側を歩む者
晩餐会を終えたアルトは、セレス公爵にテラスに誘われた。宮殿は海に近く、微かな潮の香りと心地良い潮音が聞こえる。空を見上げれば、満天の星空だった。
アルトは大きく息を吸って吐き出した。心が洗われる様な穏やかな気持ちになる。
「……すごく落ち着きます」
星空の下、海が醸し出す魅力に心が静かになる。
「そうだろう。ここは私が幼い頃から好きな場所だ。さぁ、こちらへ」
テラスには二つのデッキチェアと、その間に高さが丁度良い小さなテーブルがあった。アルトとセレス公爵は椅子に体を預ける。
「これ、すごく良いですね! 丁度良い角度で星空が見えます。こんな椅子、初めて座りました!」
アルトのはしゃぐ様子に、セレス公爵は面白そうに笑った。
「喜んでもらえて良かった。小さい頃、ラーグもこの椅子に座り星空を見上げては、今のアルト殿の様に楽しんでいたよ」
十八歳の自分が、幼い頃のラーグと同じ喜び方をしてると知って恥ずかしくなった。
「す、すみません! こんな形の椅子に初めて座りましたので。つい……」
「こちらこそすまない。幼い頃の、あの子を思い出してね」
セレス公爵は使用人を呼ぶと、大きなリンゴが入った酒瓶を持って来た。それを見て再びアルトは驚く。その様子をセレス公爵は再び楽しんだ。
「リンゴの実が小さい時に、瓶に入れて枝に固定するんだ。そして、成熟した時に枝を切って収穫する。そうするとこの様にリンゴが中に入る仕組みだ。この中に火酒を入れて熟成すると素晴らしい味わいになる。飲んでみるかね?」
「はい!」
丸みを帯びたグラスにトクトクと注がれると、リンゴと火酒の芳醇な香りが広がった。アルトは目を細めて香りを楽しむ。
「乾杯」
渡されたグラスを受け取り、香りを楽しみながら一口味わう。声に出せない感動が広がる。飲み込んだ火酒の余韻と潮の香りが合わさり幸福感が押し寄せる。
「すごい経験をさせていただきました。ありがとうございます。閣下が、お気に入りな理由が分かります」
「満足してもらえて良かった。それに固い口調はしなくても良い。気軽にウィンザーで構わない」
呼び捨ては恐れ多いと思い、ウィンザー様と呼ぶ事で決着がついた。セレス公爵もアルト殿からアルト君へと変わった。
二人は、夜空と火酒を楽しみながら話をする。
「今日はラーグの話をたくさん聞かせてくれてありがとう。サーシャもユリウスも喜んでいたよ。あの物語はサーシャも好きだからな。話題に上がって嬉しがっていた」
「喜んでもらえて良かったです。話してくれた乗合馬車の人に会ったら、サーシャ様と話が盛り上がったと自慢しないと」
芳醇なリンゴの火酒と微かな潮の香りを楽しみながらアルト達は雑談する。星空を見てラーグに教えてもらった星座の話をして、ウィンザーがこの時期の星座を教えてくれる。そして、ラーグに星座を教えたら、毎晩ユリウスを連れて夜空を見上げていた話を聞く。ラーグの話が出る度にウィンザーは控えめに喜んでいるのが分かる。
(やっぱり、父親だからな。誰も望まずに教会に行った子供の事は心配になるか。会ったら、手紙を出す様に言っておこ)
ラーグの話の次はユリウスの印象を聞かれた。失礼が無いように言葉を考えていると、気にしないで良いと許しが出た。
「ラーグから聞いていたイメージと、掛け離れていると思いました。ラーグとアカウィル村までの旅の中で、ご家族の話を聞いたのですがいつも心配していました。最後は俺がいないとダメだからなって言って話を締め括っていましたよ」
