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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第三部:希望の継承者 第二章:砂塵は心を削りて
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隠れ里ジュナン

臨時更新

 山間に入ると干からびるような暑さから、爽やかな涼しい風を感じられるようになった。久しぶりに香る草木の青っぽさ、鳥のさえずり。この地域には命が宿っている。そう、命の気配が強すぎる。動物とも思えない、何かの存在。

 デモンスの指輪は、方向を変えながら俺達を導く。獣人達も久しぶりの緑に、初めて見るような顔になってる。森は切り拓かれ道とは言えないけど、大きなコブトカゲも通れる広さだ。


「隠れ里への道って言う割には拓けてるよね。これだったら、山まで来た人なら隠れ里に行けるんじゃないの?」

「そう思うだろ。でも、行けないんだ。この気配を感じているだろう? この力が山に入った者を惑わし、隠れ里までへの妨害になっている。正しい道順じゃないと辿り着けない」

「それなら、この力は何?」

「オムニス・グラモアの力だ」


 隠れ里に安置されている秘宝。聞けば、最初はここもただの枯れた山々だったらしい。それでも草木や水が他に比べてある事から、歴代のニクス家が最初に緑地化へ取り組んだ場所だった。

 そうして緑地を広げていく内に、山を掘削して作られた神殿を見つけた。誰もいないのに、当時は貴重だったパルメラ石の灯りに照らされた荘厳な神殿。奥に進むと、大蛇が太陽を呑み込む様な巨大なレリーフがあった。周囲の壁には奇妙なフレスコ画が描かれている。調べていく内に、巨大なレリーフは仕掛けが施された扉だと分かった。開いた先には玉座と祭壇があり、謁見の間を思わする場所だった。その祭壇にオムニス・グラモアが安置されている。巨大なレリーフの扉が開けられてから、空間に溜まっていた力が流れ出たかのように、山々は不思議な力に覆われる。


「緑地化をするよりも先に、一帯には草木や綺麗な川や水が生まれた。すぐに動物も住み着いた。多分、オムニス・グラモアの力なんだろう」


 それから、ニクス家と盟友関係だったセレス家に協力を求めた。星の民と言う知識を貪欲に求める民族柄、すぐに神殿と不思議な本と思われていたオムニス・グラモアの調査が始まった。オムニス・グラモアは光の縄みたいな物で封印され開けなかった。ただ、マーラの感知者達はオムニス・グラモアから感じる力を恐れて、本以外の部分を調査した。そこで神殿や周囲に書かれていた文字から、当時は知識の神と崇敬されていた使徒マグナスに関係する物と判明。そう思い、前の部屋に描かれていたフレスコ画を見ると、世界の始まりから、その後の出来事を記しているような内容だと考えた。


「その後はエスト帝国の崩壊や混乱の時代で、調査が止まり資料も喪失した。調査拠点だった場所は、迫害を逃れた亜人種や人間達の隠れ里になり、彼らには神殿と隠れ里の守護者の役割が与えられた」

「そうなんだ。使徒に関係する場所か……ちょっと、心配だな」

「確かに、アルトの話を聞いた後だと心配になる。オムニス・グラモアにも何か異変が起きているらしい。ただ、隠れ里が危険だとしても、他に行く場所が無いにも事実だ。何も起きない、と言う期待に甘えるしかない」


 幸いなのが、隠れ里の先住民は排他的じゃなく、連れている獣人達を受け入れてくれる事だ。今回だけじゃなく、今までにも隠れ里に匿われた人々がいるから、外の世界にも理解がある。この先、疲れが癒えた頃に仕事を与えられ、一緒に暮らしていく事になるだろう。砂隠れ作戦が決まってからは、先に家や住む場所の用意が始まっているらしい。心配事が減って気が楽になる。


 山の上り下りを繰り返すと、大きな崖に来た。崖には頑丈な門が設置されている。周りの木々からは気配も感じる。あれは、木に見せかけた櫓だ。こっちの様子を窺っているとラーグの姿を見て番人が現れた。それは、エルフだった。


