表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第二部:殿上の陰謀 第二章:大陸縦断
188/282

黄金の魔物との戦い

 振り上げられたウォーハンマーは大きく風を切る音を立てながら振り下ろされる。激しい音を立てて地面が抉れる。


「こんなの喰らったら、一撃で死ぬ」


 ゴルズニルドの攻撃に冷や汗をかきながら、攻撃を避ける。迂闊に飛び込めば、ノートラスの言う通りぺちゃんこにされる。


「近衛兵、槍を投擲しろ!」


 近衛兵を率いて来たフォンス隊長の命令が響く。正面にいたアルト達は急いで離れる。槍が次々と投げられる。


「ちっ、浅くしか刺さらんか」


 鋭い槍先はゴルズニルドの体に少し刺さり、すぐに地面に落ちていく。

 最初の一撃を見てから、アルトや近衛兵達も近づけないでいた。その間もゴルズニルドは武器を振り回して暴れて建物を抉る。攻撃は全て大きく振りかぶっている為、隙はある。しかし、近衛兵が使う特製の槍でも意味のない攻撃と考えると、特別な鉱石を使った教会騎士の剣でも斬れるのか怪しい。


「アルト、衝撃波を放ってみろ! もしかしたら吹き飛ばせるかもしれない。その間に俺達の剣で突き刺すぞ!」


 ドーキンの言葉を頷いて、出来るだけ近くに入り込んだ。最初の一撃を避けて、衝撃波を放った。しかし、ゴルズニルドを少し後ずさる程度だった。それでも、斬れる隙を作れた。身体強化をした力で渾身の一撃を与える。


「ダメか!」


 逞しい体は剣を受け止めて薄い傷しか負わなかった。すぐに横なぎに振るわれるウォーハンマーから飛び退いて避ける。


「俺達の剣も効かないです!」


 ドーキンの舌打ちした。衝撃波は隙を大きく作る程度で、対魔物用の剣も効かない。

 一連の状況を見ていたフォンス隊長は、近衛兵に命令する。


「一班は近辺の住民の避難と宮殿に報告! 二班は負傷者の救助! 三班は戦闘継続。教会騎士と連携せよ!」


 迅速に行動に移る近衛兵。フォンス隊長はアルト達の元に駆け寄る。


「あの魔物は倒せそうですか?」


「難しいです。今まで見た事の無い奴です。体も固く教会騎士の剣が通じません。足止めが精一杯です」


「それなら、足止めをお願いします。突然の襲撃で住民の避難は遅くなるでしょう」


 アルトは頷き、ドーキン達に呼びかける。


「俺が隙を作っていきます。その間に攻撃してください! 足止めです!」


 再び身体強化を行い、軽やかな動きでゴルズニルドの懐に入り攻撃をする。効かなくても、足止めには十分だった。アルトに気を取られている内に、ドーキンやレミーも攻撃を始める。突きや斬りつけるが、効果のある傷にならない。


 教会騎士の細やかな攻撃に痺れを切らしたゴルズニルドは雄叫びを上げた。同時に薙ぎ払うような衝撃波が放たれた。


「ゲホッ。今の、何だ」


 壁に叩きつけられて咳き込む。すぐに前を見ると、美しくも恐ろしい光景だった。


「……黄金を吸収してるのか?」


 半壊したギレスの屋敷に残っていた、金銀の装飾品がゴルズニルドを中心に渦を巻いて、吸い込まれていく。

 陽光に照らされた金銀は美しく輝く。そして、ゴルズニルドは黄金の全身鎧に変化した。


「これで、攻撃が全く効かなくなったなわけか」


 黄金のゴルズニルドは、ズシズシと歩き始めた。住民の避難は急がれるが、大きな体躯をしたゴルズニルドの一歩は大きい。


「方陣を組め! 避難の時間稼ぎだ!」


 近衛兵は壁の様に盾を二段に構える。道を塞いだ。


「やめろ! 弾き飛ばされるぞ!」


 ドーキンは叫ぶが遅かった。大きく振りかぶって叩きつけるウォーハンマーが近衛兵達を襲う。

 ガンッと大きな音を上げる。ダメだと思ったが予想外の光景だった。盾は大きくへこんだが、近衛兵達は大きく後ずさって持ち堪えていた。


「耐えろー!」


「町を守るぞ!」


「近衛兵の意地を見せろ!」


 近衛兵達は雄叫びを上げながら、ゴルズニルドの攻撃を何度も耐えている。

 アルトは何が出来るか必死に考えた。


(まずは、足止めだ。皆が持ち堪えている内に何かしないと)