「ハハハ。ユリウスが生まれてから、ずっと兄貴風を吹かせていたからな。ユリウスもそれを嬉しがっていた。その頃の感覚が抜けないのかもしれない。だが、その姿を知っているから今後を思うと心配になるのかも」
ウィンザーの言葉には影が差していた。その心にアルトは思い当たる事を話す。
「当主になる事ですか?」
「うむ。実質、セレス家は南部の王みたいな存在だ。セレスとニクス地方には他の諸侯もいるが、彼らは長い歴史の中で、セレス家がどんな存在だったかを忘れていない。エスト帝国の建国を支えた事。帝国末期に教会との『大戦』で勝利をして大勢の帝国民の保護した事。崩壊後は、独立連合国として教会の侵攻を防いだ『聖戦』。その後の、プルセミナ共和国に編入する時に南部の地位を高めた事。今は、昔よりも力を増した教会との駆け引き。これら全てを含めて、彼らはセレス家を大陸の正当な支配者と思い、忠誠を誓って団結してくれる」
そこで大きく溜息をついた。それは、ウィンザーが背負って来た重責の疲れを、吐き出している様に思った。
「南部の全てがセレス家を中心に動く。仮に、セレス家は王を辞めると言っても周りが認めない。だから、諸侯をまとめて教会と戦い南部を守らなければならない。この重責をラーグがいなくなって急に渡される事になったユリウスが不憫だ。あの子なりに覚悟を持って来る時に備え、日々学んでいる。だが、ラーグには及ばない。それを理解しているから、ユリウスも焦っているのだろう。未来の事は分からない。せめて、動乱が起きない時代であってほしい」
アルトは慰めの言葉が言えない。
セレス家が背負う大勢の期待から逃れる方法は無い。自分も弟の死の悲しみが抜けない中、未来予知の力で恐ろしい未来を見てしまった。知っていても、迫って来る未来への不安が取り除けなかった。そんな時に、キケロ・ソダリスと会ったんだ。あの人の言葉で未来への対応じゃなくて、未来という霧の中に潜む運命を掴み取って、その先に行く。その勇気もあの人がマーラを通じて与えてくれた。そして、勇気を出して進む一歩を支えてくれる人がいた。
昔を振り返り、ウィンザーへ言葉を掛ける前に、進む一歩を支えてくれたミーナの姿を思った。
「ウィンザー様。未来は移ろう物ですが、ユリウス様の時代になっても立ち向かわなければならない時が必ず来ます。未来を不安に思う気持ちを俺はよく知っています」
「よく知っているとは?」
「最初の故郷に暮らしていた頃、俺は未来予知の一時的に能力を持っていました。その未来予知が見せるものは破滅の未来でした。何も分からず、ただ不安に苛まされ迫って来る未来を怯えて待っていました。未来が見えているのにです。ただ、希望の光を与えてくれる人に出会いました。それがキケロ・ソダリスです」
「初めて会った時に話していた人物だね」
「はい。キケロ・ソダリスは迫る未来に対して、どうするか迷っている時に大切な事を教えてくれました。未来は避けられない。でも、未来の中にある運命は自分で選んで掴みとれる」
星空を眺めていたウィンザーは体を起こしてアルトに顔を向ける。アルトも起き上がってミーナの指輪を優しく握って続きを話す。
