マーラと覚醒
「さて、緊張もほぐれたかな? そろそろアルト君の問題を話し合おうか」
キケロと会話をしている内に最初よりは緊張がほぐれた二人は、いよいよと気を引き締めた。
アルトはキケロの黄金の瞳をしっかりと見つめ尋ねた。
「キケロ様はどこまでご存じですか?」
「今日、君達とこの場所で会うことだけ。具体的な事はわからない。ただ君達とここで会い、私は何かをしなければならない事はわかっている。さぁ、教えて。君達の問題」
「はい」
アルトはキケロに夢の内容を全て話、自分が見ているものは未来を予知しているのかを聞いた。
キケロはしばらく考え、納得したような表情をした。
「それは未来予知だ。不思議なのはティト君が『光の粒』で現れること。そして、語りかけてくる。私を含め未来予知ができるものは、大まかな流れの光景が見えるだけなんだ。アルト君の場合で言えば、村に侵入者が入り戦いが起きてミーナさんと思われる人が攫われ、暗闇になり途切れる。そこまでが未来予知」
キケロの未来予知を肯定する言葉に二人は驚いた。そして、続いたキケロの言葉に疑問を抱いた。
「そして、アルト君は強い『マーラの感知者』だということだ。君達や子供達に見せた技は物語に出るような魔法ではなくマーラを使っている。そのマーラの影響でティト君が夢に出てきていると思う」
「『マーラ』ってなんですか? 『マーラの感知者』?」
「そうだね。・・・・・・マーラは『物質の根源』かな。例えば、私たち人間の体はマーラの結合の連続で出来ている。それは人間だけではなく、あの石やこの丸太椅子。あそこの木。全てが形は違えどマーラの結合の連続で出来ている。吸い込んでいるこの空気でさえもマーラの結合したものだ。
その『マーラを感じれる者』を『マーラの感知者』と呼ぶ。マーラの感知者は、結合や分解なども出来る。さっき作った水も空気中にある結合したマーラを分解し再び結合して作ったもの。こんな事が出来るのは相当な修行をした者だけどね。
そして、強い思いを込めてこうすると・・・」
キケロは掌を勢いよく突き出した。
「石が飛んだ!」
「こんな感じでマーラを大規模に動かして物質を飛ばしたり。・・・引き寄せたり出来る」
さきほど突き出した手には飛ばした石が引き寄せられて握られている。
「何よりマーラの感知者は直感力が向上する。あそこを見てごらん。もうすぐ三人の子供が通る」
二人はジッとキケロが指さした場所を見ると、三人の子供が走ってきた。
「すごい・・・」
「この直感力の延長線に未来予知の能力がある。直感力のみなら感知者なら向上させれるが、未来まで見るにはマーラの感知力が強くないと出来ない」
「それじゃあ、俺のマーラの感知力が強いから未来が見えて、ティトが出てくるってことですか?」
「それだが。何故、マーラが未来予知の光景の中でティト君の形を作り、語りかけようとするのか。それはわからない。未来予知が出来るという意味で感知力が強いことは理解できる。だが、それ以上の事が起きている」
「それ以上の事・・・」
「本来、未来予知は自分を中心にしか見えない。だから、私は君たちと会う所までしか見えなかった。なのに、アルト君にはマーラが自ら形を作り語りかけてくる。不思議だ」
自分の見ていた夢が未来予知で、マーラというものを感知でき、そのマーラが自ら形作り語りかけてくる。
そんな自分の状態にアルトは混乱してきた。
静かにキケロの言葉を聞いていたミーナは質問した。
「キケロ様。アルトが使っている未来予知でいつ村が襲撃されるのかもわかるのでしょうか?」
「あぁ、わかるとも。現に私は今日、君達と会っただろう?」
「それじゃあ、いつ起きるのか教えてください!」
「残念だが、未来予知は本人しか見えない。本人が見て伝える事は出来るが、他人がその人の未来を見る事は出来ない」
「そんな・・・」
「だが、アルト君はまだ制御が出来ていない。感知力が寝たり起きたりしているような状況だ。だから、感知力が常に起きているような状態にしよう。そうすれば、眠っている時以外でも未来予知が出来て、その鮮明さがグンっと変わる」
「そんな事が出来るんですか!?」
「もちろん! 上級騎士というのはただの称号ではないよ。マーラの扱いが非常に長けている者に送られる立場だ。アルト君、目を瞑って体の力を抜くんだ。深呼吸をして。・・・・・・始めるよ」
キケロは立ち上がり、手をアルトの頭に近づけ集中した。
アルトは近づけられた手から温もりを感じはじめた。その温もりは、頭の表面から内面に入って来るような感覚がある。頭から徐々に首を通り、上から下に進むように温もりが体を満たしていく。
突然、目を閉じて暗闇にある視界に光が弾けた。ビクッと体を震わせたアルトに、集中していたキケロが目を見開いた。
ミーナはキケロの呟くような声が聞こえたが、ハッキリとは聞けなかった。
手を離したキケロはアルトに体の調子を尋ねる。
「なんだか、体が暖かく感じます。霧に覆われていた頭が晴れたようにスッキリとした感覚です!」
「それは感知力が向上した証だ。周りを見てごらん」
立ち上がったアルトは周りを見渡す。その光景に息を呑む。全てのものが訴えかけてくるような存在感を放っている。
「すごい・・・。こんなに、いや、言葉に出来ないです。初めて見るもので溢れてる! これがマーラですか?」
「そうだよ。実に綺麗だろう」
その光景と感覚に感動していると、揺らぎを感じた。布が揺れたような感覚に後ろを振り返った。そこにはキケロがいるだけだが、別の確信があった。
「キケロ様。今、肩を叩こうとしました?」
その言葉に笑みを浮かべたキケロは、正解と答えた。
「今のは直感力で気付いたことだよ。それじゃあ、これは」
また揺らぎを感じた。
「剣の柄を握ろうとしました」
「いい調子だ。本来、アルト君の能力なら剣を握った後のこともわかるけど、そこまで、覚醒しないように調整をしたんだ」
「調整?」
「強すぎる力は無制限に使えるわけじゃない。必ず代償を払うことになる。今、見えているように世界そのものに干渉しているんだ。だから、上手く扱えない今は代償を払わないで済む程度の感知力に抑え込んだ。もう一度、言うよ。『強すぎる力は、必ず代償を払う』。絶対に忘れちゃダメだ」
真剣に話すキケロに、しっかりとアルトは返事をした。
「よし! それじゃあ、未来予知をしようか」
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