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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第三部:希望の継承者 第二章:砂塵は心を削りて
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雷哭

臨時更新!

 最悪だ。何で、クッラーファが『象牙の天秤』を持っているんだ。あれは、エスト・ノヴァで汚職をしていたギレス大司教が、逮捕を免れる為に逃げの一手として象牙の天秤を使った。だけど、結果は強力な魔物ゴルズニルドに変身して、主の意思に従いエスト・ノヴァ中の黄金や宝を吸収していく魔物災害になった。そのゴルズニルドの主が、『契約と天秤の使徒ノートラス』だ。


「そうか――あいつは、商人や盗賊の守護者って言ってたな。クッラーファが行きたがっていた黄金宮は、オッタクルテーザだったのか。そうすると、同業者はエグラーデ――」


 使徒ノートラスが支配する世界オッタクルテーザ。使徒ナリダスの世界である月夜の狩森(しゅしん)と同じ類のものだ。そこは財宝や贅沢を集めたような世界。宝を夢見る人なら憧れの場所だ。俺はゴルズニルドを倒した後、ノートラスに連れて行かれ金箔に彩る美味しいお茶会で歓迎された。あの幻想的な光景は忘れない。

 クッラーファがオッタクルテーザを巡って競った同業者は、巨大犯罪組織ペティーサの頭領エグラーデだろう。象牙の招門杯で溶けた黄金を飲む試練を乗り越えたエグラーデは、その時にノートラスの勇者になったんだ。


 今回、象牙の天秤をクッラーファに渡したエグラーデやノートラスには、どんな思惑があるんだ? こんな砂漠じゃあ、ノートラスが好む黄金なんて無い。

 いや、それよりも今はゴルズニルドみたいな魔物が出て来るかも知れない。さっき聞こえた声は間違いなく、ノートラスだった!


「魔物が出て来るかも知れない! 気を付けて!」


 離れた所で戦っていたフマディン卿に、注意を促した。でも、マーラの流れの感覚だとそんな雰囲気が感じられない。ノートラスは狡猾だ。どんな結果を生み出すのか予想できない。


「魔物とは酷いな。だが、聖人殿はあれが何か知っていたのか」


 強い光が弱まっていくと人の形をしたままのクッラーファがいた。象牙の天秤は砕かれ散っていく。フマディン卿に斬られた傷は治って、言葉にしにくい変化を感じさせた。クッラーファは、フマディン卿に向き直り名前を聞いた。


「フマディンだ」

「そうか……フマディンか。悪いな。あの時の小僧とは思い出していたが、名前が出てこなかった」


 クッラーファはロングソードと袖剣を持ち直して構えた。微かな笑みは自信に満ちてる。


「フマディンよ、確かに私は老いていた。しかし、そこら辺の相手には後れを取らない強さがあった。私を倒したお前の戦術や、技の冴えは素晴らしかった。今までの研鑽を実感したぞ。だからこそ、悪いな。私は自分の力ではなく――神の加護を使って戦う事にした!」


 砂を蹴り上げてフマディン卿の視界を塞いだ隙に、クッラーファは身を屈めてフマディン卿の脇下の近くで剣を振るおうとする。それを危機一髪で防ぐ。だが、すぐに袖剣の突きが肩を貫いた。それでも、軌道を逸らしたお陰での傷だ。


「フーディー!」

「来るな! マーラを使えない奴が戦える相手じゃない!」


 ラーファディさんが駆けつけようとしたのを制した。そうだ。マーラを使えないと勝負にならない。クッラーファが動き出して、違和感の正体に気付いた。あいつは、マーラを使ってる。生命探知でクッラーファを見れば、目を逸らしたくなる程の生命のマーラの輝きがある。ノートラスはクッラーファにマーラの感知者としての能力を与えたんだ。そこに、元々の技量が加わってフマディン卿を圧倒し始めた。


「マスター!」

「助かったぞ、ラーグ。今のは危なかった。一人で戦いたかったが、仕方ない。二人で倒すぞ!」

「はい!」

「二人掛かりか。まぁ、こっちもズルをしてるからな。さぁ、来ると良い!」


 ラーグの飛び込みの一撃で、急所を狙おうとしたクッラーファは下がった。ラーグが本来戦っていたマーウ・ザハブの団員は、自分達の頭領を見ていた。獣人達もそっちを見ている。段々、クッラーファを応援する声とフマディン卿達を応援する声に別れた。


 相性もあるけど、対人戦では最強と言われる決闘者の型(スクリプタ)の熟練の使い手が二人もいる。綱渡りの戦いも、互角に変わった。ラーグが妨害して、フマディン卿の圧倒的な手数を用いての戦い。それでも、クッラーファは攻守のバランスを崩さず着実に二人へ傷を負わしていく。


