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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第一章:夢
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約束

 

 沈黙の中、夕食を終えたオーロン家と客人はそれぞれの準備をした。荷物の確認、武器の手入れ、家の補強。


 オーロンが確認しに行った避難所は、使うには心許ない状態だった。そのため村人達は家の補強を行い、立て籠ることになった。

 特にオーロン達は家の資材を余分に貰い厳重に補強をしていった。


 ミーナが逃げざるを得ない状況が起こる。それは変わることのない未来だとわかっている。

 しかし、教会騎士キケロは『未来は()()()変わらない』と言ったのだ。

 改めてキケロとの話を聞いたオーロンとアルマは、その『滅多に変わらない』に賭けてみた。家を頑丈にしてミーナとアルマを中に入れ、オーロンは近くの茂みに隠れ家を守る。


 これが下級騎士の証である灰色ローブの教会騎士の言葉なら信じなかったが、キケロはマーラの扱いに熟達した黒色ローブの上級騎士。自分達の知っている事とは違いがあるが、アルトと同じ未来予知が出来る上級騎士の言葉を信じた。


 ミーナを守り切ることで何かが変わるかもしれない。微かな望みだが、出来る事は全てやる。


 カンカンと家に木槌の音を響かせる男二人に、ミーナはアルトを貸してほしいと言った。

 二階へ上がっていく二人を見て、オーロンは再び木槌を鳴らした。


 アルトの部屋に入り、ミーナは椅子に座り話し始めた。


「アルト、この石を持っててほしいの」


「赤い石?」


「バナナイト石。アルマさんからもらったの。私も同じのを持ってる。アルト・・・。この石が砕けた時は私は死んでるの」


「え、どういうこと!?」


「この石に血をつけると、その人の命の状態を教えてくれるの。石が赤いと問題なく生きてる。これが段々と白くなっていくと何かがあって体が弱っていってる。そして、真っ白になると、砕けて、死んでる事を意味するの」


 アルトはバナナイト石を握りしめた。


「・・・アルト達は攫われた私を追いかけて来ることになってる。でも、もし、追いつく前に石が砕けたら、追うのをやめて、村へ引き返して」


「・・・」


「死んだ私を追いかけて、アルト達まで危険な目に遭ってほしくないの。多分アルマさんも、そのつもりで、この石を渡してきたと思う。当然よ。ティト君を失って、アルトまで失ったら・・・」


 ミーナは一度、目を閉じて息を吸い、服に隠れていた首飾りを出してた。それは見惚れてしまうような綺麗な緑色の石がはめ込まれ、土台には麦の紋章が彫られてた指輪が下げられていた。


「それに私は守られてるのよ! おじいちゃんが形見でくれた、この指輪が守ってくれる。これを持っていると神様が守ってくれるの。病気や怪我。ついでに言うと貧乏からも!」


 ミーナは笑って指輪を服の下に戻した。

 でも、その手が微かに震えているのも、目は薄っすらと湿っていることも、アルトは気付いた。


 この一つ年上の青髪の女の子には、励ましたり、勇気をくれるような、不思議な力を自分に与えてくれた。

 この子と会っていなかったら、自分は父と向き合えないまま、村から一歩も出れないまま、ただティトへの罪悪感に苛まれながら生きていたと思う。ましてや、未来予知を知ることもなく明日をむかえていただろう。


 こんな自分を救ってくれたミーナに出来る事はただ一つだ。


「絶対に守る! 早く追いついてミーナを絶対に助ける! 未来予知は俺にミーナが攫われるのを見せたけど、父さん達がやってるみたいに、ミーナを攫わせなければいいんだ! 少しでも可能性があるなら、賭けよう。運命を俺達で決めるんだ!」


 アルトは強くミーナを抱きしめ『守るから』と呟いた。

 ミーナは驚きながらもアルトに腕を回して言った。


「約束だよ。絶対に守ってね。絶対に助けに来てね・・・」


「あぁ、約束する!」


 深い青色の目から涙が零れた。とめどなく。ひたすらに。


(この子を守るんだ。必ず)



 ***



 落ち着いたミーナを部屋へ帰したアルトは、オーロンを手伝おうと降りた。

 一階にはアルマが料理をしていた。


「母さん・・・」


「アルト。今、明日の三食をまとめて作ってるの。忙しくなるからね」


「ミーナにバナナイト石を渡したのって」


 アルマは手を止めて、アルトに振り返った。その表情は硬く、不安や悲しみがこもっていた。

 一つ溜息をついて近くの椅子に座った。


「・・・お母さん、ダメね。どうしても、我が子のことを一番に考えちゃう。ミーナちゃんは賢い子だから気付いたのね」


「・・・」


「ティトが腕の中で死んだとき、頭が真っ白になったわ。そして、何も出来ない自分を呪った。オーロンみたいに薬も作れない。モルさんはナートさんみたいに剣も満足に振るえない。ただ、家事しか出来ない女。オーロンには言ってないけど、何度も死のうとした。何度も。・・・それでも、生きようと思えたのは、頑張ろうと思えたのは、あなたが生きてくれてたから。あの日以来、アルトは塞ぎ込んで村から出れなくなった。その時に何を思ったとおもう?」


 アルマは手が白くなるほど力強く握っていた。


「良かったって思ったの。村の外に出て危険な目に遭わない。ずっと私の側で安全に生きていてくれる。それだけでいいって。だけど、マーラの感知者になって、あなたは戦わないといけなくなった。避けられない未来がやって来た。大切な、大切な、あなたが最後は、どうなっているかわからないミーナちゃんの為に命を懸けて戦う。ティトみたいに失うのが怖い」


 アルマは震える自分を抱きしめて、言葉を紡いだ。


「アルト、あなたには生きてほしい。ティトと同じく私の下を離れて行かないで。ただ、生きてほしいの。薬が作れなくてもいい。剣が振るえなくてもいいの。生きてさえくれれば。・・・だからもし、バナナイト石が砕けたら、それ以上、追わずに帰って来て」


 震えるアルマの手をとり、アルトは包んだ。


「母さん。それは約束できない。俺はミーナを必ず守るんだ。どんな目に遭っても必ず守る。もしかしたら、俺は死ぬのかもしれない。だけど、『もし』を怖がって立ち止まることはもうしない。足掻き続ける。足掻いて足掻いて自分の運命を決める! 本当の未来を自分で掴むんだ! だから、俺とミーナの二人で帰って来るから信じて待ってて」


 アルマが見上げたアルトの顔は、力強く決意を固めた顔だった。自分の息子が、こんな顔をしているなんて信じれなかった。


 この子は、『勇気』を取り戻した時に、すでに自分の下を離れて行ってたのだ。

 自分みたいに『もし』を怖がるのではなく、立ち向かうのだと。運命を自分で決めるのだと。


「母さん、必ず二人で帰って来るよ。約束する」

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