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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第三部:希望の継承者 第一章:駆ける狼
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リーグ城、入城

イラスト地図を後書きに載せました。リーグ城のイメージ図です。

 本拠地にしているノーヴェス城にある一部屋で、ナリダス様の像を前に瞑想していた。これから始まる戦いの勝利と、散って行った仲間達へ祈りを捧げる。


「ラグム。知らせが来たぞ。伯爵達は領民の連れて二手に分かれた」


「二手? 領都を捨てるのは想定していたが、二手に分かれるのはどういう事だ……」


 報告に来たのは熊の獣人で側近のヒーライ。報告の内容に疑問と戸惑いがあった。伯爵を通してアルトに俺の思念が流れた。内乱計画を知られる事にはなったが、精々、北のヴァノール城に逃げるくらいしか出来ないと思っていた。天然の要塞。籠城戦になれば攻略に時間は掛かるが、全軍で攻撃すれば必ず勝てる。


「近くまでは行けなかったが、領都を北と西に向けて出発していたらしい。それと北側は領民もだが、兵士が予想よりも多いぞ。六百人は居るように見えたと」


「北と西。西には何がある?」


 場所を移動して、領地の地図を見ると意味が分かった。


「西はリーグ城に行くつもりか!」


「あんな城に行くとは。分散するにしても、リーグ城に行く事に何の意味があるんじゃ?」


 もう一人の側近で、鹿の獣人ベリノ老が疑問を口にする。だが、リーグ城に行く意味をすぐに理解した。分散策だ。


「全軍がヴァノール城に行けば、後背をリーグ城に行った奴らが攻撃してくる。リーグ城に全軍を当ててもヴァノール城から攻撃が来る。これは俺達を分散させる策だ。ヴァノール城とリーグ城を同時に攻略しないといけない」


「だが、リーグ城ならすぐに攻略できる。その後、ヴァノール城に行けば問題はないだろう」


 ヒーライの言葉は最もだ。だが、今までの様に伯爵家が動けずにいればの話だ。何より、あいつらがいる。いや、あいつがいる。


「リーグ城は死兵になって戦って来るぞ。それに教会騎士も居る。今までの様にはいかないと思え。それに時間が掛かれば、ヴァノール城から後背を突かれる可能性が高まる」


「分散するしかないのか……。小賢しい事を考えやがって。大人しくしていれば奴隷として生かしてやるのに!」


「奴らもそれを分かっておるから、抵抗するんじゃろうが。ラグムよ、分散だが主戦力をリーグ城に当てるのはどうじゃ?」


「それが良いだろう。領都に残っていた兵士は少なかったはずだ。そこに六百人がヴァノール城を守備するなら。包囲してゆっくりと攻めれば良い。その間に寡兵のリーグ城を陥落させて、全軍でヴァノール城に行く。俺はリーグ城に行く。マグナウィティオで仲間を強化すれば攻略も進むだろう」


「分かった。ワシがヴァノール城に行こう。ヒーライはラグムと行くのだろう?」


「当然だ!」


「決まったな。リーグ城には八千人。ヴァノール城には二千人だ。奴らはジーク率いる領軍の援軍を期待しているはずだ。各地に散りばめて、伝令を見つけて殺せ」


 作戦が決まってヒーライ達は準備に取り掛かる。俺は、寝室に使っている部屋に行く。そこには最愛の人と、揺り籠に眠る俺達の宝石が眠っていた。静かにドアを閉めて、忍び足で妻と息子の元に行く。


「……メルダ」


 妻イス・メルダの頬を撫でる。お互いが子供の頃に出会った時、頬は瘦せこけていたが、今は張りと美しさを取り戻した。尻尾の毛並みは艶やかだ。人間族との混血が繰り返された獣人は、人間の姿でありながら獣の特徴を残す。俺とメルダが持つ狼の力。大勢の仲間を殺した、人間族と同じ体であり違う体。年齢を重ねて理解して来た、歪な存在である自分を何度も呪った。この獣の耳や尻尾があるだけで奴隷とされて、永遠に続く苦しみを受けさせられる。でも、感謝した物もある。自分の手だ。人間族の手は鋭い爪が無い。この手のお陰で愛しい妻に触れて、命に代えても良い息子のエル・サラムを抱き上げられる。


