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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第一章:夢
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ゴル村の戦い

 

 今夜のゴル村は暗い。月明りの夜ならば目が慣れると見えていくが、今日は雲が差し掛かっている。暗く物音を立てず静かな村は、誰も居なくなったかのようだ。


 実際は扉も窓も補強された家々の中で、それぞれが息を殺して、その時を待っている。

 市場の商品棚や木の後ろでは行商人の護衛で来た傭兵達が配置につき、荷馬車の近くにはアルトとモル。

 村の門にはナートともう一人の門番がいる。


 村の門以外は未来予知の通りになっている。


 日が沈み始めた頃に起こされたアルトとミーナは、お互いを抱きしめ、幸運の祈りと『約束』を呟き合った。

 帰って来ていたオーロン達と早い夕食を食べて、アルトは散歩に行って来るかのような調子で出発した。その背中を見守る父母とミーナの無事を祈りながら。


 モルは合流場所と決めた自分の家の前で最愛の妻の手を握って待っていた。

 アルトの姿を見たアリアは最愛の夫を抱きしめ、二人を見送った。


 夜の帳がおりた頃に、アルトは瞑想を始めた。自分に授けられたこの力を使い、キケロが教えてくれたように直感力を高め、布の擦れるような感覚を探した。


 瞑想を始めてから、かなりの時が経った頃に布の動きを感じた。最初は微々たる動きだったが、次第に揺れが大きくなった。彼らが来たのだ。

 目を開けて、辺りを見渡すとすぐにわかった。


「モルさん、全員入った。果物屋の屋台の後ろにいる」


「わかった。屋台の前あたりに出てきたら教えてくれ」


 小さく返事をして、彼らの様子をマーラで見張った。

 小さな声が聞こえる。


「####?」

「###」

「#####!」


 聞いたことのない言葉だった。アルトには意味がわからないが動き始めた事はわかった。


「モルさん、来た」


「火をつけろ」


 乾いた藁を敷き詰めた荷馬車に行商人から貰った火付け道具を使った。小さくついた火は少しずつ大きくなってきた。


「###、##!」


 誰かが火に反応した。


「放て!」


 荷馬車が燃えて少し明るくなった時にモルは合図をした。隠れていた傭兵達が弓を射た。

 何人かが悲鳴を上げた。その瞬間、アルトに変な感覚が襲った。ポツリ、ポツリと何かが消えるような。

 それどころじゃないと頭を振り、剣を抜き突撃の合図を待った。


 炎に照らされて、獣人達の姿が露わになった。

 人の姿だが毛に覆われた耳、尻尾、赤い目。それ以外は人間と変わらない姿だった。

 この集団の頭みたいな黄色の目をした獣人が叫び剣を抜いた。周りの獣人もそれに合わせて剣を抜き、こちらを襲い始めた。


「アルト、いくぞ!」


 モルも剣を抜き、二人は獣人達へ立ち向かった。


 アルトは今までモルの訓練を活かし剣を振るった。しかし、筋力に差があった。斬りかかっても、受け止められて鍔迫り合いで押されていく。だが、それでいい。

 アルトの相手をしていた獣人が倒れた。後ろからモルが斬ったのだ。


「いいぞ! 上手く受けながら、持ちこたえるんだ!」


 モルや傭兵達が何人か倒したが、まだ多い。

 必死に獣人の強力な一撃を受け止めていたが、急に嫌な予感がした。鍔迫り合いをしていた相手を何とか横に流すと、後ろから斬られそうになっていた。その場を飛び退いて、間合いをとった。

 二対一になってしまった。すぐに一人が襲い掛かかる。


(一人を受ければ、もう一人が斬って来る。どうしたら)


 判断が出来ず、頭が真っ白になった。モルの呼ぶ声が聞こえる。時間が遅く感じる。


『直感』


「ッ! はあぁぁぁ!」


 頭に声が響いた瞬間、相手の動きを感じた。そして、自分でも信じれない力で一人目の獣人の剣を受け流すことが出来た。二人目は一人目がよろけて道を塞がれ襲いにかかってこなかった。


