リーグ城攻防戦②
放たれた矢に倒れる者もいたが、士気が高揚している獣人軍は何も気にする事なく城壁に迫る。兵士達が放つ矢は的確に命中する。弓の扱いに長けた、遊牧民族ファーレンの技が活かされていた。
「大盾を持つ奴らを狙え!」
南側城塔で指揮を執るガルムンドさんが、叫びながら指を差していた。そこを見ると幾つもの大盾を持った獣人が小さな陣地を作ろうとしている。
「パヴィスか!」
軍議の時に教えられた攻城戦術の一つだ。大盾パヴィスを設置して陣地を作り、背後にある長梯子を城壁に掛ける準備をする。ガルムンドさんの指示を聞いて、複数の場所でパヴィスを持った獣人を狙い撃ちする。
城壁近くまで来た獣人は、こちらに矢を放って反撃を開始した。そこへ延ばされたロープを持った獣人達が城壁に張り付く。
「何をする気だ?」
敵の弓兵と攻防をしていると、城壁に張り付いていた獣人が大声で叫ぶ。
「引っ張れ!」
獣人がロープを引っ張り、パヴィスで足下が守られた長梯子が城壁に迫って来た。
「梯子を持ち上げる為のロープだったのか!」
梯子の先には剣を持った獣人達が登っている。剣を抜き、梯子が掛けられる場所に先回りした。他の兵士達も弓から剣や斧などの武器に持ち替えている。
「ふん!」
ブチッ
「うわあああ!」
迫って来る梯子の一つのロープを城塔から放たれた矢が千切った。バランスを崩した梯子は倒れて獣人を下敷きにした。矢はガルムンドさんが放った。
「梯子を掛けられたらロープを切れ! それで、城壁から外せる!」
そして、南側城壁は三か所に梯子を掛けられた。クレイモアを片手で振り回す筋骨隆々の半獣半人の虎獣人と、防具を装備した数で勝る犬獣人が襲い掛かる。
「死ね、人間共!」
強力なクレイモアの一撃を、受け止められなかった兵士は吹き飛ばされた。その勢いのまま、城壁の一部を占領する様に虎獣人はクレイモアを振るう。犬獣人が後から登って来る。
「そこまでだ!」
「ぐっ」
猛威を振るうクレイモアを渾身の力で弾き飛ばした。怯んだ隙をついて虎獣人を斬る。本当は衝撃波で吹き飛ばしたいが、場所が狭く味方に当たるかもしれなかった。サラール卿からも長丁場になるからマーラを使い過ぎない様にと注意も受けている。兵士達も他の獣人達と戦いながら、押し返し始めた。
「ロープを切ったぞ!」
「梯子を外せ!」
城壁から外された梯子が獣人軍の中に倒れた。
「戦えているぞ。このまま、押し返せ!」
虎獣人の一人を倒してから流れが変わって来た。蹂躙されるだけと思っていた徴収兵も、この状況に希望を見出して士気が上がる。
「皆! 俺達は獣人の大軍と戦えているぞ。どんどん梯子を外して行け!」
梯子は次々と城壁に掛けられて、強力な獣人が登って来る。しかし、希望を取り戻した兵士達の奮戦で一進一退をしながらも南側城壁は善戦した。
城門は、何度も激しい音を立てながら破城槌で叩かれる。リーグ城に到着してから大急ぎで補修された城門は、未だ破られる様子は無い。しかし、その上の城壁では激しい攻防が繰り広げられる。エリーと兵士達は必死に応戦していた。城門のある東側城壁は梯子攻め以外にも、予想外の攻撃を受けていた。
「兎獣人を倒すのに集中して!」
直感力を高めて、兎獣人の行動を予想して剣を振るう。もう何人の兎獣人を斬ったのか数えられない。まさか、城壁の窪みや出っ張りを利用して兎獣人が跳躍して登って来るなんて。梯子からも獣人が登って来る。
「下に行かせちゃダメ。ここで仕留めるのよ!」
