連載二周年記念エピソード:夜空へ流れる灯火達
本日、連載二周年です。最初は十万文字程度の物を書こうと思っていたら構想が膨らみ、百万文字も書いていました。それでも、まだまだ終わりではなく続きます。この物語は第七部まであります。最後まで、教会騎士アルトの物語を書けるよう頑張っていきます!
それでは、連載二周年記念エピソードをお楽しみください!
これは師匠マードックと旅をしていた頃の話。
◇
夏の盛りオーリエスの月では、各地の農村で大地と農作物に感謝をする儀式が行われる。この時期になれば、農作物の収穫予想もつく。ゴル村やリンド村でもこの儀式が行われ、その後には祭りが催された。ミーナの家族が営業する、宿屋エイドを開放して大賑わいだった。数少ない平民の娯楽だ。
今、そんな大切な娯楽を壊すような連中と俺は戦っている。道の先にある村へ向かおうとしていた商人を襲う賊と遭遇した。下級騎士になってから、指導役についた上級騎士マードックの方針で、単純作業は俺一人で処理するように言われている。例え、十五人いる賊相手でも一人で戦えと言う。戦う技術があっても、実戦で活かしきれないと意味が無いからと。
「戦闘の基本は、知、技、体だ。お前は知が先行している。しかも、マーラで大きく補助をしながらな。マーラだけに頼らず、知と技を磨け」
鞘に括りつけた剣を振り下ろし、やっとの思いで四人を倒した所で、後ろから声が掛けられる。マードックは、魔物を除いて必要以上に殺しをするのを嫌う。俺も嫌だけど、打撃だけで相手を倒すのはとても難しい。斬る事との違いを実感する日々だ。
「ハァ、ハァ。マスター、捕縛できました」
「良くやった。商人さん、近場でこいつらを投獄できそうな場所はあるかな?」
「そ、それでしたら。私が向かう先の村は牢があるので、近場の町から引き取りがあるまで、そこに入れるのはどうでしょうか?」
商人さんは、俺一人で戦わしていたマードックを見て引いていた。こうして、縄で縛った賊を連れながら村を目指す。行き先の村も祭りを催すみたいで、助けられたお礼にと、祭りでの特別な料理をご馳走してくれると約束してくれた。最初は金銭を渡そうとしていたけど断った。マードックは何故かお金持ちだ。
商人はその村の出身らしく、顔が効くと言う。
「わぁ。こんなに大きな祭りなんですね!」
「私も久しぶりにこれ程の祭りを見ました。きっと、今期は豊作なのでしょう。あ、村長さーん!」
商人さんは、祭りの準備をしていた村長を見つけ話に行った。賊は村の頑丈な牢へすし詰めにされる。村長は俺達を歓待してくれると言うので、そのお礼に祭りの準備を手伝った。身体強化を使えば、重い荷物もへっちゃらだ。恐らくは、祭りの期間だけとは言え二人も教会騎士が居てくれるのは、村の安全にとってありがたいと思ったのかもしれない。
◇
夜。静謐な空気の中、マードックは飾りの付いた杖を両手で持って、木彫りのプルセミナ像に聖句を唱えている。本当なら、村の代表者がする事だけど、教会騎士がいるならとお願いされた。マードックの手伝いには俺がつき儀式は進行する。そして、締め括りとして収穫前に刈り取った麦の束を、木彫り像の前に置き焚き上げた。この煙が、プルセミナ教会の教えに出て来る天国「マダルモア」へと昇っていく。
そして、祭りが始まった!
