雪解けと協力
「アルト、・・・どうして、ここに?」
森から出て来たモルはアルト達を見て驚いた。モルの側にいたオーロンは言葉を出せないでいた。
「モルさんと父さんを探しに来たんだ」
「でも、お前。・・・そうか、よくやった!」
モルはアルトの頭を強くワシャワシャと撫でた。
「よく、頑張ったな! 乗り越えれたんだな!」
「うん。モルさん、たくさん心配かけてごめん」
「いいんだ。いいんだ。・・・オーロンさん! なにボーッとしてるんだよ。今だろ!」
固まっていたオーロンの背中をバシン! っとモルは叩いた。
「ッ、いや・・・」
アルトは息をいっぱい吸って、オーロンに話した。
「父さん。あの時、父さんが言ったように俺がティトを連れて行ったせいで魔物に殺された。いくら謝っても許されない事をした。だけど、これから起こる事から皆を守るために、未来に向けて歩かないといけなくなったんだ。また、勝手に進もうとするのを許してください」
その言葉に、オーロンは涙した。
「許すも何も、謝るのは、俺のほうだ。お前が目覚めた時に、何も悪くないお前を、生き残ってくれたのに、酷く傷つけた。・・・アルト、本当にすまなかった」
お互いの思いを伝えあえた親子は、涙を流した。
ひときしり泣いた二人が落ち着いた頃に、ミーナはアルトへ耳打ちした。
「二人に、あの事を話さないとね。私が言った方がいい?」
「いや、俺が話すよ」
強面の顔がグシャグシャになってることを、モルにからかわれているオーロンに、アルトは、キケロの事、これから起こる事とその協力について話した。
「アルトに、マーラが・・・」
オーロンは頭を抱え、沈痛な表情をした。モルは目を閉じて静かにしていた。二人の反応にアルトとミーナが戸惑っていると、モルはオーロンの肩に手を置き話した。
「オーロンさん、気持ちはわかるけど、今は村の事を考えよう。感知者の未来予知は絶対でしょ」
「あぁ、そうだな。襲撃は明日の夜か。アルト、未来予知で見た内容をもう一度話してくれ。そして、準備しよう」
再度、未来予知や諸々の事を話す。
「話はわかった。村に帰ったらモルは門番小屋の薬の確認と武器の手入れと用意だ。ナートにも、この事を話ておいてくれ。俺は、避難所の状態を見てくる。あとは村長にも話ておかないとな」
「俺達は何をすればいい?」
「ミーナさんは自分の準備だ。アルマにも手伝ってもらえ。アルトが未来予知をしたこと。そのなかで自分がどうなるか話すんだ。何かと用意してくれる。アルトはマールと一緒に回復薬を作るんだ。材料は全部使ってもいい。数を揃えるんだ。アルト達が村を出た後に必要になるかもしれない」
大きくため息をついたオーロンは村へ帰ろうと言った。
重い雰囲気のなか村に着いた一行はそれぞれの役割の為に解散した。
オーロンはアルトを呼び止めた。
「アルト、このまえ調合した中級回復薬っぽいのはまだあるか?」
「少し使ったけど、まだあるよ」
「あれは、森に置いておく荷物に入れておけ。どのくらいの効果があるかわからんが、少なくとも初級よりは効果があるはずだ。」
「わかった」
「それと作った初級回復薬の半分は倉庫に、もう半分は店に置いておくようにマールに伝えてくれ。何かあってもいいように分散しておくんだ。夕暮れ時に一旦、家に帰ってこい」
立ち去るアルトを見ながら、オーロンの心中は複雑だった。自分の息子がマーラの感知者になるなんて思いもしなかった。ましてや、未来予知が出来る程に強力な存在になるなんて。感知者の将来は決まっている。アルトは自分と同じ光景を見る事になるのか。オーロンの不安は増していく。
アルトはオーロンの店に入り、作業場で薬学の資料を読んでいるマールに声をかけた。
「あっ、アルト君。親方と会えた? 探しに行った草についてわかったことがあるんだ」
「ごめん。マールさん。実は・・・」
マールにオーロンに話した事と、その後の指示を伝えた。
「そうだったのか。......それなら、尚更あの草について知っておいた方がいいな。手紙を書くから先に調合してて!」
マールは急ぎながら手紙を書き、アルトは初級回復薬の調合に取り掛かった。
時は、夕暮れが近づいていた。目の前には大量の回復薬。
「さすがに疲れたね。それじゃあ、回復薬の半分は倉庫に移しておくよ。アルト君は家に戻るんだよね?」
「うん。夕暮れも近いし家に帰るよ。マールさん、手伝ってくれてありがとう!」
「アルト君、大変な戦いになるだろうけど気を付けてね。それとこの手紙を親方に」
手紙を受け取り、急いで家に帰った。家にはオーロンとアルマとミーナがいた。
アルマはアルトを見ると強く抱きしめた。
「アルト・・・」
「母さん。聞いてると思うけど、俺、マーラの感知者になった」
「えぇ。・・・どうしてアルトが」
涙を流すアルマに何と声をかければいいかわからなかった。ただ、強く抱きしめ返した。
アルマから身体を離したアルトはマールから預かった手紙を渡した。内容を読むオーロンの表情は明るくなってきた。
「あの草は麻痺毒に使えるぞ!」
「麻痺毒?」
「あぁ、本来の材料と違うが、あの草で代用ができる。マールのやつ、よくやってくれた!」
「もしかして、麻痺毒で獣人を麻痺させる?」
「そうだ。森に行って見てきたが、あの草自体は少ない。だが、小瓶二本分は作れる。少量でも一時的には麻痺させられる。それを武器に塗れば戦いも楽になるだろう」
「それじゃ採取しに行ってくるよ!」
「それは明日にしよう。もうすぐ暗くなる。朝、モルにこのことを話て生えている場所に連れて行ってもらえ。すぐに調合できるように店で準備しておく」
「わかった。ミーナの方は準備できた?」
「えぇ、アルマさんに色々してもらったわ。・・・準備も覚悟も出来てる」
胸元にある何かを握り告げた言葉に震えはなく、ただ強い気持ちが伝わった。
明日の予定と準備を確認した四人は夕食を食べることにした。
普段はお客さんが来て賑やかになる食卓は静かだった。
未来を越える思い、戦いの夜への思い、我が子を案じる思い。それぞれの思いが渦巻いていた。
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