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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第三部:希望の継承者 第二章:砂塵は心を削りて
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幕は降りて、伝説の終演

すみません!

曜日を間違えていました。昨日分の更新話です。

 二人に斬られ続けるクッラーファには傷が確かに増えている。致命傷になる傷も回復が遅い。生命探知で見ても、生命のマーラの輝きが弱くなってる。


「もう一回、雷撃を!」


 だけど、限界が近かった。あの一撃でマーラをたくさん使い、めまいが起きて集中できない。両手は雷で火傷もした。


「アルト君、もう良いわ。あとは二人に任せましょう。それよりも、手の治療をしないと!」

「でも……」

「君は十分に活躍したわ。手柄の独り占めはダメよ!」


 ラーファディさんが茶化すように笑い、震えていた俺の手を握り雷撃の準備を止めた。イス・メルダさん達が手当の準備をしてくれる。その間も、揺れる視界の中で戦いを見守った。


 クッラーファは、雷撃の麻痺から回復して体を動かし始めた。さっきまでの俊敏さも無い。


「頭ぁ!」

「戦え、頭!」

「あんたは俺達の伝説なんだ! 負けるなぁ!」


 マーウ・ザハブの団員の叫びが切っ掛けだったのか、弱っていた瞳に力が戻った。そして、フマディン卿達を蹴り払い距離を取った。剣を構え直した体には切り傷が残り、それでも不敵な笑みを浮かべた。


「……お前ら、私を働かせすぎだろう。さっさと逃げれば良いものを。だけど――そんなバカなお前らが誇らしいよ」


 戦いが始まってから、マーウ・ザハブは誰も逃げていなかった。誰もが必死に戦っている。それは、盗賊なんて呼ばれる人達の姿じゃない。


「クッラーファ、もうやめろ。限界が近いのは分かっているだろう?」

「あぁ。だがな、限界なんて、いつもあった事なんだ。自分では、理解できないような物事にだって挑み、限界の一歩を踏み越えた」


 言葉に詰まりながら、話すのが苦しくてもフマディン卿に自分の想いを伝えてる。


「北に輝く一つ星だけを頼りに、荒野を歩き。水の流れを聞き、草木を払い森を走る。限界の時でも、たった一つの希望が一歩を踏み出す勇気をくれるんだ」

「それなら、もう希望はないだろう。俺を倒しても、お前の状態ではラーグまで倒せない。それに、隠れていた領軍がここ集結している。逃げ場はないぞ。伝説に幕が降ろされる時が来たんだ」

「お前は、頭が固いな。愛情を宝だと言ってるのに、分からないのか? 私の希望が?」


 クッラーファが視線を向けた先には、泣きながら応援をする団員がいる。亜人種や人間族なんて種族も関係なく、誰もが自分達の頭領を応援している。


「虐げられて泥をすするような生き方しか出来ないこの世界で、あいつらが常に私の希望だった。宝自体なんて、どうでも良いんだ。苦労して宝を見つけ、共に喜び合える仲間が一番の宝なんだよ。一人じゃあ、得る事の出来なかった喜びを、私は手に入れた。だから、諦めない。危機を脱して、マーウ・ザハブはこれからも走り続ける! オムニス・グラモアは私が追い続けた夢だ。私の夢は、こいつらの夢でもある。まだ、夢から醒めるには早い!」

「……ラーグ、下がっていろ」


 クッラーファの、弱々しくなっていた生命のマーラの輝きが強くなった。まるで、命を燃やすように。クッラーファは、静かに見守っていた一人の団員に口だけを動かしてた。それを見た人は小さく頷き、拳を握りしめた。


 ピリッと張りつめた空気が漂う。向かい合ってる二人は分かっているはずだ。この攻防がお互いの最後になる事を。そして、微かな風が砂を舞い上げた。

 クッラーファは全力で身体強化を使い、フマディン卿の目の前に現れた。頭上からの大振りの攻撃が、素早く降ろされようとする。ただ、胴体の守りを捨てた攻撃だ。その隙を突けば、フマディン卿の勝ちだ。そんなチャンスを、フマディン卿は捨てて二歩下がって避けた。そして、クッラーファの右へ回った。


「老いてたな……」


 微かに聞こえた、クッラーファの呟きと一緒にフマディン卿の剣が振り下ろされた。


「……勝った」

「勝ったぞ!」


 起き上がらないクッラーファを見て、周囲から歓声が上がった。


「マスター、今のは?」

「サハールエルフの剣術だ。隙になっている胴体を狙えば、体を捻って防御後に剣が弾かれる。こっちが怯んでいる内に、反撃の一閃だ。やっぱり、老いていたじゃないか――クッラーファ」