「その言葉を信じて運命を掴み取る為に、勇気を出して一歩を踏み出しました。思い返せば、一人では進めなかったかもしれません。でも、俺に手を引いてくれる人が側にいました。そこからは実際に、破滅の未来がやって来ました。でも、一歩を踏み出せたお陰で運命を掴み取り、全てを失わなくて済んだのです。セレス家は大勢の方達が側に居ます。ユリウス様は一人ではありません。ウィンザー様がユリウス様の未来を案じるなら、ユリウス様の側に、共に運命を掴み取る一歩を踏み出せさせれくれる人を置かれてはいかがでしょうか?」
「共に運命を掴み取る一歩を踏み出せさせれくれる人、か」
「未来予知の力が無くなった後も、あの言葉を信じて未来の中に潜む運命を掴み取ろうとして来ました。たくさんの迷いや怯えもあります。でも、俺には背中を押してくれたり、手を握ってくれる人達がいつもいます。それは、故郷いる恋人だったり、ラーグだったり、リークトだったり、マードックであったり。ここに来てからはドーキンさんやレミーさん。マルトさんやウィンザー様もです。死んでもしまうかもしれないと思った時でも、その人達のお陰で生き延びて、今ここに居ます。ウィンザー様も心当たりがありませんか?」
ウィンザーは大きく息を吸い、力強く頷いた。
「そうだ。確かにその通りだ。何故、気付かなかったのだろうか」
「ユリウス様にもそういう方が、側に居てくれると思うと不安も和らぎませんか?」
「そうだな。それなら私にも出来る事がたくさんある。アルト君が言ってくれた様に、私達にはたくさんの人がいる。今、ユリウスは一人で頑張ろうとしている。それを支えてくれる人に出会える様にするのも良いな」
「はい! ユリウス様が未来の恐怖の中に進まれる時に、その人が助けてくれます!」
「アルト君、ありがとう。素晴らしい話が聞けた。いやはや、この歳になってもこんな事に気付かなかったとは……」
ウィンザーは満足した様に椅子へ体を預けて星空を眺める。その横顔を見て、アルトは罪悪感を感じていた。
(ウィンザー様、すみません。激しい動乱は必ずやって来ます)
使徒のリンドア征服、勇者の暗躍、教皇が作る平和。その事をただ一人知るアルトは、これから始まる戦いの時代を苦しく思う。火酒から立ち上る芳醇なリンゴの香りを吸って、未来への思いを今だけは掻き消した。
翌日、マグナーサ宮殿に泊まっていたアルトの元にユリウスがやって来た。
「ユリウス様、おはようございます。突然、いかがされました?」
「父からアルト殿のお話を聞きました。それでどうしてもお礼が言いたくて参ったのです」
少し興奮しているユリウスを椅子に座らせて話を聞いた。
「私は、これからのセレス家を支えようと一人で努力していました。それでも、兄には及ばないと自覚して必死になっていました。でも、アルト殿の話を父上から聞いて目が覚めるような思いになったのです。私の周りには、力を貸してくれようとしてる人達がいます。ですが、必死になり過ぎて視野が狭まって気付きませんでした。あの話を聞けて本当に良かったです」
「そう思っていただけて良かったです。私も苦い経験をたくさんしましたが、側に居てくれる人達のお陰で何度も助かりました。ラーグもその一人です。今は、ユリウス様の側にラーグはいませんが、いつも気に掛けていましたよ。ラーグの思いもユリウス様の側にある事を覚えておいて上げてください。その思いがきっとユリウス様が未来へ歩まれる時に支えになると思います」
「はい!」
ユリウスはウィンザーが呼んでいる事を伝えた。アルトが求めていた調べ物が完了したと。
(ソダリスの事だ!)
