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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第一章:夢
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ゴル村とお届け物

 

 家族との朝食を終えたアルトは家の庭で育てている薬草の世話に向かおうとした。アルトは村の薬師であるオーロンの見習いとして自分専用の薬草畑を管理している。


 簡単な薬の材料が多いが、町に行かないと手に入らないものばかり。何も無い辺境の村にはとても貴重だ。


「アルト、畑に行く前に、先に門番のモルにこの薬を届けてくれ。あいつ、昨日は酒場で飲み過ぎていてな。絶対に二日酔いになってる。門番が二日酔いじゃあ、心配で仕方ない。最近、北の山に獣人達を見かけたって行商人が言ってたしな」


「わかった。モルさんも新婚さんなのに、遅くまで大丈夫なのかな」


「大丈夫だろう。嫁とどっちがより好きかで喧嘩したらしい。あつあつだな。・・・村の中だが気を付けて行くんだぞ」


「・・・うん。いってきます」


 一瞬、顔を曇らせたオーロンから注意を受け、アルトは村の入口に向かった。


 アルト達が住むゴル村は、カバヴィル大陸の西部を構成する二つの地方のひとつバラール地方の西側に位置する。


 バラール地方は、カバヴィル大陸を治めているプルセミナ共和国の国教プルセミナ教の聖地コバクがあり、プルセミナ教皇の直轄地である。


 北には険しい山々が続き、緑色の肌をしたオーク族が住む、ドンゴ地方。


 北東に人類発祥の地、ノーラ地方。


 東にプルセミナ共和国首都エストがあるサーリア地方。


 南東に大部分が砂漠に覆われたニクス地方。

 そして、南西にバラール地方と共に大陸西部を構成し、肥沃な土地で大陸最大の人口を有するウェールド地方がある。


 村の大人たちは『ウェールド地方の麦酒を飲んだら、ほかは薄めた酒だ』とよく言っている。その度に、ゴル村の酒場の店主を怒らせて薄めた酒を飲む。アルマの料理の影響でアルトはそこら辺の村人よりも舌が肥えていた。現在、14歳だが成人である16歳になったらウェールドの麦酒を飲んでみたいと密かに思っている。


 このように、たくさんの地方の通り道になっているバラール地方は別名『道の地方』と言われている。


 アルトは村の入口に向かいながら畑仕事をしている村人に挨拶をして進んでいく。しばらくすると向かい側から薪を乗せた台車を引く、アルトと同い年の少年『からかいのジェット』が来た。その名の通り、人をからかい、時に失言をしてしまう厄介な友人だ。


「おはよう、アルト! 珍しいな。朝にここを歩いてるなんて。薬草畑が枯れたのか」


 ケタケタと笑いながら、アルトをからかい足を止めた。


「悪い冗談だよ、ジェット。父さんからモルさんに薬を届けるように言われたんだ。門番が二日酔いだと心配だって」


「モルさん、二日酔いかよ。父ちゃんが言ってたけど、北の山が怪しいらしいぜ。しっかりしてもらわないと。・・・なぁ、まだ村の外には出れないのか?」


 心配顔でジェットは尋ねた。そんなジェットに苦笑いを浮かべ、アルトは否定する。


「・・・まだ行けない」


「そうか。あー、悪い。余計なこと言った。それじゃあ、俺は仕事に戻るわ」


 ジェットは頭を掻きながら謝罪して、台車を引いて仕事に戻っていった。その姿を見送り、アルトは目的地へ急いだ。


(まだ、怖いんだ)


 脳裏に浮かぶ。黒い生き物と悲鳴。アルトは体を擦った。


 村の入口に着いたアルトは門番の小屋をノックした。返事が返って来て扉を開けると、中には軽装の鎧を着た中年の男性がいた。


「おはようございます、ナートさん。モルさんはいますか?」


「おはよう、アルト。珍しいなこんな朝早くから。モルと剣の鍛錬をするには早いだろう。それに、今日のあいつはペコルでも勝てるくらい弱ってるぞ」


「ははは。そんなモルさんをぺコルには勝てるくらい回復させる薬を持ってきました。父さんからモルさんに差し入れです」


「さすがオーロンさんだ! あいつが二日酔いになってるのを知っていたか。だけど、ちょっと前に自分で二日酔いに効く薬草を採りに村を出たよ。追いかければすぐに見つかるが行くか?」


「・・・いや。やめておきます。ここで待っていてもいいですか?」


「あぁ。いいとも。ちょっと待ってろ。この前、子供がくれたハーブのお茶があるんだ。淹れてやろう」


 小屋の奥に消えたナートを見ながら椅子に座った。壁には複数の武器が並んでいる。その中でも使い古された木剣を見ながら、今日は剣の練習はできないなと思った。


 奥から香ばしい香りが漂ってきた。どうやらお茶ができたようだ。ナートはカップを二つ持ってやってきた。カップを受け取り一口飲むと、喉と胃をスッとする爽快感が駆けた。口にはお茶の熱と爽やかな風味が残り頭をスッキリさせてくれる。ある事に気付くと、その様子を見ていたナートは笑っていた。


「ナートさん、このお茶の葉っぱってモルさんが採りに行った薬草じゃ?」


「自業自得だ。村の安全を守る門番が、痴話喧嘩でぺコルにも負けそうなほど二日酔いになって。行商人達から情報は貰ってるだろうに」


「朝、父さんも言ってたけど、そんなに警戒するほど北の方が危ないの?」


「あぁ、東から逃げてきた獣人達が北の山や森にいるのを見かけたって話が入ってくる。そこから一番近いのがこの村だからな。用心にこしたことはない」


 話の内容に不安を抱きながらもう一口お茶を飲んだ。やはり清涼感のあるこれは一抹の不安を和らげてくれた。


「アルト、剣の訓練は欠かさないでおけよ。不測の事態もある。・・・けれど、オーロンさんの顔を見れば獣人達もビックリして逃げていくかもしれんな」


 雰囲気を和らげるようにナートは話した。アルトは父の体と顔を思い出し、案外ありえるかもと笑った。


 獣人。大陸南部から船で遠く東に渡った大きな島に彼らの故郷がある。その島からカバヴィル大陸に渡り、持ち前の筋力で彼らは人類と共存しながら生活をしていたが、ある日から彼らは迫害され、ついにはプルセミナ教の広がりをみせた頃に奴隷として捕まえられ労働力にされた。その苦役から逃れる獣人もいて、逃げた先で略奪や、場合によっては村ひとつが無くなるほどの惨劇も起きている。今までの苦しみを晴らすかのように。


 そんな脅威がこのゴル村の近くに迫りつつあった。


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