心を削る砂塵
定期更新!
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ルー族の遊牧地で十分な休息が取れた一団は、隠れ里へ向けて出発する。フマディン卿達の真の狙いであるマーウ・ザハブに関して、全員の獣人には話していないけど、イス・メルダさん達とは情報を共有した。予想通りと言うか、ベリノは囮にされている事に腹を立てた。知らない内に囮とされているのは気分が良くない。ラーグから教えられた時だって、内心では複雑だった。ベリノや不安に思っている獣人へは、最短ルートで隠れ里を目指している事実を示して納得してもらった。
「マーウ・ザハブの特徴として、殺しはやらない事だ。奴らの本質は、盗賊を兼ねた冒険家の集まり。何度か商人が襲われているが、荷物と情報収集だけで命は取られていない。だからと言って、油断をして良い相手じゃない。その対応もしている」
フマディン卿は、ラーグに目配せをして促している。内容は予想襲撃地の周辺には、ニクス侯爵家や協力している貴族家の領軍が散らばって配置されている事。
「マーウ・ザハブは、隠れ里が南のどこかにある事までは確信を得ているみたいだ。俺達が南に行けば行くほど、追って来て場所を探ろうとするだろう。だが、隠れ里に近づくほど領軍の伏兵が多くいる」
「分かりました。率直に言えば、メディクルム殿以外で何の利益も無しに私達を護送するとは思っていませんでした。何かが起きる事が知れただけ心の準備もあります」
イス・メルダさんの冷静な言葉に、表情を崩さないように驚いた。最初から、この話を聞くまで助けてくれたって大喜びしていた。今まで獣人達の指導者だった人と、若造の経験値の差だろうか。しっかりしないとな……。
自分の甘さについて考えながら、ラーグのデモンスの指輪に導かれる。新しい仲間を加えて。
「ラーファディ、本当について来るのか?」
「えぇ。族長から、ニクス大族長に届け物を頼まれたもの。フーディー達も南に行くんだから、ついでについて行くだけよ。それに大オアシスの同盟都市を経由するなら、私が居ればややこしい話も無くなるでしょ? 皆にとって、良い事じゃない!」
確かに補給予定地で、また水汲みをさせられるのは勘弁してほしい。フマディン卿も口では色々と言ってるけど、困ったような嬉しいような顔を、俺とラーグは見逃していない!
ラーファディさんの言う通り、皆にとって良い事だらけだ。それに無茶は承知していたけど、イス・メルダさん達が協力してくれても七百人の一団を三人で管理するのは大変だった。
上機嫌なラーファディさんの鼻歌と共に、再び砂漠越えをする。
所々の休息地では、ヤウィンと約束をした通り獣人戦争の話をした。戦争が起きた経緯、どんな戦いだったか、マス・ラグムとは何だったのか。一つ一つ丁寧に話す。
「そっか。ラグムおじさんって、本当の名前はナーリクだったんだ。友達のエルグさんの為に……」
「確かに、エルグとの約束がナーリクをマス・ラグムに変えた。だけど、ナーリクは伝説とか約束とか関係なく、獣人族を助けようとしていた。ヤウィンのお父さんも、その言葉に希望を見つけて戦争に行ったんじゃないかな」
ヤウィンは母親に抱かれながら話を聞いていた。俺の所に来る時は、いつも一緒に居る。時々、ヤウィンを強く抱き締めながら静かに聞いていた。
「お母さん。お父さんってアルトが言ったみたいに、光る人になって僕達の所に来てくれた?」
「……えぇ、来たわ。病気で苦しんでいたあなたの頭を撫でて、愛してるって言ってたわ。不思議な事に、あの人があなたを触っていた間は息が楽だったみたいね。眠っていたから気付かなかったのかしら。最後に、この子を助けに来てくれる人間がいるから頼れって言ってたの」
「それって……」
「彼の事だったんだわ。彼が、あなたの病気を治してくれた。お父さんの言った通りだったわね。ヤウィン、ごめんね。お父さんが死んで会いに来てくれた事や、お父さんが頼った人間の話を教えなくて……」
ヤウィンと母親は抱きしめ合いながら、静かに泣いていた。俺は知らない内に、たくさんの人から託されている物があるみたいだ。きっと彼らが望んでいるものは、彼らの大切な人達が苦しまない世界に行ってくれる事だと思う。ナーリクだけじゃない想いを継承して、隠れ里まで導こう。
ただ、砂漠の世界はどんな強固な意志を持っていても、それを試すように無慈悲な試練を与えて来る。遂に、ずっと心配していたものがやって来た。
「大砂嵐だ! アルトとラーグは、予定通り行動しろ。他は飛ばされないように周りに掴まれ。ターバンを使って頭を覆うんだ!」
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