遂に、ソダリスについて知る事が出来る。全てが始まった十四歳の頃に出会った、不思議な人物。キケロ・ソダリス自身の事は分からないかもしれないが、ここに来てやっと何かしらの情報が手に入る。
ユリウスはウィンザーの執務室へ案内した。部屋では、嬉しい再会があった。
「マルトさん、起きたのですね!」
「はい。アルト殿のお陰で生き延びる事が出来ました。私が倒れた後の話も聞きました。魔物を討伐していただきありがとうございます!」
「いえ。マルトさんの作戦のお陰でゴルズニルドから黄金を剥がす事が出来ました。目覚められて本当に良かった」
感動しているアルトを笑いながら席へ座らせる。
そして、マルトはアルトとウィンザーにソダリスについての調査結果を報告してくれた。
「ソダリスと呼ばれる人物が記録に出て来たのは、今から八百年前です」
「八百年前!?」
「はい。その頃は言語が今とは違うのですが、解析した結果、ソダリスと呼ばれている事が分かりました。しかし、ソダリスの表記の前に言葉があったのです文字が欠けて読めませんでした。特徴ですが、ソダリスは黒髪と黄金色の瞳で剣の達人と表記されています。その資料で一番強調されていたのは、神の奇跡を使うという事でした。これ以上の具体的な事は分かりませんでしたが、アルト殿がお会いになられたキケロ・ソダリスと似たような物を感じます」
「剣の腕は分かりませんが、髪や瞳の色だと特徴に合っています。神の奇跡ってマーラの事でしょうか?」
「その可能性はあるな。エスト帝国の初期の時代でも、マーラは一般的に知られている物では無かった。それより前の時代であれば、奇跡という表現もするだろう」
ウィンザーの考察を聞いてマルトも賛成した。ここでマルトは別の資料を出す。
「そして、次にソダリスが出てくるのは最初の八百年前から五十年後の七百五十年前。ここでも言語が変わっていました。その時代は、動乱が多く混乱していた様です。資料には、大きな闇の力が世界を飲み込もうとしていたました。それに立ち向かった集団の中にソダリスの存在がありました。ここでは名前はソダリスのみで通っています。そのソダリスの片手が光り輝き、闇を払った。そして、闇に隠れていた者達を、その集団が倒したと。特徴はさっきと同じですね」
「五十年後だと、年を取った最初のソダリスが出て来た可能性もありますよね?」
アルトの質問の答えはすぐに返って来た。二人共、若い人物だったのだ。ソダリスとは称号で、弟子や誰かが襲名した可能性があるとも考えられた。その後に出て来るソダリスも全員若い男性だからだ。
その後、ソダリスは二回出現した。現れた時代は不規則で十年の時もあれば、六十年の時もあった。特徴も変わらない。見た目は一貫して黒髪と黄金色の瞳。しかし、前の二つを合わせて三回目から見た目の情報が追加された。高貴な生まれを思わせる雰囲気を持ち、その端正な顔立ちで仲間の女性の心を射止めていたそうだ。
ソダリスの功績も具体的に記載された。時の英雄からは友と呼ばれ親しまれていたが、突然、姿を消した。そこからその時代では記載が無かった。
衝撃を受けたのが、八百年前から時代は進み六百八十年前。四回目の登場だった。
「この時はキケロ・ソダリスと名乗っていました。段々と見た目の情報が出てきましたが、お会いになった感じと当てはまりますか?」
「……はい。黒いローブに紋章まで一緒です。本当に六百八十年前に?」
「私も信じられなかったので何度も計算をしましたが、年代に間違いはないです。その時は、世界を危機に晒す三体の闇の存在がいました。それを倒した集団の中にキケロ・ソダリスがいました。そして今までと同じように、突然消えてしまう」
報告を初めて聞くアルトやウィンザーは大きく息を吐く。
「何だか、時代を飛び越えて現れている様な感じがしますね」
「同感だ。最初こそ襲名と思ったが、もしかして八百年前の名前が欠けているソダリスもキケロなのかもしれないな」
ウィンザーの言葉に頷きながら、八年前にあった人物の最初の違和感を思い出した。
「キケロ・ソダリスと会った時、最初はこの世界の存在じゃないと思ったんです。あの人の周囲だけ何かが違うと。不思議ですが、その気持ちはすぐに無くなりました。あの頃はマーラを知ったばかりだから、それだろうと思いました」
アルトの言葉に、その違和感は正しかったのかもしれないとマルトは言う。次に現れた時代も興味深い物だった。
