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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第三部:希望の継承者 第一章:駆ける狼
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フォルマ伯爵兄妹の頼み

 グラダナと接触してから、二日。念の為、接触があった事をイェール卿に話した。


「南の獣人達に大きな動きは無い様じゃ。このまま兵士達の訓練を続けてくれ。今は力を溜め込み、来る戦いに備える」


 ラームネを作って以降、スレーン様は明るい雰囲気になった。その影響か、気持ちを集中させて剣や薬の訓練を受けている。ギオル様も思いつめた表情が柔らかくなり、動きに柔軟性が出てエリーと格闘の訓練をする。


「皆、雰囲気が良くなったわね」


「確かに。伯爵兄妹が元気になってから活気が出て来たな」


「士気が上がって良かったよ。見てよ。スレーン様が笑顔になると周りの人達も、自然と笑ってる」


「お姫様の力ってすごいな」


 俺達も休憩しながら兵士達の様子を見ると、昨日までとは全然ちがう。仕える主人達が放つ雰囲気で、ここまで変わるのかと不思議に思った。訓練所は笑い声も聞こえる程に賑やかになって行った。スレーン様をラームネで元気付けられたなら、作った甲斐があった。炭酸石、ありがとう。


「明るくなって良かったけど、ギオル様の様子がちょっとおかしいのよね」


 エリーの言葉に俺達の視線はギオル様に向く。楽しそうに兵士達と話していた。特におかしいとは思わない。


「気負いや緊張は抜けてるけど、少し恥ずかしそうに見る時があるのよ」


「エリーがとても美人だから仕方ないさ。悪い緊張が緩んで、改めて見ると恥ずかしさが出たんじゃないかな」


 二人から視線を感じたので、横を向くと見つめられている。


「はぁ。アルト、私だから良いけど他の女性には、そういう事を軽々しく言わない方が良いわよ」


 意味が掴めなくて考え込んでいると、また溜息をつかれた。


「ミーナさんが酒場で男に言い寄られて、アルトは心配しているでしょ。その逆よ。アルトがホイホイと他の子に美人だって言ってると誤解する子も出て、ミーナさんが不安になるじゃない」


「これは俺でも分かるぞ」


 二人の言葉に何も言えない。ミーナ、ごめん。


「話は戻して、ギオル様は私が悪いのかもしれないけどね」


「急に美人自慢?」


「違うわよ。偶然、ギオル様が井戸で水浴びしている所を見たのよ」


 俺とクラルドは、思わず声を上げて納得した。エレーデンテだった頃、似たような事があって女子達としばらく気まずくなった。でも、ほとんどの女子は言葉通り水も滴るいい男であるラーグに見惚れていた。次第に両方とも慣れて恥が無くなって行った。

 一般的な領軍なら女性は滅多にいない。ギオル様もあの時の俺達と同じ気持ちなったのだろう。しかも、相手はエリーだから仕方ない。


「若いなぁ」


「二つしか違わないわよ。でも、ギオル様がリークトと同じ言葉を言ったのは驚いたわ……」


 エリーは懐かしむ様に小さく笑う。目線の先には、兵士と笑い合うギオル様がいた。


 訓練も終わり、片付けをしているとギオル様とスレーン様がやって来た。


「アルト殿。スレーンと話したのですが、あなたの薬師としての力を借りたいのです」


 フォルマ伯爵の事だと気付いた。話を聞くと、やはりフォルマ伯爵は病で伏せていると分かった。しかし、領都の薬師達は原因が分からずにお手上げとなっていた。二人はグラダナが毒を盛ってフォルマ伯爵を弱らせているとも考えたが、自分達ではどうしようもない。そこで、高名な薬師の大師匠を持つ俺なら、何か出来るかもしれないと頼って来てくれた。


 仕官してからフォルマ伯爵とは会っていない。他の皆も同じだった。このチャンスは逃せないと引き受けた。治療はすぐに出来なくてもフォルマ伯爵の状態を知れるチャンスだ。


「父上の部屋の前には、グラダナの手先はいます。普段、私は入る事が出来ないので別の所で騒ぎ、見張りを動かします。その間に、父上の状態を見てほしい。部屋の場所までスレーンが案内します」


「分かりました。何種類か薬を持って部屋に忍び込みます。スレーン様は部屋の近くまで案内をお願いします。その後は、自力で逃げるので」


「それは、大丈夫ですか? 窓はありますが、外は高い場所なので逃げるのは難しいと思います」


「大丈夫です。こう見えて、曲芸も出来るんですよ」


 その言葉に二人は首を傾げるが、任せてもらえた。別れた後、すぐにクラルドを通してイェール卿に知らする。そちらも任せると返事が来たので予定の時間まで準備をした。


 夜。待ち合わせの時間になったので、本館に入る。入口の門番は何も言わずにドアを開けてくれる。早く入って、と呟くのでギオル様達が話しを通してくれたのだろう。

 玄関ホールで待っていると、スレーン様が二階に手招きをしている。足音を立てない様に上がって、後ろについて行く。


「ここから、突き当り右を一回と突き当り左に行った所にお父様の部屋があります。ドアの前に人が立っているので後は分かると思います」


「分かりました。スレーン様もですが、ギオル様も無理をしないでくださいね」


「はい。それでは、お父様をお願いします」


 スレーン様は闇に消えて行く。言われた通りの場所に行くとドアの前に見張りが立っていた。様子を見ていると、騒ぐ声が聞こえて来た。きっと、ギオル様だ。どんどん大きくなる声に、見張りが動いた。


(今だ!)