 三人はそれぞれ態勢を立て直して、再び獣人達は襲ってきた。

 だが、さっき剣を受け流せた時みたいに相手の動きがわかった。一人目を避けて、そのまま進み二人目の隙をついて斬りかかる。肉を斬るような感触が手に伝わった。

 獣人を一人倒せたが息をつく間も無く、次が襲ってくる。だが、アルトに焦りはなかった。わかっていたのだ。

 しゃがみ込むようにして、真っ直ぐ剣を突き出す。しかし、間一髪のところで相手が剣をずらし、少し横腹を斬った。

 急いでその場を離れて距離をとる。先程の突きの動きで、相手は警戒してすぐには掛かってこなかった。少し睨み合っていると、相手が剣を落とした。

 麻痺毒が効いてきたのだ。

 モルみたいに仕留めれればいいが、まだ未熟なアルトは掠り傷でもいいから相手に傷をつければ、麻痺毒が効くようにしていた。


 やっと一息ついて周りを見ると、獣人の数は減っていた。

 それでも、一人一人の力が強い獣人達と互角という状況だった。


「#####!」


 一人の獣人が叫んだ。

 目線を追うと、ミーナがいた。


 物陰に隠れるように移動していたが、炎に照らされた市場が仇になった。鮮明に映る青い髪が目を引いた。


「ミーナ、逃げろ!」


 逃げるように叫ぶと、辺りで剣を交わしていた獣人達がミーナを目掛けて走り始めた。


(一人じゃない!?)


 未来予知で見た光景と違うことに戸惑ったが、すぐに意識を切り替え、目の前を過ぎようとする獣人に一太刀いれた。

 モル達は行かせまいと攻撃するが、剣を受ける人、通り抜ける人と別れて来た。

 ミーナは別方向に逃げようとすると、影から一人出て来た。抵抗するミーナを抱きかかえ走った。


「######!」


 影から出て来た獣人と、獣人達の頭と思われる者が、残りの獣人に叫びミーナを連れて行った。


「アルト!」


 ミーナの叫び声が響いた。


 残りの獣人達は、足止めをするような動きをした。

 数は少ないが強い。急がないと、と焦る気持ちが集中力を乱す。

 そこに傭兵が割って入った。


「坊主、追いかけないといけないんだろう! ちとキツイがなんとかする。行くんだ!」


「アルト、先に行け! あの森なんだろ。すぐ追いかける!」


「わかった!」


 獣人達の相手を傭兵達とモルに任せ追いかける。

 未来予知と違うことに動揺するが、とにかく走った。



 門に近づくと三人が倒れていた。


「ナートさん!」


 ナートともう一人の門番と、ミーナを連れ去った獣人の一人だった。


「悪い・・・。青髪の嬢ちゃんが連れて行かれた。すぐに追うんだ! 森の方向・・・」


「・・・ナートさん、ごめん!」


 走る道には、よく見ると血の跡が付いていた。まさかと思い、バナナイト石を見るが赤色のままだった。

 幸いにも、その血の跡を追うことで森に行ってることがわかった。

 しばらく走ると、血の跡が乱れナイフが捨てられていた。


「なんだこれ・・・。どっちに行った?」


 周りを見てもわからない。血が途絶えている。未来予知通り、森へ行くべきか迷っているとモルがやって来た。


「アルト! どうした。森に行くんじゃないのか?」


「モルさん。ここでナイフが捨てられて血の跡が消えてるんだ。森に行ったのか。他の場所に行ったのか」


 モルは地面を手でなぞり調べ始めた。


「血に気付いたんだ。搔き消して、こっちに流れてる。大丈夫だ。森の方に行ってる。追うぞ!」


 モルの言葉通り、森を目指すと再び薄く血の跡があった。

 血の跡を追いながら、モルは考えた。


「ミーナちゃんの血だな。これで方向を示していたんだ」


 跡を追って走り続けて、森に着いた。


「ここから先は、未来が見えないんだよな」


「うん」


「お前達は俺が守るから。全力で戦うぞ!」



 森には鳥肌が立つような気配が漂っていた。


「昨日、来たのに雰囲気が違う。気を付けろよ」


「うん。・・・思考が乱されてるような感じがする」


 懐のバナナイト石を確認し赤色に安心する。

 二人は静かに森を進んだ。アルトはできるだけ集中してマーラを使おうとした。

 森の奥、かつて、ティトと魔物に遭遇した池のある所まで来た。

 そこで、揺らめきを感じた。


「モルさん待って。誰かいる」


 モルに声をかけてしゃがみ隠れる。

 耳を澄ますと声が聞こえて来た。


「########」


 獣人だ。

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