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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第三部:希望の継承者 第一章:駆ける狼
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リーグ城攻防戦①

更新、再開しました!

大変、お待たせしました。リーグ城攻防戦の連載を三日に渡って全七話を十九時に投稿します。一つの戦いの締め括りとなる、お話です。この戦いに至るまで色々ありましたね。

是非、ブックマークをして、これまでのアルト達の戦いもご覧ください。


それでは、リーグ城攻防戦編をお楽しみください。


 一方、ファーレン伯爵領北部の山を利用して築城されたヴァノール城で、ラウは城塔に登っていた。馬乳酒を飲みながら、遠くに見える明かりを静かに見つめる。


「ラウ殿、ここにおりましたか」


 城塔に登って来たワイリーは息を切らしていた。起伏があるこの城を移動するのは疲れる。ワイリーはラウの横に並び、遠くの明かりを見る。


「いよいよ、やって来ましたね。あの数だと、多くはいないように見えますな」


「はい。伯爵の作戦通りに、あっちも分散して動いたと思います。恐らく、二千人くらいでしょう。あれが本軍とは思えないので、リーグ城には大軍が向かっているはずです。あっちは朝方に開戦ですね」


 ヴァノール城に迫る獣人軍は動きが遅かった。その理由はラウとワイリーも予想がついている。


「リーグ城を素早く陥落させて、合流してから全力で攻める。だから、ゆっくりと進軍してリーグ城の戦勝の勢いをつけてから総攻撃」


「そうでしょうな。分散策は仕方ない決断ですが、リーグ城がどれほど持ち堪えてくれるか。フォルマ様達が心配です。ヴァノール城に行くはずだったギオル様が、無断でリーグ城に忍び込んで行ったとは。ギオル様の存在に気付いていると良いのですが……」


「ギオル様がいないのは驚きましたが、そう心配しなくても大丈夫ですよ」


 ラウの意外な言葉にワイリーは驚く。リーグ城には、ラウの仲間である他の教会騎士もいるのに心配気な様子がない。


「あっちには、僕よりも遥かに強い教会騎士達がいます。彼らが、必ずリーグ城を守り切ってくれます」


 激戦地で戦う仲間達の顔を想像すると、妙な安心感があった。その理由に気付くと小さく笑う。


(あっちには、アルト君がいるからね)


 上級騎士のサラールではなく、アルトの顔がすぐに出て来た。ラウは、アルトが抱えている全ての事情を知っている訳では無いが、アルトが負ける姿が思い浮かばなかった。当然、たくさんの傷を負って弱っているかもしれない。だけど、最後には周りに支えられながら立っている。それは近年のアルトの活躍を聞けば、確信を持って言える。一人の力では勝てなくても、大勢の力を借りて強大な敵を倒す。アルトが差し出す癒しの手を握れば、味方は勇気付けられて希望を捨てずに戦う。


(本当に、不思議な手を持つ子だな。まだ、手が温かい気がする)


 別れ際、アルトと握手をしてから不思議な温かさが残っている。とても厳しい状況なのに、前向きでいられる。恐怖が無いのだ。体の中に巡る温かい何かが、ラウの心に迫ろうとする恐怖を追い払ってくれる。


「ワイリー殿。もし、リーグ城が陥落して大軍がやって来ても、僕が皆さんを守ります」


 ラウの真剣な言葉をワイリーは笑って返した。


「ハッハッハ。ラウ殿から見れば、私は中年の文官に見えるでしょう。しかし、ファーレンの民の弓と槍の腕前を侮っては困ります。あなただけが強い訳ではありませんぞ。共に戦い、この地を守りましょう」


「そうですね。共に戦い、この地を守りましょう!」


 ラウの力強い姿を見て、ワイリーは自分の中にあった不安が薄れていくのを感じた。勇気と覚悟がワイリーの心を満たしていく。


(この騎士を信じよう。そうすれば必ず勝てる。フォルマ様達も、どうかご無事で)