「マスター、こいつ……」

「あぁ。厄介な力を」


 クッラーファの傷付いた体が、すぐに治っていく。それはマーラを相手に与えて、体に宿る生命のマーラを活性化させた時と同じ事が起きている。傷薬や外からの回復じゃなくて、生物が持っている内側からの回復力で病気や傷が治る。クッラーファの体はその状態だ。


「でも、そんな方法は体が持たない……いつまでも、回復なんて出来ないはずだ」


 普通は睡眠や栄養を取って回復していくものを無理矢理している。相当な負荷が掛かっているはず。


「そうか。強力な攻撃で、回復の負荷を大きくすれば良いんだ。そうしたら、生命のマーラも弱まって自然回復が出来ない!」


 だけど、あの輝きは尋常なものだ。剣での攻撃なんて、実質的に肌を擦られている程度のダメージだろう。どうやって、クッラーファの生命のマーラを弱めるか。

 考えている内に、ラーグとフマディン卿も押される。剣も使えない俺が出来る大ダメージとしたらマーラを使った技しかない。あの呪文も、全快じゃない今は使えない。逆転が出来る、生命のマーラを無理矢理にでも鎮静化させる浄静波は、まだ弱々しいものしか出せない。出しても素早く動くクッラーファに避けられるだけだ。自然操作も、水や火しか作れない。それ以外だと、衝撃波だ。


 その時、大砂嵐を思い出した。巻き込まれた時、激しく舞う砂と一緒に雷が起きていた。狙いを定められるなら、今のクッラーファでも雷の早さは避けられないだろう。それに、水球を当てて濡らせば、それだけでも倒せるかもしれない。

 砂嵐で見た雷が何で発生したか考えた。雨空の雷は分からないけど、あの砂嵐ならヒントがあるかも。砂嵐で起きた事といえば、竜巻と激しく舞う砂。


「小さな雷だ!」


 手を擦り合わせて起きる、小さな雷。それなら砂を激しく擦り合わせれば雷が生まれる。日中の砂漠は、目には見えないけど砂や埃が舞ってるらしい。しかも、今は戦闘中で明らかに砂が舞う状態だ。両手を向かい合わせて小さな衝撃波で砂や埃を摩擦させる。そうすれば!


「やるしかない。回復に時間を掛けるなら水を被せよう」


 雷撃のイメージは掴めてきた。思い出せば、エスト・ノヴァでマルトさんが見せてくれた雷撃も、石畳を外して周辺の地面を荒らしてた。雷を通しやすいとも言ってたけど二つの意味があったんだ。


「ラーグ、避けて!」

「うおっ。何だ!?」

「濡れないようにしながら、クッラーファを攻撃し続けるんだ!」


 隙を見計らい、水球をクッラーファの周辺に巻いた。よく見ると、クッラーファの体が濡れていた。


「ハハハ。聖人殿が水分補給でもしてくれたか?」


 もう一度、生命探知で見ると微かでも生命のマーラの輝きが鈍ってる。雷撃が当たれば、一気に弱らせられる。


「ラーファディさん、体を支えて下さい」

「えぇ。何をするつもり?」

「雷を作ります」


 その言葉に、ラーファディさんもクッラーファを濡らした意味に気付いてくれた。両手を向かい合わせ、両方から衝撃波で押し合いをした。折れた指に圧力が掛かって激しい痛みで、嫌な汗が流れて叫びそうになる。


「アルトさん、これを噛んで!」


 歯を食いしばっていると、イス・メルダさんがタオルを噛ませてくれた。


「アルト、頑張れ!」


 意味は分かってなくとも、側でヤウィンが応援してくれる。


「フーディーを助けて……」


 ラーファディさんが、祈るように呟く。


 クッラーファも何かをしてるこっちに気付くが、フマディン卿達の猛攻に意識を割っていられない。そのまま、耐えてくれ!


「今、火花が!」


 微かに始める音と光が見えた。もっとだ。さらに、もっと!


「雷が生まれてる……」


 生まれた雷が激しくなるたびに、手の平を焼かれる。でも、諦めちゃダメだ!

 そして、ラーファディさんに目配せをすると頷いてくれた。雷撃を放つタイミングを見計らっている。ラーファディさんに腕を動かされながら方向を定める。


「今よ!」


 合図の瞬間、雷撃を放った。そして、雷鳴が轟く。目を開ければ、クッラーファが煙を上げて膝をついていた。


「行けぇぇ!」


 俺の叫びに二人は頷き、激しい連続斬りをした。

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