巨獣の背に託す未来
定期更新!
腹減った。
今、俺は魔物や貴族を前にした緊張感とは別物の緊張感を覚えていた。
「シュルルル」
「……ラーグ、これって」
「可愛いだろ?」
目の前に居るのはとても大きなトカゲ。突き出た二つのコブと、全長や大きさは馬車三台分くらい。これが、コブトカゲらしい。つぶらな瞳は真っ直ぐ俺を見てる。思いっ切り口を開ければ、上半身くらいは食べられそう。ずっと見られてるけど、食べようとしていないよね?
「夏場はコブトカゲに抱き着くと程良い冷たさで気持ち良い」
ラーグは、コブトカゲの横腹に体を預けて涼んでいる。予定通り、ナハルザーク砂漠へは夏の始めで昼が最も長い、ルキシアの月に入る事へなった。本格的な暑さへなる前に、ここまで来られて良かった。
「こ、怖い……」
「こいつ、僕達を食べるんじゃないか?」
「大丈夫だよ~。たぶん」
俺の足下に居る獣人の子供達を安心させようとするけど自信が無い。だって、ずっと俺を見てるんだもん!
少し離れた所で、他の獣人もコブトカゲを見てひそひそ話をしてる。
「涼しい」
南部の王子様は、俺達を放って涼を満喫していた。
フマディン卿は、ウィンザー様が用意してくれた物品を受け取った。その中にはナハルザーク砂漠の詳しい地図が入っていた。
「隠れ里までは、オアシスを経由しながら進む。この地図には、一般的には未発見のオアシスが記載されている。通常のオアシスの町と組み合わせたルートで行けば、負担も少なく早めに着くだろう」
「隠れ里ってニクス侯爵の領都ニィクルスに近いんですね」
「元々、歴代ニクス侯爵の緑化事業で生まれた場所だからな。あっちが管理しているんだよ」
隠れ里は領都の南側にある山の中にあるようだ。地図だけで見れば、直線で行くと早そうだけど、何も無い砂漠の地形は方向感覚がおかしくなる。気付けば、同じ場所を回り続ける事もあるそうだ。案内人がいないと迷うのも納得だ。
「さて、私は近隣の情報収集に行って来る。二人はコブトカゲに荷物を載せるのと、獣人達の旅装を準備してくれ」
フマディン卿は、ラーグへ何か耳打ちをして町の奥に去った。ラーグの思案する様子に、何となく不安を感じた。
二匹のコブトカゲはコブの間を使って荷台を載せた。それを何本ものベルトを胴体に回し固定する。
「思ったより広いね。これなら一匹には荷物と人を積んで、二匹目には人だけ載せれば良いか。御者も馬みたいな感じで良いなんて助かるよ」
「気性は穏やかだからな。動きものんびりとしたものだ。鱗も固いから攻撃も効かないし、この大きさだから他の生物も積極的には襲って来ない」
「良い事尽くめだ!」
顎の下を思いっきり撫でて上げると、嬉しそうにシュルルル言ってる。猫かな? 怖がっていた獣人達も慣れて来て、子供達は二匹目の顎の下を撫でている。イス・メルダさんも、子供のエル・サラムを抱っこして見に来ていた。
「うわぁ!」
今、ヤウィンがコブトカゲの細長い舌で舐められた。あっちは子供達に懐いてるようだ。
ターバンやその他の服装も全員分揃え終わり、早めに昼食を食べる事にした。フマディン卿の情報収集で、天気も問題ないという事で予定通り夕方に出発する。夕方の涼しい頃合いに砂漠へ入り、砂漠の夜の過ごし方を練習する。
「良い匂い!」
「この白いの甘酸っぱいね」
「このパンはモチモチしてる」
「粒々した物も美味しい!」
フマディン卿は故郷のニクス地方北部の伝統料理を作ってくれた。バーバリと呼ばれる厚めのパンは、外はカリッとしてモチモチとした食感。水の量がコツなので、水が豊かな場所ならではらしい。
他にはスパイスで炊いたコメと、ラム肉を甘酸っぱい発酵乳ラバンで煮込んだマンサフという煮込み料理を作る。それらをバーバリに乗せて食べる。
「コメとラム肉とバーバリを一緒に食べるなんて初めてです。クリーミーな乳の味がラム肉と合いますね!」
「スパイスライスの香りとバーバリが汁を吸って食感が更に良くなった。味わいも抜群だ。これをナッツとまとめて食べると……!」
それ以上、ラーグは何も言わずに目を閉じて味わっている。獣人達は手が止まらないようだ。
「ハハハ。喜んでもらえて何よりだ。ラバンを使わないと、こんな味にならないからな。他の発酵乳では物足りなかった」
ラーグと同じく、フマディン卿も食には一途な思いがあるようだ。
満足する食事を終えて出発に備え、ひと眠りする事とした。町の人達は敷地に入らないなら良いとテントを広げる場所を提供してくれた。提供者には、フマディン卿の料理を食べた人がいる事を見逃していない。
俺も簡易ベットに寝転がり、少しの昼寝をしようとした。
「……アルト、起きてる?」
「え、ヤウィン?」
俺のテントにヤウィンが来た。
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