半ばの大叙事詩
臨時更新!
マーウ・ザハブを見つけるのに必要だったフマディン卿の能力は二つあった。
「まず、会った相手の顔をずっと忘れない事」
「会った相手って事は、フマディン卿はマーウ・ザハブの誰かと会った事がある?」
「あぁ。しかも、大物だった。マーウ・ザハブの棟梁クッラーファだ」
クッラーファ。褐色肌色でサハールエルフの特徴を持っている。ただ、髪は灰色じゃなくて黒髪。しっかりとした体格で見た目は四十代くらい。武器はロングソードの使い手。そして、赤いターバンを愛用している。
フマディン卿は十歳の頃に、砂嵐に遭って迷子になってた所をクッラーファに助けられた。その時、マーウ・ザハブのアジトが近かったのか馬で移動していた。
「あの時の、クッラーファの話はどれも刺激的で面白かった」
いつの間にか、俺達の側にフマディン卿が来ていた。ラーファディさんはどうしたのかと探すと、水を持って来てくれていた。シャーハリー族長も陽気に笑いながら近くに座る。
「一緒の馬に乗せてもらい、私の部族の遊牧地まで送り届けてくれたんだ。道中に聞いた話は今でも忘れられない」
懐かし気に、楽し気にクッラーファとの短い旅の話を話してくれた。
「奴は、盗賊と言うより冒険家のようだった。ウェールド地方の伝承にある黄金の河を発見したが、黄金を詰め込むと罠が発動してその場所は崩れた話。バラルト海西湾岸の神話に出て来る神の塔と呼ばれていた物は、山を指していた事。そこの隠されていた通路を進み、最上階に行けば六つの玉座に座っていた骸骨が動き始めて襲われたと。ただ、そいつらが守っていた緑色に輝く籠手を奪い、刻まれていた古代文字を読めば一瞬の輝きで骸骨を倒したとか。こんな感じの話を聞かせてくれた」
フマディン卿に渡された水が満ちた白い素材の杯には、独特な模様が刻まれている。中をよく見ると内側には黄金が塗られているように見えた。それを見つめるフマディン卿は、微かに笑っている。隣ではその様子を微笑ましそうに見るラーファディさん。きっと、あの杯には何か思い入れがあるのだろう。
「これは、別れる前に奴が渡して来た物なんだ。ウェールド地方の奥地に隠されていた物の一つで、『象牙の招門杯』と呼ばれていた。最初は、奥地に眠る黄金宮とやらを探しに腐れ縁の同業者と競っていたらしい。二人揃って黄金宮の入口は見つけられたが、開き方が難しかった」
その方法とは、何個もある似たような杯から本物の象牙の招門杯を見抜き、側に流れている溶けた黄金を満たして飲み切る事だった。溶けた黄金を飲むなんて死んでしまう。
「あの試練には、伝承を読み解く知識と、盗賊や冒険家としての杯を選ぶ目利きの経験。そして、溶けた黄金を飲む危険を冒せる勇気が問われていた」
「何だか、伝説に出るような話ですね」
「そうだな。あの話は特に興奮した。それで奴は、杯を見抜くことに成功したが黄金を飲む勇気が無かった。そして、同業者は杯を見抜き一気に黄金を飲んだんだ!」
すごい勇気だ。自分に置き換えたら怖くて出来ない。ただ、話の続きが気になる!
