騎士は去る
キケロの言葉に励まされた二人は、運命の時を迎える覚悟を決めて立ち上がった。
アルトとミーナは感謝を伝え深々と頭を下げた
「キケロ様、ありがとうございます。避けられない未来でも、お言葉通り、運命だけは手に入れます!」
「俺も全力を尽くして、みんなを守ります!」
「あぁ。その意気だよ」
キケロは黄金の瞳を細めて喜んだ。恐怖を乗り越えて『立ち向かう勇気』を持った二人は、必ず成し遂げると確信があった。
「さて、私は役目を終えたようだ。ここを去らなければならない」
二人は突然の別れの言葉に驚き、ミーナが尋ねた。
「役目を終えた?」
「どうやら私の役目は、アルト君のマーラの感知力を向上させる事だったみたいだ。ははは、二人とも、その顔だとまだ居てほしいみたいだね」
「はい。でも、俺も調整が終わった後にキケロ様は旅立つと感じました」
「そういうことだ。感知力がちゃんと機能してるね」
ミーナはキケロを抱きしめた。
「ははは。最初の緊張感はすっかり無くなったみたいだ」
「本当にありがとうございました。私にはわからないけど、二人がそう感じているのなら、お別れなんですね」
青い髪を優しく撫で、体を離した。
「今はお別れだけど、また会える」
「それは未来予知ですか?」
「いや。私が思っているだけだよ。私達の道はどこかで交わる。ただ、そう思うだけ。これから君達は、何をするの?」
「市場で一緒に戦う、門番のモルさんと父にこの事を話て、協力を求めます。元々、二人には相談しようと思って門に迎えに行くところでした。そこでキケロ様と会うことになって」
「そうだったのか。なら二人には門まで送ってもらおうかな。アルト君には伝えたい事もあるから」
「はい!」
三人は門へと向け歩いた。
「アルト君、平民でマーラの感知者は教会騎士になる決まりがあるんだ」
「決まりですか?」
「そう。決まりだ。ただし、それは教会の関係者に発見された場合。普通の感知者であったら隠して生きても良い。だがアルト君ほどのマーラの力は、遅かれ早かれ感知力の優れた上級騎士達に気付かれる。今回の戦いが終わったら、将来を考えてみるといい」
「何故、決まりがあるのですか。私、初めて聞きました」
「プルセミナ教会の教えに『サドミア神の加護を授けられた者は、平和の守護者として世界を守らなければならい』とあるからだよ。騎士になれるのは、平民と一部の貴族だけ。『選任貴族』という『神に選ばれし貴族』のマーラの感知者は騎士ではなく、助祭や司祭といった、プルセミナ共和国の運営に関わる役職に就く」
「『神に選ばれし貴族』ってすごい言い方ですね」
「あぁ。そんなことを喜々として呼称する人たちだから、どんな人物かは想像がつくだろう」
三人は様々なことを話した。旅の話、地方の風習、首都の光景。もっと話たい、もっと聞きたいと思いながらも門は近づいていく。
門にはナートがいた。
「アルト、それに青髪のお嬢さんじゃないか。・・・・・・それと、」
キケロはナートに片手を上げ声をかけた。
「やぁ、門番さん。おかげで補給は済みました。ありがとうございます」
「・・・・・・あぁ、それは、よかった、気をつけてな」
そう言うとナートは椅子に座った。その様子に違和感を感じたが、キケロは人差し指を口に近づけ、二人にニコリと笑った。
事情を察した二人は小さく笑い頷いた。
「さて、お別れだね」
「はい」
「君達に会えて良かった。ここからが正念場だ。未来を乗り越えて運命を掴むんだ。君達なら出来る」
「「はい!」」
「またいつか会おう!」
黒衣のローブを着た、教会騎士キケロ・ソダリスはゴル村を旅立った。二人は自分たちに『勇気』をくれた、その背中を見送った。
「面白い!」「また読みたい」と思われた方はブックマークや感想をお願いします。
また下の評価★を貰えると、作者の励みになります。よろしくお願いします!