 ゴルズニルドの兜と鎧の隙間を見つけた。すぐに駆けだして、ゴルズニルドの肩に登り首の隙間を滅多刺しにする。浅くしか刺さらないが、近衛兵の陣形の交代の時間は稼げた。

 アルトを振り落とそうと暴れるが、必死にしがみついて首を刺し続ける。


「しまった!」


 不破のローブを掴まれた。そのまま、地面へと叩きつけられる。


「アルト!」


 レミーの叫び声が聞こえる。激痛に息が出来ないでいると、頭上にウォーハンマーが迫る。

 体を捻り、ギリギリで避けた。耳元で石畳みが砕ける音がする。そして、蹴り飛ばされたアルトは崩れた建物の瓦礫に打ち付けられる。


(……意識が遠のく。気絶したらダメだ!)


 アルトは震える手で、自分にマーラの回復術をしていく。痛みは楽になったが、ボーッとする意識を保ちながら立ち上がった。

 そこに自分を持ち上げる存在がいた。


「一度、下がるぞ。避難が完了した!」


 ドーキンに抱えられながら、ゴルズニルドから逃げる。集団で固まっていた近衛兵も陣形を崩して下がる。


「あいつは手に負えない。どうすれば良いんだ!」


「ドーキン、落ち着いて。せめて、あの鎧を何とかしないとこっちの攻撃が届かないわ」


 朦朧とする意識の中、二人の会話が聞こえる。そして、近衛兵の叫びも聞こえた。


「魔物が、また金銀を吸収しているぞ!」


 ぼやける視界の中で見えたのは、動く金塊の姿になったゴルズニルドだった。

 ウォーハンマーで砕け散っていく町を薄っすらと見ながら絶望していく。


(ラーグの大切なものが壊されていく。俺が弱いからラーグの宝が奪われていく。弱くてごめん)


『気にするな。建物は、また建てれば良い』


(ラーグ?)


 この場にいるはずの無い親友の声が聞こえる。労わる様な優しい声。他の人には滅多に見せない、穏やかな笑顔を浮かべながら話しかけて来る。


『大事なのは人だ。アルト、お前は人を救う事なら俺よりも勝っている。お前は奇跡の癒し手、メディクルムだろ?』


(もう! その名前で呼ばないでよ)


『ハハハ。だが、事実だろ? 全てが終わったら皆を癒してくれよ。さぁ、眠りから覚める時だ。お前の師匠達が遺した秘技を思い出せ。星の書に書かれていた言葉を唱えろ!』


 ラーグの姿はパッと消えた。そして、ぼんやりとした頭に二つの言葉が思い浮かぶ。


「……マーラ・ファール」


 息が漏れる様な声で二つの言葉を唱えた。


「何だ!?」


 ドーキンは、ぐったりと弱っていたアルトに何かが集まっている気配を感じた。

 アルトは体に優しい温かさが広がるのを感じた。温かさに満たされていく。心は軽くなり、大切な人達の姿が思い浮かぶ。そこには、とある少年が笑っている姿があった。声は聞こえないが、少年の言葉に力が溢れて来る。


「目が覚めたか! 何が起きているんだ。傷が無くなっているが体は大丈夫か?」


 目を開けると、心配そうに自分を見ているドーキンの姿があった。


「大丈夫です。回復しました。どんな状況ですか?」


「ここは二階層の入口だ。あいつは、マグナーサ宮殿を目指しているみたいだ。黄金のドームを狙っているのかもしれない。魔物の進行ルートから住民は避難が完了した。道中の財宝を吸収していって、攻撃がまったく効かない」


「分かりました。あいつの黄金が落ちれば、俺達の勝ちです」


「だが、俺達の剣は効かなかっただろう」


「そこは俺に任せてください」


 アルトから不思議な力を感じるドーキンは、その言葉を信じた。


「分かった。何かあるんだな。宮殿の方から黄金に関して対応できる方法があるって連絡が来た。それをやりに行こう」


 二階層の入口から宮殿に続く石畳の道は砕かれて地面をむき出しにしていた。


「魔物が来る前に、石を取り除け!」


 フォンス隊長が近衛兵と衛兵を指揮していた。アルト達に気付くと駆け寄った。


「アルト殿、無事で良かったです。あなたのお陰で近衛兵も助かりました。今、マルト秘書官に策がある様で道を破壊しています」


「策ですか?」


「はい。内容は聞かされていませんが、魔物が来たら近寄るなとしか」


「分かりました。マルトさんの所に行ってみます」


 アルト達はマルトの場所を聞いて向かった。そこにはクアラと話しているマルトがいた。大勢の近衛兵に囲まれていた。その中に入る。


「アルト殿、無事だったのですね! でも、助かりました。アルト殿は人にマーラを送る事が出来ると聞きましたが、今も出来ますか?」


 突然の質問に面食らうが出来ると答えた。それを聞いて、安心する様に息を吐く。


「魔物が装甲している黄金を落とす方法があります。ただ、マーラが多くないと難しかったのです。そこでアルト殿に手伝ってもらいたい。魔物が来たら私に、多くのマーラを送り続けてください」


