黒き指輪と王妃の誓い
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「来たのに全く気付かなかった。いや、それよりも会えて嬉しいよ!」
会えたのは嬉しい良いけど、こうして対面しているのに何となく違和感を感じて落ち着かない。そんな俺の戸惑いを感じたのか、ラーグは笑いながら右手の人差し指に嵌めていた黒い石が付いてる指輪を外した。
「え、気配が戻った?」
「この指輪の力で、マーラの波動を止めていたんだ」
初めて聞く言葉だったけど、聞いてみれば納得する内容だった。それはマードックが遺した研究を知っていたから。マーラの感知者は、教会の教義の部分を除いて言えば「内なるマーラを感知できる者」だ。つまりは、自分の生命のマーラを感知できる者。そして、「覚醒」をすれば「外のマーラ」も感知できる。外のマーラの言い方を変えれば、世界のマーラの事だ。
世界のマーラを感じられる理由は、物質がマーラを放っているから。放たれたマーラを覚醒した俺達は感じている。見方を変えれば、自分自身も常にマーラを放っている。ラーグはそれを、マーラの波動って呼んでるみたいだ。
「この指輪がマーラを吸収している。ただ、副作用でマーラが使えない」
そう言ってまた指輪を嵌めると、その場に居るけどラーグの気配が消えた。ただ、生命のマーラを吸収するって弱っていくのと同じだ。心配になって生命探知でラーグを見る。
「ラーグが、弱くなってる!」
「……挑発しているなら乗ってやるぞ。久しぶりに稽古をつけてやろうか?」
「ごめん! 今のは言葉選びが間違ってた。だから、柄から手を離して!」
今の笑顔はパトロを弄ぶ時の物だ。そういう時、必ずパトロは酷い目に遭ってる。急いで謝ると、柄から手を離してくれた。
久しぶりに会ったけど、ラーグの笑顔の種類は今でも分かるみたいだ。命拾いした後だけど何だか照れる。
「それで、今のはどういう意味だったんだ?」
「あー、えーと……」
「言え」
やっぱり、顔立ちが良い人の迫るような笑顔は怖い。生命のマーラの話しは、教会から命を狙われる内容なのに軽率だった。
「ラ、ラーグの安全の為に言えない!」
「……ふーん」
さっきまでの追い詰めるような笑顔から、寂し気な顔に切り替えやがった。リンド村に居た頃、村に迷い込んでミーナと一緒に可愛がったドンゴハスキーの子供みたいな顔をしやがって!
狼みたいで格好良いけど、毛がモフモフで可愛かったな。ミーナに抱き締められてたのは気に入らなかったけど。
「仕方ない。俺を気遣ってくれているのは嘘じゃないみたいだしな。それとこのヌーマイトの指輪が今回の旅の鍵になる。指輪の力を発揮させるためにマーラが必要なんだ。だから、マーラを吸収させてる」
指輪を見せてもらうと、ヌーマイトといわれる黒い宝石には星空が入っているような輝きがあって神秘的だ。マーラを吸収しているから、独特な力強さを感じる。
でも、何だか懐かしい感覚がある。ずっと会っていなかった何かに会えたような?
「この指輪、誰かが持ってた気がする。でも、顔が思い出せないな」
「……本当に、この指輪か?」
「ごめん。記憶違いなのかも。宝石が付いた物なんて滅多に見ないから」
「……そうか。いや、それよりも本題に入ろうか」
ラーグは思案していた顔から切り替えて要件を話した。内容はイス・メルダさんと面会する事だった。ファーレン伯爵領で起きた事のある程度は知っているらしく、イス・メルダさんの立場を配慮して会いに来たと。
「マス・ラグムは、率いていた獣人達の中では王のような存在だったと聞いている。その方の伴侶なら、王妃の扱いで問題はないだろう。だから、こちらから出向いてあなた達を尊重していますって態度を示すんだ」
俺には無かった考えだ。そこは、さすが影の大貴族であるセレス家の元継嗣といった配慮。
「それに予想が正しければ、俺が求めてる言葉をくれるはずだ」
その一言で心配になったけど、いつも通りラーグを信じる事にした。ラーグは、獣人達が奴隷へ戻らずに秘境へ行く事になった理由を知ってる。獣人達に対する考えも俺は知ってる。悪い事にはならないはずだ。
俺達はイス・メルダさんのもとに向かった。
「お初にお目にかかります。私は、ラーグ・ボルティア・エスト=セレスと申します」
ラーグは片膝を付いてイス・メルダさんに挨拶をする。その様子に、イス・メルダさんと側に居たヒーライやベリノが声を出さずに驚く。
「私は、この一団の獣人達をまとめているイス・メルダと申します。同胞を保護してくださる、高名なセレス家の方にお会いできて光栄です」
ヒーライ達も挨拶をして、ラーグは話しを始めた。言っていた通り、イス・メルダさんを尊重する事を強調して伝えていた。それに周りは表情を緩める。多分、俺が同じ事を言ってもこんな表情はされなかっただろう。大嫌いな人間族で教会騎士だけど、実質的に亜人種を保護しているセレス家の生まれであるラーグは、彼らにとって心強い存在だろう。
「セレス殿。こうして、私をお気遣っていただけて感謝いたします。ですが、私の望みは一つです」
「何でしょうか? 私の力が及ぶ限りご協力をしたく思います」
「私の望みは、彼らが安全な土地で暮らせる事です。私は夫と親友の遺志を継ぎ、また、彼らの指導者としてそれを果たす義務があります。お気遣いをいただけるなら、どうか旅路の導きをよろしくお願いいたします」
イス・メルダさんは言葉と共に頭を下げる。周りは慌てているが、ラーグの凛とした声で場が静まる。
「承知いたしました。その気高き志が叶えられますように、案内人の役目をアルトと共に全力で務めさせていただきます。私も、この親友の志のお蔭で皆さまを守護する機会を与えられました。アルトへ恥じないように、お守りいたします」
「まぁ、セレス殿とメディクルム殿は親友でしたか。やはり、メディクルム殿と私達には、運命の糸が交わっているのかもしれませんね。メディクルム殿も、どうかよろしくお願いいたします」
「はい、お任せください!」
話の最後には、町を通過する時の注意点や心苦しい願いを聞いてもらえた。周りは顔をしかめたが、イス・メルダさんの言葉があったばかりで反論は出なかった。これがラーグの求めていた物かもしれない。
「何か、俺の事も気遣ってくれてありがとう」
「気にするな。アルトのお蔭で助かると分かっていても、リーダーを殺されれば納得いかない気持ちもあるだろう。さっきのイス・メルダ殿の言葉で、彼らもアルトに対して軟化するしかない。それに俺も、お前の考えと行動は嬉しい。故郷や家族に対する事があったのに、彼らを守る事を選んだ。誇らしいよ。ただ、ベリノといった獣人は気になるな」
ラーグやとイス・メルダさんの会談で、周りは何かしら反応があったけど、ベリノだけは無反応だった。何かを考えている事だけは気配で分かる。ベリノに関する情報を話すと、ラーグも警戒をする事にしたようだ。
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