勝利と
『バイバイ、お兄ちゃん』
(ありがとう、ティト)
手を引かれ遠くへ去っていくティトを見ながらアルトの視界は闇に落ちた。
「!」
見知らぬ天井だった。重い体を起こすと、周りには怪我人がたくさんいた。村人だ。
ここは村の集会所。
ぼんやりする頭を押さえ、今に至る記憶を辿る。
(ミーナを連れ去った獣人を追いかけて、森で戦った。その後、空から声が聞こえて獣人が魔物になった。倒してミーナを回復薬で治療した。それで、ティトが来てくれたんだ!)
ハッとして改めて周りを見渡し、状況を確認する。
(何でこんなに皆が怪我をしてるんだ? 獣人と戦ったのは傭兵達だったはず。追いかける前は、そんなに数は残っていなっかたのに)
家に隠れていたはずの村人達に違和感を覚えた。身体に痛みを感じて、自分を見てみると、そこら中に怪我をしていた。右腕は包帯で固定棒に括られている。
痛む身体と頭で立ち上がり、集会所の出口に向かう。程度は違えど、大勢の怪我人だ。
集会所の扉を開けると唖然とした。
村が破壊されているのだ。家は砕かれ、木はなぎ倒されたような状態だ。嵐にあってもこうはならない。
「なんで、こんな・・・」
力なく座り込むアルトに声がかけられた。
「アルト君!」
たくさんの薬や道具を持ったマールだった。
「マールさん・・・」
「起き上がって大丈夫? まだ体が痛むでしょ」
「これ、どうして」
ゆるゆると指を差した光景にマールの表情は暗くなった。
「魔物が出たんだ」
「魔物?」
「見た人によれば、襲撃の時に大勢の獣人達は倒したんだけど、生きている獣人が黒い霧を出して三体の魔物になったんだ」
あの怪物が三体も。
「俺が魔物と戦った時と一緒だ」
「そうらしいね。空から声が降って来て、その後に獣人が魔物になったってモルから聞いてるよ」
「モルさんとミーナは!?」
「二人とも無事だよ。森で倒れてるアルト君達をモルが運んで来たんだ。ミーナさんは集会所の二階にいるよ。まだ、身体が痛むみたいだから休んでる」
一通り話したマールは真剣な表情をしてしゃがみ、アルトの両肩に手を乗せて、深呼吸をした。
「・・・アルト君、オーロンさんとアルマさんが亡くなった」
思考が止まった。マールは何を言ってるのだろうと思った。意味がわからないと。
「どういうこと? だって母さんは家に隠れて、父さんは家を攻撃する獣人を倒すって」
「オーロンさんが話していたけど、獣人達は迷いなくアルト君の家を襲ったんだ。他の家には目もくれず」
「なんで・・・」
「ミーナさんを追いかけているようだった。扉が崩される前に隙を見てアルマさんが逃がしたんだ」
(それで市場に来たのか)
「追いかける獣人を倒して、家に入るとアルマさんが・・・」
「・・・」
言葉がでない。アルトは茫然とした。
「・・・・・・回復薬はたくさんあったのに、助けれなかったの?」
「魔物が出たのが市場だったんだ。倉庫も破壊されて、店に残っている回復薬を取りに行こうとしたけど、魔物を倒さないと店には行けなかった」
アルトの顔色がどんどん悪くなっているのをマールは気付き、今はこれ以上、話しても大丈夫なのか迷った。
「父さんはどうして?」
「・・・市場に残った魔物を倒そうとして。みんなで魔物は倒せたけど、オーロンさんは重傷を負った。僕も一緒に居たから、すぐに治療しようとしたけど、アルマさんの所へ行くように言われて行った。他の生きてる人に回復薬をいっぱい使うように指示は出したけど。二人とも・・・」
そこまで話を聞いたアルトは立ち上がった。
「アルト君?」
「父さんと母さんはどこに?」
「・・・市場の広場にいる」
ヨロヨロと歩くアルトを見送り、マールは他の怪我人の治療に戻った。
村は瓦礫と化していた。魔物が暴れた跡、誰かの血の跡、壊れた武器。本来これが普通なのだ。
魔物が三体も暴れたら、これが普通のなのだ。誰かの大切な人の命は奪われ、何もかも壊れる。
市場へ向かいながら考えていた。自分が、特別だったのだと。マーラの力を使い魔物を倒し、大切な人達の命を救えた。
「特別だった・・・」
目の前の光景が現実なのだと。
市場に着いたアルトは、更に現実を見た。広場一面を埋める布を被せられた遺体の数に。
「ッ!」
吐き気をもようし、かつては花壇があった場所に行った。涙も交じりながら吐き出す。
落ち着いたアルトは木にもたれながら、改めて市場を見た。
(こんなに。死んだ。ミーナを守る為に森に行って助けた。なのに、村が、母さんが、父さんが・・・)
身を守るように頭を抱えうずくまった。
いつまでうずくまっていたのだろうか。夕暮れが近づいていた。
(そうだ。母さんと父さんを探さないと)
遺体で埋め尽くされた広場を歩く。布ごしに家族っぽい体形の人を見つけ捲っていく。その中には顔見知りもいて、亡くなったのだと一つ一つ実感する。
「ナートさん」
獣人を追うときに門で別れた時には、深手を負っていた。
遂に、オーロンの遺体を見つけた。まさかと思い、近くの布を捲るとアルマもいた。
「父さん、母さん・・・」
二人の顔を触ると冷たかった。夕暮れの光で顔色は良く見える。それでも冷たい。
「母さん。皆で帰って来たよ。『約束』した通り。ボロボロだけど帰って来たよ・・・。特別な日にしようとしたよ」
涙が込み上げて来た。それを拭うことなく、二人の顔に手を添えた。
「父さん。やっと、父さんと向き合えて、いっぱい薬草の話が出来るって思ってたんだ。それで・・・。そういえば、謎の薬だと思ってたやつ、あれのお陰でミーナを助けれたんだ。作らせてくれて、ありがとう」
二人から手を放し、顔を覆った。その隙間からはポロポロと涙が零れていた。
「・・・・・・みんな、助けれなくて、ごめん」
赤く照らされた市場に顔を抑えたアルトの影が映った。
グッドな小説or期待する! と思われたら一番下にある「評価ボタン」や「いいね」や「感想」を貰えると、嬉しいです。引き続きお楽しみください。