「ラーグ様、お待ちしておりました。開門!」


 重々しい音を立てながら門が開かれる。崖をくり貫かれた暗い一本道を進んで行くと、広がった光景に声が出た。晴天の空のもと、近くには滝が流れて獣人やオークの子供達の遊ぶ姿。軋む音を立てながら回る水車の側で職人らしいオーク達が話し合ってる。畑には麦畑や農地が広がり、人間族やエルフ族が家畜の世話や農作業をしている。案内されるまま道を進むと、広場では大人に混じって子供達が剣を楽しそうに振って体を鍛えてる。それは強制されたものじゃなく、遊びを交えて自分の意思でやっている。こっちをチラリと見ては、教官らしい人に注意されていた。

 隠れ里の風景は特別なものじゃない。風景以外が特別なんだ。それぞれの種族が、一緒に遊び、一緒に仕事をしてる。連れて来た獣人達は凝視するように暮らす人々を見る。


「アルト、皆。ようこそ、隠れ里ジュナンへ!」


 ラーグの声に、呆然としていた意識が戻った。着いた先には大勢の亜人種や人間が待っていた。


「これから、ここで皆は新しい人生を歩む。ここには誰も皆を強制する人はいない。鞭を打つ人も、蹴飛ばし笑う人もいない。君達は自由になったんだ!」


 ラーグの言葉に、喜ぶ人や泣く人。祈る人達がいた。ジュナン、砂漠の民の言葉で『楽園』と言う意味だ。


 ◇


 今、目の前では歓迎の宴が行われている。ジュナンに着いた後は、荷物を先住民が受け取って家に案内したり、休息を取る時間となった。そして、夜は肉や魚や野菜などが振る舞われた宴をする。戸惑う皆に、周りはお構いなしと料理や酒を持って来る。温かみのある態度に、昔を思い出したのか泣く人も多い。

 やっと、安心できたのかもしれない。今までの苦役に、獣人戦争や砂漠越え。どれも決して楽な日々じゃなかった。やっと、素直に泣ける日が来た。それを励ましながら、見守りながら宴は盛り上がる。


「アルトさん、魔法見せて!」


 もう友達になったのか、先住民の子供達と一緒に皿へ積み上げられた料理を持って、マーラの技を見せてほしいと寄って来た。期待の籠ったつぶらな瞳を裏切る訳にはいかない!

 マーラを浮かび上がらせて、動物を象り周りを走らせた。子供達の喜ぶ光景に、調子に乗って火の玉を作ったら、包帯が巻かれていた手に燃え移った。それに気付いたラーグが慌てて水を掛ける。ラーグに怒られる様子を見て、皆が笑っていた。その笑顔に陰りは無い。本来の笑顔を取り戻せたんだと思う。


 翌朝、滝の近くに行くとヤウィンが寝転がりながら、小さな鉛筆を使い紙に何かを書いていた。


「ヤウィン、おはよう。何を書いてるの?」

「ビックリした! これは――内緒。完成したらアルトにも見せてあげる」


 紙を丸めて持って、見られないように木に登った。微かに見えた拙い文字には、『ヤウィンの旅行記』と書いてあった。


「アルト、今までありがとう。アルトのお陰で、すごい世界をいっぱい見られたよ。天国に行ったお父さんにも、ジュナンの事とか砂漠の世界やすごい盗賊に会ったって、手紙を書くんだ! だから、僕達を助けてくれてありがとう!」


 向けてくれた笑顔を見て、心が救われた。ナーリクの想いを実現できるか、いつも不安だった。たくさん遠回りしたけど、やり切れたんだと思えた。全員無事とは言えないけど、たくさんの笑顔を残せた。いつか、ナーリクに会った時は怒られるかもしれないけど、怒りを和らげてもらえるように、これからも亜人種と呼ばれる人達を助けていこう。


 分断の歴史を終わらせ、統合される未来を信じよう。未来を築くのは生者にしか出来ない。その未来の為にも、これからも自分の信念を通して進もう。その先に待っているのが、あの人であろうとも乗り越えてやる。


 バクル伯爵。あなたの望む未来は、俺が阻止する。

次回、第三部最終話!


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