「マルトさんにマーラを送る? でも、どんな意味があるのですか?」


「周りには秘密にしていましたが、私もマーラの感知者です。そして、マグナスの恩恵の力を与えられました。その力で魔物を弱らせる事が出来ます」


 マルトの告白にクアラは眉を寄せる。どうやら知っていたみたいだ。今は、一刻を争う時。マーラの感知者である話は置いて、魔物を弱らせる方法を聞く。そして、マルトの力に驚かされた。


「分かりました。マーラを人にずっと送り続けるのは、初めてですがやりましょう。魔物の黄金が剥がれたら俺が攻撃を始めます。その時は、離れていてください」


 作戦は決まり、魔物が来るのを待った。


 しばらくして、遠くからズシンと振動が伝わる。


「魔物が来ました!」


「分かった。全員、マルト秘書官の後ろに待機。魔物の側に行くなよ!」


 いつでもマーラを送れるように、アルトはマルトの肩を握っている。マルトが緊張しているのが分かる。


「マルトさん。俺が側に居ます。二人であの化け物を倒しましょう!」


「はい。よろしくお願いします」


 煌びやかな塊となったゴルズニルドが姿を現した。ゆっくりと近づいて来る。全員が、魔物から目を離さない。

 出来るだけ引きつける様にマルトも待つ。そして、その時が来た。


「今だ!」


 アルトの声と共に、マルトの両手から激しい雷撃が放たれた。雷撃はゴルズニルドに直撃した。


(頼む。止まってくれ!)


 轟音を立てる雷撃は継続的に放たれていく。すると、ゴルズニルドの動きは止まった。微かに体が揺れている。


「効いてます! マーラをください!」


「はい!」


 アルトはマーラを慎重に送り始めた。生命探知でマルトの生命のマーラに異常が起きないか注意していた。

 マーラの供給が始まり、雷撃は青白くなり線が太くなる。慣れない感覚にマルトは、ダラダラと汗をかきながら攻撃する。


 ゴルズニルドから微かに煙が立ち始めた。


「黄金が溶け始めたぞ!」


 誰かが後ろから叫んだ。

 ゴルズニルドの黄金はゆっくりと溶けて流れ落ちる。


「マルトさん、頑張って!」


 マーラを受け入れながら、出し続ける感覚はマルトの体にはとても負担が大きかった。それでも、これが出来るのは自分しかいないと必死に雷撃を続けた。

 アルトも呪文によって溢れそうなマーラを与えられたが、吸収が早くてマルトの体が心配になる。


「アルト! 気にせず送り続けるんだ!」


 マルトの叫びに応えるように、マーラを与え続ける。


 黄金は大量に溶ける。遂にゴルズニルドの体の一部が現れて来た。


「もう少しだ!」


 全員が叫ぶ。ここでゴルズニルドを倒さないと後が無い。

 そして、黄金は全て溶け落ちた。


「行け! アルト!」


 マルトから手を離して、ゴルズニルドに向けて剣を振りかぶる。アルトの剣が輝き始めた。かつて、リークトの体を奪ったレバレスを倒した時の様に。ホワイトランディングの地下で、ニガーディアを倒した時の様に。剣は激しく輝く。レバレスが恐れた、退魔の剣が再び現れた。


「はあぁぁ!」


 剣は光の軌跡を残して、ゴルズニルドを斬った。


「斬れたぞ! あいつを斬った!」


 ドーキンの叫んだ。

 アルトは、そのまま三連撃を繰り出す。ゴルズニルドは痛みに叫ぶ。勢いをつけて、得意の剣術である平和の型を惜しみなく使う。


「止めだ!」


 ラーグが最も得意な技を共に研究して作り上げた。アルトだけの新しい技。二連回転切りを使う。

 ゴルズニルドの体は二つに割れた。


「……勝った」


「勝ったぞー!」


 後ろで見ていた兵士達はゴルズニルドは塵になって消えていく姿に大歓声を上げた。

 その声を聞きながら、アルトは意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