城内に入った兎獣人達は、内側から城門を開けようとする。下にいる城門守備部隊のウェラードさん達も戦うけど、俊敏に動き回る兎獣人に手を焼かされている。犬獣人と兎獣人の攻撃は止まらない。その間にも矢が効きにくい猪獣人が持った破城槌が、遠慮なく城門を叩きつける。ダメ。絶対にここを破られちゃダメ。冷静に、冷静に。
エリーの焦る気持ちが視野を狭くする。兎獣人と必死に戦いながら、挽回方法を考えた。視界の隅には、梯子から登って来た獣人が兵士達を倒す。
『……エリー』
耳元で囁かれる自分の名前。その呟きに心臓が跳ねた。
「リークト?」
「エリー!」
その叫びと共に、獣人が悲鳴を上げた。苛烈な剣技は次々と獣人を斬り伏せる。
「クラルド!」
暴風の様な荒れ狂う剣技は誰にも止められなかった。クラルドはエリーの近くまでやって来た。
「サラール卿に呼ばれた。エリーは兎獣人に集中しろ。梯子の奴らは俺が引き受ける!」
登り切った犬獣人を払い飛ばするや否や、クラルドは剣を大きく振りかぶり梯子を打ちつけた。上部が砕けた梯子は蹴り飛ばされて城壁から外された。その姿にエリーも冷静さを取り戻して、得意の素早さを活かした身体強化で兎獣人を仕留めていく。
「さすがだな。あいつらよりも早いじゃないか」
「本気を出せばもっと早いわよ。クラルド、来てくれてありがとう!」
「おう!」
二人の教会騎士の活躍で、陥落するかと思われた東側城壁は劣勢を挽回した。余裕が出来た兵士は城門を攻撃する猪獣人に熱した油を上から注ぐ。その熱さに、彼らの攻撃が止まった。しかし、次第に優勢へと傾く雰囲気を壊す様に、大きな咆哮が空気を震わせた。
「どけ! 俺が行く!」
叫びと共に、梯子の一つが大きく軋む。クラルドは、登って来る存在に気付き梯子を破壊しようとした。だが、間に合わなかった。梯子が崩れる瞬間、大きく跳躍したその獣人は城壁にやって来た。
「我が名は、ガフォール。マス・ラグム様の腹心の一人だ! 教会騎士、掛かって来い!」
純血の獣人の姿である虎の獣人。アルトが戦っていた、人間の特徴を残した虎獣人とは違う。巨体のガフォールは、巨大な剣を持って虎の咆哮を上げた。その威圧感に兵士達は緊張のあまり、体が固まってしまう。そこに一人の兵士が雄叫びを上げて剣を振るい突撃する。その兵士の姿に数人がガフォールに攻撃した。ガフォールは最初の兵士を蹴り飛ばした後、勢いをつけて大剣を振るう。悲鳴を上げる暇さえなく絶命してしまった。大剣は次々と兵士の命を吹き飛ばす。
「虫けら共では、相手にならん! 教会騎士よ、早く出て来い!」
ガフォールの大剣から兵士は逃げる中、二人がガフォールの前に出た。
「俺の名は、クラルド。教会騎士だ。お前の相手になってやる!」
クラルドは赤い瞳を鋭くして、ほのかな闇が宿っていた。それはアルトやエリーが見たことのない、闇をまとう姿だった。
「私は、エリー。教会騎士よ。私達の前に現れたのは、少しだけ運が良かったわね。南側に行けば、運が悪すぎて同情していたわ。私達が相手をしてあげるわ!」
「ガハハハ。俺がどこに現れようとも、運が悪いのはお前達だ。教会騎士め、同胞の苦しみを味合わせてやる!」
飛び上がって襲い掛かるガフォール。正面から受け止めようとするクラルド。背後に回るエリー。
リーグ城攻防戦の激戦地で、真なる獣人との激闘が始まる。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
楽しんでいただけたら、広告の下にある「いいね」や「評価ポイント」をお願いします。皆様の応援が、励みになります。更新話を見逃さないように「ブックマーク」をオススメします。
どうぞ、よろしくお願いします。




