旅への門扉は錆びついて
定期更新とお知らせ!
現在、リメイク版の下書きが第一部第一章まで完成しました。第二部最終話まで完成したら、一気に改稿します。メインストーリーは変わらず、小さなイベントの追加や人と地理の名称変更。それと、三人称視点を一人称視点に統一。
改稿の開始と完了時に、再度お知らせします。
翌朝、出発した俺達はファーレン伯爵領を出た。護衛をしてくれたファーレン伯爵領軍とは、ここでお別れになる。一部の獣人は領軍との別れを惜しみ、また一部は遠目から領軍を見ている。その目線は好意的な物じゃない。
「こればかりは、仕方ないさ。分裂していた時間が長過ぎたんだ。ここ最近の出来事が奇跡みたいなもんさ」
クラルドの言う通りだろう。エウレウム様が与えてくれ技「祈りの光」が無ければ、別れを惜しむ人達でさえ怒りと憎しみの炎を消さなかったはずだ。
「さて、ここからが本番だ!」
穏やかに進めたファーレン伯爵領とは違い、獣人達が奴隷と思っている選任貴族達の領地を通る事になる。通る町や村で、砂隠れ作戦を隠しながら進まないといけない。何も無ければ、今日中にスレア伯爵領へ入れる。
そう祈ってた所、ダメだった。早速、トラブルが起きた。
「獣人のくせに、良い物を着ているな。通行税だ。荷物を置いて行け!」
関所を通過する時に、獣人の服や装備を見た関所兵が物資を渡す様に脅迫をして来た。
「待ってください。この獣人達はコローネル首席枢機卿の命令により、教会騎士がファーレン伯爵領からコローネル伯爵領へと移送中です。これは、教皇並びに五大伯爵家もご存知の事ですよ?」
獣人達が関所兵と距離を取り、落ち着いている内に間へ入る。不破のローブと、手首に浮かび上がる教会騎士の印象を見せた。関所兵達は顔を見合わせ、微かに笑っている様に見えた。
「我々は領主様から、何も下知をされていない。大体、分不相応にも獣が服を着ている事が間違っている。さっさと、荷物と服を置け。それが嫌なら、山を越えて領内に入るんだな。ハハハ!」
「最近の教会騎士は、獣人と仲間の可能性のある奴がいるらしいからな。関所兵の役儀として、しっかり確認しなければならない」
山を越えて領内に入れば、不法侵入だ。大手を振って俺達を討伐する名目が出来る。それを知っているから、この関所兵は笑ってる。
もう一人の関所兵の話は、首脳部の決定を知っていますって自白したようなもんだ。獣人と仲の良い教会騎士なんて、真っ先に俺が当てはまる。ファーレン伯爵領での事を知っていないと、そんな言葉は出てこない。
「あいつら、知ってるよな?」
「うん。決められた事も、移送の内容も知ってる。それなら、何で邪魔をするんだ? 殿上人の決定にわざわざ逆らうなんて」
一団の中間にいたイェール卿が、こっちの様子を見に来てくれた。事情を話せば、溜息をついて教えてくれた。
「服や物資を売って、小遣い稼ぎじゃ。獣人から物を盗ろうとも、誰も文句は言わん。ワシに考えがある」
そう言うと、イェール卿は自分の不破のローブを脱いで関所兵に投げ渡した。
「そのローブは特殊な繊維で斬撃に強い。背中には本銀糸で刺繍されている」
その言葉に関所兵は背中の銀糸を見てニタリと笑い、列の遠くを見た。
「これなら十人分くらいか。あと六百人分くらいを渡せ」
イェール卿は剣を抜いた。何をするのかと不安に思いながらも成り行きを見守る。関所兵は訝し気にした。
「それを持っていても良いが、不破のローブは教会騎士にしか与えられない物。教会騎士ではない者が持っていれば、教会法で罰せられる」
「な、何が言いたい?」
「いやなに。偶々、通りかかった関所の関所兵がワシの不破のローブを奪った。警告はしたが、お前は手放さない。それなら、教会法に基づき罰せねばならぬ」
イェール卿がまとう雰囲気は不穏な物に変わって行き、関所兵を睨みつける。あっちも慌てて武器を取り出した。
「お前が渡して来たんだろうが!?」
「選べ。通行税はお前達の命か、教会法か。ただ、忘れるなよ。この老いぼれでも上級騎士だという事を」
領地の境を守る関所兵は、一般的な兵士に比べれば強い。だけど、教会騎士程ではない。ましてや、上級騎士を相手にするのは無理がある。
「……ちっ。全員、通れ」
「通行税はどうなる?」
「いらない。さっさと行け!」
関所兵は自分の命を通行税にした。イェール卿は不破のローブを返してもらい、わざと砂煙が関所兵に向かう様にローブを払う。
クラルドに先頭を率いてもらい、全員が通過するまで関所の側で待った。中央部が通り過ぎる時、ヤウィンと目が合った。いつもの睨みつける様な目ではなく。観察をしている様な感じがした。
「これで全員、通ったか。ありがとうございました。イェール卿」
「法を知っていれば使える抜け穴じゃ。それにこれは、お前の大師匠がやった手管じゃよ」
「そんな事をしていたんですか……」
「これが他の者に知られた時、真っ先にワシを非難したのがあいつじゃったがな。マードックは隣で気まずそうに顔を逸らしておったわ」
イェール卿の鋭い目が、俺の胸に刺さっていた。
「……師匠達に代わり謝罪を。すみませんでした」
「ふん。良い弟子を持ったのう。エウレウム」
列に戻っていくイェール卿を見送っていると、胸の中でエウレウム様が笑ってる気がした。笑うくらいなら出て来て、直接、謝ってほしい。
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