 ラウは更に遠い南にも思いを馳せていた。リーグ城とヴァノール城の命運を握っている親友も、無事でいてほしいと。


(頼むぞ、アーブ。それと無事でいてくれ)




 夜の荒野に、痛みと苦しみの叫びが響いた。暗闇の中、馬を駆ける一団が戦っていた。


「しつこい奴らだな!」


 アーブはエレンボ城にやって来る援軍を導く為、全速力で南に向かっていた。その途中、獣人の一団と遭遇して馬を走らせながら戦っていた。

 獣人達はマス・ラグムの命令で、ジークと彼が率いる領軍への援軍を求める伝令を狩りに動いていた。


「奴を逃がすな!」


 獣人はアーブを斬りかかろうと近寄るが、放たれた矢が彼らを地面に崩れさせる。アーブは騎射をするのに有利な地形へと巧みに誘導しながら騎射をする。その腕前は、ファーレンの民が認める程だった。


「だいぶ減ったな。逃げ切れる!」


 着実に数を減らした獣人達から逃げようと必死に馬を走らせる。一秒でも早く援軍を連れて来て、仲間達を助ける。アーブに課せられた重大な任務だ。熾烈な戦いをする仲間達の姿。師匠を亡くしてから、共に強くなろうと誓った親友の姿が思い浮かぶ。


「皆、生きていてくれ。必ず、助けに行くからな!」


 決意を口にした時、遠くから笛の音が聞こえた。


「……まだ、やって来るか」


 自分の行く先に気配と敵意を感じた。残りの矢も少ない。アーブは剣を抜いて感覚を研ぎ澄まし、闇に潜む狩人達を斬り伏せる。そして、ひたすら前に進む。体に宿る不思議な温もりが、希望を灯し続けた。 




 朝、リーグ城の鐘が慌ただしく鳴らされる。俺と一緒の部屋で寝ていたクラルドも飛び起きて、装備を整える。城門近くの城塔に登ると、獣人軍の全体が見えた。


「予想通りの進軍だったな。あの数に二日持ち堪えろか」


「一万人はいかないくらいだな」


 どんなに困難でも戦うと決意したが、実際に見ると絶望を感じてしまう兵力差だった。フォルマ伯爵をはじめ、次々と将官が城塔にやって来ると渋い顔をしていた。大きな溜息をついて頭を抱えたいが、周りを見ると厳しい表情をしながらもどうやって戦うかを思案していた。その姿を見て自分の体を律する。

 正直に言えば、俺やエリーとクラルドは戦いの指揮と言う経験は無い。個人での戦いは強いと自負しているが、集団を指揮して勝つ方法は知らない。アーブさんとラウさんは、それを学んで小規模な戦いに何度も参加していた。そこで経験を得たのだ。

 サラール卿や約三十五歳以上の教会騎士は、反乱が多かった時期に人を指揮して戦う機会があった。作戦立案や戦略を考えれる程の経験を持っている。

 前日の作戦会議でも、俺達は解らない言葉をサラール卿の補助を受けながら必死に理解しようとした。この作戦室から逃げれば、ただの兵士になってしまう。自分達は大勢の人を助けれる力を持った教会騎士だ、と言い聞かせながら話を聞いた。


 そんな昨日の事を考えていると、フォルマ伯爵が指示を出して周りの将官達も行動する。俺は、まだ遠くにいる獣人軍の中から、マス・ラグムが見えないか目を凝らしていた。すると、背中を叩かれる。クラルドとエリーが側に来た。