「黄金は口へ入る前に、淡い光を放ちながら水のような物に変わったらしい。そして、扉は輝き同業者を連れて行った。しばらくすると、戻って来て袋一杯の財宝を持っていた。黄金宮の世界はすごかったと、散々自慢されたと嫌な顔をしていたな。そして、黄金宮の入口は崩れた。扉の先には何も無く、扉自体に何かの仕掛けがあったみたいだな。クッラーファは意味を失った、本物の象牙の招門杯を持って帰った」
そこまでの話をして、フマディン卿の部族の遊牧地に着いた。
「奴の名前を改めて聞けば、剣を掲げ、馬を立たせて嘶きが響く中、『我が名はクッラーファ。マーウ・ザハブの棟梁だ!』と叫んでこれをくれた。お前とは、どこかで会いそうだからまた話を聞かせてやると笑って去って行ったよ」
クッラーファの姿は、幼いフマディン卿に世界を知りたいと言う情熱を与えた。ニクス地方の砂漠しか知らない少年なら憧れるのも当然だ。
「その後、奴の足取りを追い掛けていたセレス公爵家の者に、マーウ・ザハブやクッラーファの事を話したのが今に至る理由の一つだ」
「何だか叙事詩を聞いたような気持ちになる出会いだったんですね」
「叙事詩か。良い事を言うな。確かにマスターから聞いた時、胸が躍った」
ラーグと感想を話してると、シャーハリー族長が大笑いして今度はフマディン卿がルー族と出会った理由を教えてくれた。
「フーディーはな、クッラーファの冒険に憧れて北にいる自分の部族から抜け出してここの南地域に来たんだ。そこで我が妹ラーファディとロマンスがあったんだ。なぁ、シミター泥棒のフーディー?」
「その話は止してくれ。二人も今回の仕事が終わったら話すから今はなしだ!」
フマディン卿は俺達の好奇心を払うように手を振り、ラーグが最初に話していたフマディン卿の能力に戻った。
「砂漠を冒険をしていく中で、探索能力が身に着いたんだ。丁度、マーラの感知者としての能力も無自覚に加わってな。たまに、マーウ・ザハブの噂や痕跡を見つけた時、追ってみた事があったんだ。そうしたら、マーウ・ザハブを見つけられた」
「そこには、クッラーファもいたんですか!?」
「あいつは、一度しか見た事がなかった。だが、最初に会った時の姿のままだった。声を掛けたかったが、出来なかったな。奴はやっぱり盗賊で、安易な気持ちで触れて良い相手じゃないと直感で感じたんだ。あの時、声を掛けていればあいつは歓迎してくれただろう。もしかしたら、マーウ・ザハブのメンバーにもなっていたかもしれない」
フマディン卿は、目元を緩めてラーファディさんを見つめると当時の自分を引き留めた決意を話した。
「盗賊団マーウ・ザハブに入れば、様々な場所を巡り砂漠以外の世界を見られただろう。だが、それを思いとどまる理由がずっと前にあった。それは、ラーファとの出会いだ。盗賊になったら彼女へあわせる顔が無いと思った。結ばれるにも部族の垣根やたくさんの障害がある。でも、せめて会う時は恥の無い自分でいようと決意したんだ」
「フーディー……」
見つめ合う二人は、本当にお互いの事を思い合ってると感じられた。愛する人の為に、恥の無い自分でいたい。その気持ちはよく分かる。俺もミーナと会う時、情けない自分ではいたくない。胸を張って堂々と会いたい。
「そういう事が重なって、クッラーファとマーウ・ザハブを見つける能力を示せた。セレス公とニクス候から、力を貸して欲しいと頼まれてた時は好機だと思った」
「そう、だったのですか?」
「あぁ。ラーグは私に負い目を感じる必要はない。奴らを追うついでに冒険もしたかったんだ。その為には、部族の垣根が邪魔をする。その対策として、サハールエルフである事を隠して教会騎士になった」
確かに教会騎士ならどこにいても違和感がない。普通の人なら、フマディン卿が亜人種とは分からないし、マーラの感知者である条件も揃っている。
「厳しい戦いの時期もあったが、ある男達のお蔭で楽にもなった」
そう言って微笑みながら俺を見た。そうか。フマディン卿の年齢を考えれば、十分ありえる!
「エウレウム様ですか?」
「あぁ。彼が若い時からの知り合いだったんだ。彼が生み出したマーラの覚醒は、多くの教会騎士を救う事になった。例の事件は詳しく知らないが、抱えていた苦悩を教えてほしかったな。力になりたかった。マードックの事も何とかしてやりたかったが、力及ばずの結果だ」
その言葉に胸が熱くなる。最期の時、エウレウム様はたくさんの苦しみと孤独に押し潰されていた。だけど、フマディン卿のように手を差し出したかった人もいたんだ。あなたは、あの時でも決して一人じゃありませんでしたよ。その気持ちを込めながら、胸元に付けている翼のブローチを撫でた。
マードックも、研究室に籠りっぱなしだったからフマディン卿の気持ちに気付けなかったんだ! 引き籠りは良くない!
なんて、本人には絶対に言えない言葉だけどマードックが悪い。エウレウム様が言う通り、再会した時にはやっぱり言ってやろう。
「そうでしたか。でも、その言葉を聞けて孫弟子として感謝いたします。大師匠達も喜んでいると思います」
大師匠達を思ってくれて、本当にありがとうございます。フマディン卿。
こうして、フマディン卿の能力と教会騎士になった切っ掛けが知れた。そして、マーウ・ザハブとクッラーファを追う理由に想像を巡らせた。役目としての敵ではあるけど、憧れた盗賊クッラーファの伝説を自分の手で終わらせたいんだと思う。きっと、誰にも恥じない正道を生きる決意を実現したいのだろう。
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