湧き上がる力
アルトの頭には、いろいろな事で溢れていた。ミーナの事、モルの事、自分の事、生きて帰るのか。
(いや。考えるな。集中するんだ!)
深く呼吸をして、剣を構える。その様子に魔物もアルトを睨んでいた。
(来る!)
素早い一撃がアルトを襲う。飛び退いた後に、腕に一太刀いれる。魔物の腕と剣の鍔迫り合いのような状態になった。だが、筋力の差がでる。少しずつ後ろに下げられるアルトは精一杯の力で、腕を切り落とそうとした。
「ッ」
弾き返されたが深く傷を負わせることが出来た。魔物は痛みで叫びながら暴れた。
振るわれる腕を避けたが、失敗に気付いた。ミーナとの道が開けてしまった。
「ミーナ、離れろ!」
「うん!」
急いで魔物を避けながらミーナのもとに駆け付けたが、暴れながらも近づいていた。
腕の攻撃を流していくが、隙が出来た。魔物はそれを見逃さずに一撃をアルトに浴びせた。剣で直撃は避けれたが、木に叩きつけられて意識が朦朧とした。
霞む視界で見えたのは、腕を上げる魔物とミーナの姿だった。
「やめろぉぉぉ!」
血が舞った。
ミーナの胸を爪が裂いた。
時が止まった。頭が真っ白になり、息も止まった。それは数秒なのか、数分なのか、時が動き始めるまでの感覚が長かった。
舞った血は地面に落ち、ミーナは倒れた。
それを見て、言いようのない怒りが湧き上がってきた。身体が熱くなり、血の巡りを感じる。
魔物はミーナへもう一撃を加えようと腕を振り上げた時に、キケロの姿が思い浮かんだ。
『強い思いを込めてこうすると、石が飛ぶ』
何故かその場面を思い出し、強く、吹き飛べと思いを込めて腕を突き出した。
すると、押されたように魔物は吹き飛ばされて木にぶつかった。
(これなら!)
アルトは魔物のもとへ走った。飛ばされた魔物も起き上がり、アルトへ攻撃をする。
腕と剣が交差する時に、自分の腕に『力を込めて』と強く思い、振り下ろした。
その剣は魔物の腕を切り落とした。ドサッと落ちる魔物の腕を見てアルトは確信した。
腕を落とされた魔物は、叫び、残った片腕を振り回し暴れる。
その腕をタイミング良く剣を合わせ、着実に腕に深い傷を負わせていく。
(さっきから、こいつの動きがわかる。・・・今なら!)
「はあぁぁ!」
横払いに来た腕を迎え撃ち、一気に切り落とした。そして、両手の無くなった魔物の首を目掛けて斬りかかる
渾身の力と思いを込めて斬る。
熊の魔物の首は、刎ねられた。
その巨体は倒れ、チリチリと崩れ始めた。身体の崩壊を見て、倒せたのだと実感した。
力が抜けていく。やっと倒せた。フラフラする、意識を手放しそうになるが堪えた。
「ミーナ・・・」
ミーナのもとに駆け付ける。
裂かれた胸からは血が溢れる。
「あると」
小さく微かな声で呼ぶ。
『守れなかったのか』
怒りで満ちていた熱は消え去り、悲しみが全身を包んだ。
守れなかった。ティトを守れなかったように。悲しみと後悔が押し寄せる。
(助けれないのか。嫌だ。絶対に守ると約束したんだ!)
グッドな小説or期待する! と思われたら一番下にある「評価ボタン」や「いいね」や「感想」を貰えると、嬉しいです。引き続きお楽しみください。