 そうか。フマディン卿は何度もサハールエルフと戦ってるから、今の戦術を知っていたんだ。クッラーファの呟きの意味は、それを思い出したから。


「お前達、動くな!」

「良い。行かせやれ」


 声の方向を見ると、団員がクッラーファのもとに行こうとしている。フマディン卿は制止しようとした獣人を止めた。


「頭……」

「ありがとな、頭領」

「クッラーファ――良い夢だったよ」


 団員達はクッラーファの体に手を当て、感謝を呟いていた。こんなに尊敬されていたんだな。


「フマディン卿は、クッラーファを殺したいですか? それとも、逮捕したいですか?」

「それは、どういう意味だ?」


 ラーファディさんに支えてもらいながら、フマディン卿の側に行った。俺の質問にラーグも意味が掴めず戸惑っていた。


「今なら、クッラーファを助ける事が出来るかもしれません――それに、恩があるから」


 俺は、服に入れていた赤い液体が入った小瓶を出した。クッラーファに鎖から解放された時、解毒薬にと置いて行ってくれた上級回復薬。これなら、解毒どころか致命傷でもすぐに使えば傷を治せる。ただ、他の回復薬も同じだけど、体の持つ自己回復力を瞬間的に強める薬だ。その為、ある程度の生命力が必要になる。でも、そこは俺がいる。俺のマーラは弱っていても、他の人から俺を仲介しながらマーラを送れば上級回復薬の効果を発揮できる。

 そう話せば、フマディン卿はすぐに治せと言った。


「ラーグのマーラを移すよ」

「あぁ。いつでも良いぞ」


 まだ、余裕があったラーグの生命のマーラを、クッラーファに移していく。頃合いを見て上級回復薬を使った。すると、大きな傷も塞がって行き、弱々しい呼吸がしっかりして来た。命を取り留めたようだ。


 近隣の領軍が到着後、伝説の冒険家クッラーファと団員達は逮捕。こうして、伝説の盗賊団マーウ・ザハブは壊滅した。聖杖暦六〇三年、夏の盛りであるオーリエスの月に起きた出来事だった。


 ◇


 俺達は隠された目的であったマーウ・ザハブの囮役を終えた事で、堂々と領軍の警護と支援を受けながら旅をしていた。

 あの戦いで死んだ獣人達は、彼らの伝統に沿って砂漠に埋葬された。これで、全員無事に連れて行く目標は失敗。悲しむ獣人達へ、イス・メルダさんが回って慰めていた。これが切っ掛けで、人間族への恨みが増したと思っていたけど、意外な話が聞けた。


「悪いのは、あの人間達だから――確かに、人間族は今でも嫌いだよ。でも、全員が嫌いって訳じゃない。今、恨んでるのは襲って来た盗賊達だ。アルトさんや俺達を守ってる人間族の軍に文句を言うつもりは無いし、その盗賊達もあいつらの頭領が殺したって聞いた。あの頭領が言うなら本当なんだと思う。だから、心配するな。少なくとも、アルトさんの事は一番信頼してるんだ」


 大きく変わったと思う。人間族への嫌悪感は変わらなくても、それぞれだと別けて考え始めた。全てが憎いじゃなく、苦しめた人間が憎いに変わったんだ。

 俺の事を一番信頼してくれるのも嬉しいけど、不満がある。何で、クッラーファの事は信じてるんだ!? 確かに、クッラーファが襲撃者を粛清したのは事実だけど、あんなに苦労して皆の信頼を得た俺の努力は何なんだ。


「仕方ないだろう。あいつもサハールエルフで、亜人種だ。アルトよりは、受け入れるのに抵抗感は少ないさ。それに、あの戦いぶりと信念に生きる姿。味方とは言え、種族関係なく団員達が熱心に応援して、死に際には泣きながら感謝もしていたんだ。悪い奴って分かっていても、敬意を持つさ」

「確かにすごい生き様だと思うけど、納得いかない!」

「はぁ。使徒だって、恩赦を与えるくらいだったんだから納得するしかないだろう」


 そう。ラーグの言う通り使徒までクッラーファを見逃した。上級回復薬を使って息が戻った時、俺に囁くような声で伝えられた。


『意外と面白いものが見られたから、おじさんの契約違反を見逃してあげるよ。本当ならここで、皆を巻き込んでバーン!って爆発させるつもりだったんだ。助けた甲斐があったねぇ、お兄さん。ふふふ』


 使徒ノートラスが、何らかの契約をしていたクッラーファを生かす事にしたらしい。ある意味、助けられた事になるけど複雑だ。牢から出そうとしてくれた事も感謝してる。でも、獣人達の心を掴んでるのは納得いかない。


 そんなモヤモヤを抱えながら道を進む。本来なら、隠れ里には先月のルキシアの月下旬に着く予定だった。でも、今までの苦労が嘘のように快適な旅に変わった。水や食料の心配もいらず、襲撃の心配もない。


「はい、アルト。あーん」


 ナハルザーク砂漠で脅威って聞いていた大サソリは、あっという間に領軍に討伐されて夕食に並んだ。俺はマーウ・ザハブの拷問や雷撃を使った事で、両手が使えなかった。そんな俺の世話を、一緒のコブトカゲに乗っているヤウィンや子供達がしてくれる。助かるけど、遊ばれてる節がある。でも、楽しそうに笑う子供達を見てると、まぁいいかと思う。


「ようやく、ここに来たか」


 領軍の護衛が離れて一日。ニクス侯爵家の領都ニィクルスの後ろにそびえる山間へ来た。ラーグの持つ、デモンスの指輪は山間を示している。


「遂に、隠れ里か……」

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