「皆、すぐに動けてすごいよな。正直、心が折れそうになった」


 茫然とした様な顔でクラルドは呟いた。それに釣られる様にエリーも胸中を話す。


「……私は、どうやって逃げるか考えちゃった。戦わないといけないのは分かっているのに、怖くなったわ」


「誰だってそうさ。俺も怖い。五百人で一万人くらいの獣人と戦う事になるなんて。しかも、マス・ラグムが率いているかもしれない」


「私も自分が強くなったって思っているけど、あの戦いがこの規模で起きると思うと本当に怖いわ。その、マードック様だって手一杯って感じだったのに」


 マードックの名前を出すのを躊躇いながら話したエリーの手は、微かに震えていた。エリーの言う通りだ。マードックでさえ目の前の獣人を倒すのが精一杯だった。


(この戦いに勝てるのか? 勝ったとしても、こんな軍勢を作り上げる程の力を持ったマス・ラグムの元に行った時、俺はあいつに勝てるのか?)


 感じてしまった疑問がどんどん膨れ上がり、不安が胸を支配する。マス・ラグムの力の全容は分からない。洞窟で会った時の様な少ない人数のみに、マーラの感知者にさせる能力があるのか。それとも、これから来る一万人に能力を付与が出来るのか。


「……勇者は伊達じゃないか」


 使徒ノートラスの言葉の意味を強く感じる。勇者は簡単には倒せない。思いを巡らしながら獣人軍を見ていると、震えていたエリーの手をクラルドが握った。


「俺も怖い。だけど、絶対に生きて帰るんだ。帰ってナフィに会う。たくさん抱きしめて、ナフィの試作品の料理を食べる。それで味の感想を言いながら笑い合うんだ」


「……私は、リークトの故郷を見てみたい。それでご家族に会って、小さい頃はどんな人だったのか聞きたい。リークトが故郷に残した細工品を見てみたいわ。リークトから聞けなかった事を、もっと知りたい!」


「俺は、ミーナに会いたい。帰って来た時に見せてくれる、笑顔が見たい。俺を見つけて駆け寄って来るミーナを抱きしめて、ただいまって言いたい」


 二人の重ねられた手の上に、俺も手を置いた。エリーの手の震えは収まり、お互いの手を握る。


「俺達には、行かないといけない場所がある。だから、この戦いに勝とう。領民の命も大事だけど、今だけは俺達の為の戦いをしよう!」


 三人で薄っすらと浮かんだ涙を拭い、クラルドの言葉に頷いた。教会騎士として正しくない考えかもしれない。でも、絶対に生きてミーナの元に帰らないといけないんだ。今だけは、自分の願望の為に戦う。


(マードック。俺は教会騎士として、正しくない事をするけど許してほしい。だけど、マードックの教えは忘れてないよ。力の及ぶ限り、他の人達も助けるから)


 それぞれの決意を込めた瞳は、迫りくる敵を見つめる。もう、恐怖は去った。立ち向かう勇気を込めて、重ねられた手を握りしめた。


 皆、生き残ろう。


 それそれの持ち場に着いた後、獣人軍は河川がある西側以外の方向に兵士を配置した。これでリーグ城は包囲された。


「こんなに、たくさんの種類の獣人がいるのか」


 よく見かける犬や兎の獣人以外にも、牛などの初めて見る者もいる。どれも鎧と武器を持って、整列をしている。今まで見て来た様な雑然とした反乱勢力ではない。まさに軍隊だった。


 少しの静寂の後、獣人軍は鎧に武器を当てて金属音を立てる。それは徐々に大きくなり、大空に響き渡る程だ。その一体感が獣人軍の士気が高める。逆に、こちらの兵士は目の前の軍勢と激しい金属音に怯み士気が下がる。

 高揚した獣人軍は、鎧を叩くのを止めた。


「弓、構え!」


 ガルムンドさんが号令をする。俺達は弓を絞り、次の命令を待つ。

 東側から獣人の雄叫びが空に響いた。それが聞こえた瞬間、獣人軍は城壁に向かって走り始めた。


「放て!」


 放った矢が、雨の様に獣人軍に降りかかる。


 遂に、リーグ城攻防戦が始まった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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どうぞ、よろしくお願いします。

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