「メルダ」


「……ラグム?」


「起こしてすまない。君の瞳を見たかったんだ」


 そんな言葉に笑って、口付けをしてくれた。俺はメルダとお揃いだった、赤い宝石の様な瞳を無くした。その代わりに黄金の瞳は強大な力を与えてくれた。


「あなたの瞳も綺麗だわ。力強く、優しい瞳」


 しばらく、お互いの瞳を見つめ合ってメルダを抱きしめる。


「計画が早まった。近々、大きな戦いに出る。負ける気は無いが、教会騎士のあいつも来ていた」


「アルト、だったかしら?」


「あぁ。あいつを殺せば、ナリダス様が更に力を与えると仰られた。その力が手に入れば、俺達とエルグの夢にもっと近づける。必ず勝って帰る。それまでサラムを守っていてくれ」


「えぇ。無事に帰って来てね。二人で、サラムを守り育てましょう」


 二人で揺り籠で眠る、生まれて間もない息子を見た。先祖返りした本来の獣人の姿を持つ、エル・サラム。必ず、守るからな。


「エルグ。俺達の夢を必ず叶えるからな。皆、出陣だ!」


 数日後、軍勢を二つに分けて俺はリーグ城を目指した。





 リーグ城までの道程、獣人の散発的な攻撃を受ける。こちらの兵力を調べるように何度も襲われた。その度に急いで駆け付け倒して行く。本来の兵士達の力を温存しておきたい。


「ラウさん、大丈夫かな」


 恐らく、ラウさんも同じ様に攻撃を受けているはずだ。ヴァノール城に向かう兵士は多いが教会騎士は一人だ。俺の呟きに、近くにいたクラルドが心配を払ってくれる。


「本職の兵士もいるから大丈夫だろう。それに遠くから見れば、鎧兜を着せた領民を大勢の兵士だと勘違いして、無理に襲ってこないさ」


 フォルマ伯爵の近衛兵隊長ガルムンドさんの策で、領民に軽い防具と武器を持たせて兵士に変装させた。ヴァノール城に行く実際の兵士の数は二百人だが、これを六百人に見せる事が出来た。


「リーグ城が、見えて来たぞー!」


 先頭の人が声を上げる。馬を走らせて小さな丘を登れば、平地に佇む大きな城が建っていた。リーグ城だ。


 六角形のリーグ城の西と南には、川を使った大きな水堀があって攻撃を防ぐ。厚みのある大きな城壁は、弓兵の配置に適している。城塔もたくさんあって、各方向が見やすく指揮を執るのが楽だ。恐らく一番高い主塔でフォルマ伯爵は全体の指揮を執るのだろう。


「問題は城門か」


 長年、戦いで使われる事のなかったリーグ城は、手入れはされているが城門の強度に不安がある。


「ウェラード。入城後、すぐに城門の補強に掛かれ。敵がフォリアをどうするか知らないが、無視してくるなら、猶予は半日だ。やれるだけの事をしろ」


 城門と内部の守備を任された近衛副隊長ウェラードさんは、一部の兵士を率いて先に城に入った。


「いよいよ、戦争が始まるのね」


 フォルマ伯爵や周囲の人達の慌ただしさに、改めて戦争が始まろうとしている空気に手が震えた。エリーや領民達も、迫る危機に対して緊張が高まる。


「サラール。予定通り、主塔がある北側は私が指揮を執る。副司令官のガルムンドとお前は、城門がある東と南の城壁を、教会騎士と兵士達を使って指揮しろ」


「承知いたしました。皆、集まって!」


 サラール卿の呼びかけに教会騎士は集合して場所を配分する。サラール卿は城門近くの城塔から、城壁の全体指揮。俺は南東側の守備で、ガルムンドさんと共に行動をする。エリーは城門のある東側を守備。クラルドは北から東に臨機応変に動く。


「男は防具と武器を取りに来い!」


 ウェラードさんの声に、リーグ城に連れていた男性達は重い足取りで受け取りに来る。男性達と一緒について来た女子供や老人は、城壁の内側にある盾璧とそれに囲まれる館や地下と広場に隠れる。

 もう、どこにも逃げれない。逃げる場所がない。戦うしかない。恐怖が彼らの心に入り込む。フォルマ伯爵の激励を受けた将官と兵士達の士気は高いが、徴兵された人の士気は低い。士気の低さは他の人達への感染力が強い。


「ガルムンドさん。徴兵された人から、何人か西側の警備と見張りに行ってもらうのはどうでしょうか?」


「ふむ。確かに川があるからと言って無警戒は良くないからな。その案を採用しよう」


 こうして、リーグ城の防衛体制は整った。


 太陽はゆっくりと沈み、夜が訪れた。遠くからは松明の行列が見えた。


「来たか」


 翌朝には、開戦だ。

リーグ城防衛体制

挿絵(By みてみん)


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