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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第三部:希望の継承者 第二章:砂塵は心を削りて
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大砂嵐

定期更新!

「ラクダを伏せさせて、顔を覆え!」

「フーディー、コブトカゲに乗ってる人は任せて!」

「頼む!」


 砂が舞うなんて話じゃない。長くて大きな砂の壁が迫って来てるようだ。空は暗雲で、微風が来る程度だったのに向かい風が段々と強くなる。

 俺よりも冷静な、荷物持ちのラクダを集めて布を被せた。フマディン卿とラーグは、歩きの人達にターバンを巻いて呼吸を守る事や、横向きにしたコブトカゲの陰に入ってお互いを離さないようにと伝え走ってる。ラーファディさんは、主に女子供を乗せたコブラクダの幕を降ろして砂の侵入を防ぐ準備をする。

 砂漠に入ってから、こんなに風を感じるなんて始めてだ。砂嵐の上からは、微かに雷鳴が聞こえる。


「勘弁してくれよぉ」


 ターバンから覗く凄まじい光景に語尾がおかしくなる。最初に思った大きさは、遠くにあったから感じたものだった。近づくにつれて二倍三倍と大きくなる。こんなものの中に今から入るのだ。近くに居る獣人達からも恐怖を感じる。当然だ。砂漠に行かないとこんな経験はしないだろう。


「来るぞ!」


 誰かの叫びと共に暴風に体を押されて、油断すると吹き飛ばされる。ターバンの隙間から入った砂が頬を撫でる。無防備だったら、とっくに砂で呼吸困難になっていそうだ。所々では叫び声が聞こえた。遂には、世界が完全に暗闇になった。


 暴風、雷鳴、砂が体を打ちつける音。


 自然災害の恐ろしさを、初めてまともに受けた。永遠に感じるような時間をひたすら耐えた。誰かの声で、吹き飛ばされた人が出たのが分かった。すぐに助けたいけど、フマディン卿から、二次被害を出さない為にも砂嵐が過ぎるまで動くなと言われた。


「……風が、弱くなって来た」


 風の弱さと同時に、吹き付ける砂の量が変ってきている。もうすぐ終わる!


 轟音は去って風が止み、ターバンから光が差し込んだ。 真っ暗だった世界がようやく終わった。


「皆、大丈夫!?」

「……何とか」

「砂が目に入った!」


 両眼を抑える獣人に、マーラで生成した水を使って何度も洗わせる。周りを見ると、荷物の一部が吹き飛ばされていた。幸いにも、コブトカゲに載せていた水は無事だ。ただ、飛ばされた人が何人もいる。すぐに見つかる人もいたけど、行方不明者が出た。


「風の向きからすると、この一帯のはずだが……」


 フマディン卿やラーファディさんは、経験を活かして場所を指定する。そこを無事だった獣人達が掘り進める。


「ダメだ。こんなに掘っても出てこないぞ!」

「おーい、どこにいる! 返事をしてくれー!」


 飛ばされた人の家族なのか、泣きながらも名前を叫び続けた。先々の事を考えて、水を作り出す為にマーラの使用を控えていたけど、やるしかない。人探しなら、一番良い方法を知ってる!


「こっちにいる! 手伝ってくれ!」


 生命のマーラの輝きは、障害物があっても見通せる。鍛え上げて来た技「生命探知」の出番だ。そこかしこから見える生命のマーラを、大きさで判断して場所を示す。引き上げられた人は苦しそうに咳をする。


「砂を吸ったか。座らせて前屈みで、水を含ませて吐き出させろ。水は惜しまなくて良いからな。アルト、他の場所も分かるか?」

「はい!」

「よし。アルトが示す場所を掘れ! 引き上げた者は私のもとへ。ラーファディは、コブトカゲとラクダを見てくれ。ラーグはアルトの手伝いだ」


 フマディン卿の指示でそれぞれが動き、砂に埋もれた人や遠くに飛ばされた人を見つけて行った。そして、死人はいなかった。本当に良かった!


「アルトさん、助けてくれてありがとう!」

「もう大丈夫。何があっても、俺が見つけるから。さぁ、休んで」


 生命探知を使い続けて目が霞むほど疲れた。エウレウム様が強化してくれたけど、まだ使いこなせていないのかも。

 目を押さえていると、肩を叩かれた。心配そうにしているラーグが水筒を渡してくれる。


「砂が入ったのか? これで洗い流せ。何があっても、アルトがその目で見つけるんだろ?」

「聞いてたんだ。目が疲れただけだから大丈夫。それより、マーラを使い過ぎた……」


 足下がふらついた所を、ラーグが支えてくれた。そのまま、コブトカゲの冷たい横腹に沈められて休む事になった。


「全員が落ち着くまで休みだ。しばらく寝ていろ。誰も文句は言わないさ……ベリノ以外は」

「確かに!」


 あの鹿のご老人が怒る様子を想像してお互い笑った。ラーグは負傷者の手当てに行った。とりあえず皆が無事だった。その安心感から、目蓋が重くなる。 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

楽しんでいただけたら、『感想』や『リアクション』を頂けると嬉しいです。また、『評価ポイント』を頂けると、能舞「老松」を鑑賞するほど喜びます。皆様の応援が、何よりの励みになります。どうぞ、よろしくお願いします。



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