 ドアの鍵は掛けられていなかったので中に入る。


「うっ。この匂いは……」


 部屋に漂う重い香りが、危険な気配を漂わせていた。すぐに布で口を覆い、慎重に進んだ。窓を少し開けて空気を入れ替える。

 ベッドに横になる人物は三十代とは思えない程、衰えている姿だった。顔色は青く、金髪は白く変色している。


「何だ、これは……」


 生命探知を使うと、伯爵の中に不気味な黒い影が蠢いているのを見た。


「マードックの遺書にあった、エウレウム様と同じ物なのか?」


 エルフの里の決戦の時、マードックはエウレウム様の中が黒い物で満たされていると書いてあった。


「どうすれば良いんだ」


 栄養不足なのは間違いないので、様々な食材を調合した栄養剤をフォルマ伯爵に飲ませた。その後、心拍や口臭。瞳孔を確かめる。色々と調べていると、掠れるような声が聞こえた。


「……誰だ」


 薄っすらと開かれた目は、しっかりと俺の姿を捉えている。伸ばそうとしている手を握り、顔を近づけてゆっくりと伝えた。


「俺は、アルトと言います。スレーン様とギオル様から、診察を頼まれました。どこか、辛い所はありますか?」


「……グラダナ」


 喋りにくそうだったので唇を湿らせる。さっきより、声が出しやすくなった。


「グラダナ、声に、魔法。黄金、獣人が、見える」


 息を切らしながら断片的に伝えられる。それらの言葉を組み合わせると、言葉の意味が少しずつ分かって来た。


「グラダナの声には、魔法がある。黄金色の獣人が見える、ですか?」


 微かに頷く様に見えた。その後、フォルマ伯爵は目を閉じて眠りについた。


「グラダナが使う魔法か。会った時の違和感は、声を使った魔法に抵抗を感じていたのか」


 そこまで考えていると、部屋の外の騒ぎが治まって行くのを感じた。窓の外は崖だったが軽やかに身体強化をして、一息で兵舎へと戻った。


「イェール卿、起きてますか?」


 フォルマ伯爵の部屋から出た後、イェール卿の元に行った。中にはサラール卿とアーブさん達もいた。


「それで、どうじゃった?」


「毒は盛られていないようです。途切れ途切れの言葉ですが、グラダナの声に魔法が使われている事と、フォルマ伯爵には黄金の獣人が見えるって言ってました。そこまで話して寝てしまいました」


「グラダナは何らかの方法で、声を使ってフォルマ伯爵を弱らせたと見るべきですね」


 サラール卿の言葉に他も頷く。


「多分ですが、マス・ラグムは武器を使って他の獣人をマーラの感知者に変えました。グラダナもその影響でマーラを使っているかもしれません」


「いよいよ、あいつを排除する理由が固まって来たの。グラダナを倒せば、伯爵は元に戻るのか?」


「正直、分かりません」


 生命のマーラが黒くなっている事を話そうとしたが、この話をして良いのか迷った。


「アルト。深くは聞かん。見た物、感じた物を話せ」


「ありがとうございます。伯爵の中で、黒い何かが蠢いていました。それを除けば元に戻るかもしれません」


 イェール卿はしばらく考えてから、サラール卿達を部屋から出る様に言った。俺と二人で話したいと。


「アルトよ。さっきの黒い何かの話だが、生命探知を使ったのか?」


「……はい。もしかして、生命のマーラの話を知っているんですか?」


「そうじゃ。あいつとは長い付き合いじゃからの。色々と聞いた。お前は、マードックからどんな技を教えられた? それが鍵になるやもしれん」


 隠し事はせずに答えると何をする決まった。サラール卿達を呼び戻して、その作戦を伝える。


 イェール卿の準備が整うまで、再び訓練の日々に戻る。兵士達の練度も上がったので、今度は俺達が教わる番となった。それは、馬術だ。今でも馬は扱えるが、遊牧民族の馬術の技を伝え持つファーレンの民には及ばない。騎馬兵としての訓練を受ける。

 そこでは、ギオル様が嬉しそうに教えてくれる。はしゃいでる様にも見えた。


「皆さんに訓練のお礼が出来ると思ったら、嬉しくなってしまって。すみません!」


 数日に渡り、騎射の難しさや突撃をする恐怖を試行錯誤していると、イェール卿から連絡があった。明日、作戦を決行すると。

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