「六百二十年前!?」
ウィンザーの驚く声が執務室に響く。呟く様に理由を話した。
「……エスト帝国が誕生した年代だ」
「はい。建国神話の中に記載されていました。建国の年代はブレがありますが、初代皇帝イグティナ様と共に戦ったセレス人、キケロ・ソダリスとあります」
ウィンザーが溜息をつき、唸る。
「ソダリス騎士団とは、そういう事だったのか。アルト君から話を聞いた時に、騎士団で引っ掛かりがあったんだ」
マルトは建国神話を引用して説明してくれた。初代皇帝イグティナの話だけなので信憑性がつけられないでいた話だった。キケロ・ソダリスは、自分が配下にしていた人達を、皇帝一族を守る為に使うようにと進言した。そこで皇帝は、キケロ・ソダリスへの感謝の思いを込めて、組織名をソダリス騎士団と名付けた。その後、キケロ・ソダリスは突然姿を消してイグティナの前に二度と現れなかった。ソダリス騎士団の本部には、周囲の言葉を元にキケロ・ソダリスの像が作られていた。
「イグティナ皇帝は、キケロ・ソダリスを無二の友と周囲に話ていたそうです。崩御が近くなった頃は、もう一度会いたいと呟かれていたみたいです」
「多分、その頃には別の時代に行っていたのかもしれませんね。仲の良い友達に会えなかったのは少し寂しいです」
キケロ・ソダリスの登場は、アルトと出会うまで二回あった。
五百四十年前、エスト帝国で大規模内乱が起きた時に現れた。その姿を見た皇帝とソダリス騎士団は、像の姿と一緒の上、イグティナ皇帝が遺した秘密を知っていたので、帝国の守護神が現れたと崇めた。そして、キケロ・ソダリスのマーラの力と指揮の下で内乱は収まった。
「最後は、三百年前です」
「三百年前って、エスト帝国が滅んだ時代ですよね?」
「はい。この時代に力をつけたプルセミナ教会と長く戦った『大戦』で、帝国は消滅。この頃にはソダリス騎士団本部に置かれていたキケロ・ソダリスの像も破壊されて人々の記憶から去って無くなっていました。最後の記録はペレノル野の戦いとエスト・ノヴァ攻防戦。いわゆる『聖戦』です」
「うむ。聖戦に加わっていたのか」
「聖戦の具体的な資料は残されているので、どんな人だったか記録に残っています。戦いでは敵を圧倒する剣術やマーラを使うなど、強力な存在だった様です。指揮官としても優秀と。日常では料理を振る舞ったり、気さくな方で子供達から人気があったと書かれています。それと端正な顔立ちと英雄の様な戦いぶりに、求婚も多かったみたいですね」
「ハハハ。そして最後は、突然消えてしまうと」
いつもの流れにアルトは笑ってしまう。
マルトは調査結果の総括をした。ソダリスあるいはキケロ・ソダリスは、八百年前から出現していた。全体的に見ると出現する時は、何かしらの理由で動乱の時。その時々の指導者達の側に居る。キケロ・ソダリスが陣営にいる勢力は常に勝利している。そして、全てが終わった頃に姿を消す。見た目と特徴は、アルトが出会ったキケロ・ソダリスと類似している。
「何だかすごい話になりましたね。あの人なら、本当に時代を飛び越えて来ている様にも思えます。それぐらい不思議な人でした。そういえば、聖戦から俺と会うまでの期間は現れなかったのでしょうか。その頃も大変な時があったと訓練で習いました」
ウィンザーとマルトは考えるが、大変なのは世界と言うよりもプルセミナ共和国にとっての物だった。確証は無いが、プルセミナ教会側にはつかなかったのかもしれない。
「この流れで行くと、キケロ・ソダリスが出現したという事は大きな動乱があるのかもしれません」
アルトはすぐに動乱の内容が思い浮かんだ。
「何かしらの理由があって、アルト君のマーラを覚醒しに現れた可能性もあるのか」
世界だけではなく、自分にも何か起きようとしている。自分だけならまだ良い。今回の事件の様に、使徒の駆け引きにミーナや大切な人達が巻き込まれない様にしたい。絶対に守る。
「キケロ・ソダリスに会った意味をしっかりと考えないといけませんね。動乱の時代か」
アルトは一瞬マルトを見た。ノートラスの話を思うと、今の時代で動乱の中心には必ず勇者の存在がある。もし、マグナスの恩恵が勇者である事なら、自分はマルトと戦わないといけないかもしれない。
(そんなの嫌だ)
目を閉じれば、リークトの姿が思い浮かんだ。