木彫り像が置かれた広場を囲う様に露店が開かれる。子供は赤や青色の花で編まれた花冠を乗せていた。それは村の言い伝えが由来だった。大昔の戦争で麦種も残せない程の状況になった時、一人の行商人とその子供が村に来た。行商人は哀れに思い食料を分け、子供は首下げ袋に入っていた全ての麦種を渡した。行商人の故郷では、豊穣の神様に捧げられた麦から種を取り、お守りにする風習があった。その時の麦種を散らすと、収穫期には大豊作になった。その子供が花冠を乗せていた事から、子供と行商人への感謝ともう一つの理由があった。
「言い伝えの子供が、この祭りへこっそり遊びに来ても、誰も気付かないように同じ格好をさせているのです。ほら、霊に触れると別の世界へ連れて行かれるって話を聞くでしょう。だから、我らには秘密で祭りを楽しんでもらえるようにってね」
「確かに他の地域でも霊の話はあるな。なるほど、言い伝えと今の融合か」
「えぇ。もしかしたら、寂しがっているかもしれませんが、人知を超えたものには心を込めて祈りを捧げるのが精一杯です。それに、あなたの事は忘れていませんよって伝える意味もありますから」
村長さんの話す声には温かさが籠り、その子供への感謝の気持ちが良く伝わった。きっと、その子も安心してひっそりと祭りを楽しんでいるに違いない。
その子供が与えた麦で作られた、村特製の白いパンはモチっとした不思議な弾力があって微かに甘い。これに濃厚なビーフシチューを浸して食べると思わず笑顔になる。これが祭りの時に出される特別な料理だった。
「これは、リュートか?」
広場の隅から音楽が聞こえて来た。リュートだけじゃなく、様々な楽器を合わせて演奏会が始まった。賑やかで楽しそうな音が当たりに響く。マードックは演奏を聞きながら、指を動かしていた。足ではリズムを取っている。
「マードック様も演奏されてみますか?」
「良いのか? それでは、リュートを貸してもらえるか」
「えぇ、えぇ。どうぞ!」
演奏が一度終わった所で、マードックの様子に気付いていた村長さんが勧めた。断るかと思っていたけどリュートを受け取り、その場で弾き始めた。
「おぉ~」
「あの騎士様、上手だなぁ」
村人が弾いていた賑やかな曲じゃなく、軽やかで子守歌のような曲だ。丁寧に弾かれるリュートの音に、周りは少し体を揺らしながら聞いた。演奏が終わると大勢から拍手をされる。
「マードック様はお上手ですなぁ。この辺りでは聞かない曲ですね。一体、どこのもので?」
「これは私の――友人から教えてもらった曲だ。プラド地方北部の子守歌と交えて弾く曲らしい」
村人からは別の曲も聞きたいと求められ、もう一曲始まった。それは寂しくもあり情熱が込められたものだった。、まるで夏の夕日を見ているかのような曲。夕日が沈み始めて暑さは和らぐが、一日の終わりを寂しく思う。そんな曲だ。この時期の祭りにぴったりだ!
「騎士様、すげぇ良かったよ!」
「その曲、教えてくれ」
「おじさん、もう一回聞かせて!」
村人の声に負けて、もう一度弾き始めた。リュートを見つめる瞳は懐かしさを含み。表情は笑っていた。教えてくれた友人の事を思い出してるのかな。
露店の賑わいと静かで情熱的な曲が祭りを盛り上げた。
◇
祭りが終わると、村人達は川にやって来た。この日の締め括りで、珍しい物を見せると言われついて来た。小さな明かりに地面が照らされるとランタンがたくさんあった。
「このランタンは何ですか?」
「これは周りに張られた紙へ願い事を書いて、空に飛ばすのです」
そう言って、一つ見本を出してくれた。小さなロウソクに火を着けると、ランタンがゆっくりと浮き上がる。
「女神様のもとへ、願いが届くようにと作られた物です。良かったら、お二人も如何ですか?」
「マスター!」
「分かった、分かった。村長殿、二ついただこう」
「はい。あ、願いは一つだけですよ。何個も書いたら、女神様も困るでしょう」
色々な願いを書こうかと思っていたけど、先回りされてしまった。どんな願いを書こうか迷う。この気持ちを一つにするのは難しいかもしれない。
隣を見ると、マードックは書き終わっていた。
「マスターは何を書いたんですか?」
「食いしん坊の弟子が、早く料理が上手くなりますようにってな」
「酷い! けど、言い返せませんね。うーん、どうしようか」
「迷った時は、願いの共通点を探ると良い」
共通する物。願いの理由を掘り下げていくと、見えて来たものがあった。それを書き込み、空へ上げるのを待つ。
「皆、書き終えたみたいじゃな。それでは、空へ飛ばそう。女神サドミア様、救世の巫女プルセミナ様。どうか、我らの願いが御許まで届きますように!」
火を渡し合いながらランタンが空へ浮かび始めた。俺とマスターのランタンも浮かんだ。
「少し演出を入れるか」
マードックはそう囁いて指を動かした。
「あ、お母さん! ランタンがお月様に行ってるよ!」
「こりゃ良いな。珍しい事もあるもんだ」
わずかに吹いた風が、たくさんのランタンを月へと向かわせていた。まるで、地上から月へと延びる階段のようだ。
「ほほほ。これだと、本当に女神様達のもとへ届くかもしれんのう」
皆が月を見上げる中、風の原因をマードックに聞こうとすると人差し指を口に当てていた。やっぱり、マードックはすごい。マーラを使ってこんな事が出来るなんて。
月へと流れていくランタンに俺の物が見えた。
『皆が、無事でいてくれますように』
ロウソクの優しい明かりに照らされた願いは、ずっと遠くへと飛んで行った。
『三人へ、安らぎを』
マードックは嘘をついていた。誰かへの安らぎを願い、月へと向かわせていた。




