない」
「そうか。・・・それじゃ、俺いくよ」
ジェットはどことなく去って行った。
(これからどうするか)
これからのことを思い巡らせた。
オーロンとアルマはいなくなり、アルト一人になった。残ったものはマーラという力だけ。
「そうだよ、俺、マーラが使えるから教会に行かないといけないんだ・・・」
かつて、自分にマーラを教えてくれた人の言葉を思い出した。
(まぁ、いっか。ここには何も残ってない。教会騎士か)
漠然と教会の事を考えながらアルトも白檀の木から去った。
広場に行くと相変わらず、遺体が並んでいる。両親が横たわっている場所を眺めていると、通り過ぎる誰かから、明後日、火葬が行われると聞こえた。
フラフラと村の集会所の近くを通ると、マールから声を掛けられた。
「アルト君! よかった。急いで初級回復薬を作ってほしい。そろそろ無くなりそうなんだ。材料は店にあるから!」
「え・・・」
「ん? ・・・そうか」
アルトの返事にマールは少し考えて、荷物を置き体を掴み話した。
「アルト君。両親を亡くして茫然自失になるのはわかる。けど、周りを見て。今、村で生き残った人達の大勢が怪我をしてる。オーロンさんがいない今、彼らを治療できるのは僕達しかいないんだ。周りを見て」
アルトはゆっくりと周りを見た。
怪我をしてる人。それを介抱する人。今日の食事をつくる人。荷物を運ぶ人。
それぞれが、自分に出来る事をしている。
「皆、出来る事をやってる。僕達に出来る事は薬を作り治療し、怪我や病を治すことだろう。アルト君は、ただ薬が作れる人になりたかったの? オーロンさんみたいに皆を助けれる人になりたかったんでしょ。それなら今だよ! 君のお陰でモルとミーナさんは助かった。今度は、村の皆を助ける時なんだ」
マールの言葉に衝撃を受けた。今、必要なのは『マーラを使えるアルト』じゃなく、『オーロンから薬を学んだアルト』なのだ。
「こんなことに気付かないなんて。俺、バカだ」
「それでも、自分で気付けた。ジェット君よりは賢いよ。彼、こんな時にぷらぷらしてたから、ビンタして薪を集めさせにいかせた。僕のビンタは、昔、モルを泣かせたぐらい強いんだから!」
アルト君に使わなくてよかったっと言ったマールに、初めてちょっと怖いと思った。
「どのくらい薬いる?」
「とりあえず、十二本! そのくらいあれば、集会所の人達の傷は癒せる」
「わかった。それなら薬を作ったら、集会所の面倒はみようか?」
「それがいいね。僕は、外の人達の治療をするよ。終わったら行く」
マールと手分けをして行動に移った。アルトは走って店の中に入った。
「良かった! 店は無事だったんだ。急いで作らないと!」
(自分の出来る事で皆を助けるんだ。そのために、今まで頑張って来たんだ)
心を切り替えれたアルトは薬を作り、集会所の怪我人の治療にあたった。
その姿は、ティトを失った時に志した姿であった。
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