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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第二部:殿上の陰謀 第一章:暗闇の弓矢
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鋭き黄金の瞳

 アルトとマードックは広間で働かされていた男達を衛兵と共に逃がし、獣人と対峙していた。アルト達が教会騎士と知ると凄まじい殺気を放つ。憎しみ、怒り。マーラを感知できるが故に溢れんばかりの闇の感情に、思わずアルトも一歩下がりそうなる。だが、横に立つ上級騎士マードックはアルトでも感じる程の獣人達の感情をぶつけられても冷静で、獣人を捕らえているはずの瞳は何か別の物を見ているようであった。


「落ち着け、アルト。私もいる」


 小さく呟かれた師の言葉は、何故か安心感を与えてくれる。たったそれだけの言葉に背を押されるような気持ちになる。

 剣を構えるアルトの肩の力が抜けたのを見たマードックは静かに笑った。


 双方が駆け寄り、武器を交える。


「・・・面白い」


 向かって来る獣人の中には狼へと変身した。アルト達が誘拐事件で最初に行った町ファルムで子供達が目撃した獣人が狼に変身した話を思い出した。狼は速度を上げてその牙でアルト達の急所や武器を持つ腕に噛みつこうとする。

 教会騎士が着る不破のローブは斬撃と突きには強いが打撃には弱い。狼と変身した獣人の噛みつきではローブを貫通はしないが動きを抑え込む事は出来る。

 駆けてきた狼にアルトは一瞬の混乱で利き腕を噛まれた。貫通はしないが強く腕を抑え込まれる。直感を高め油断はしていなかったが、獣人の急な変化に対応できなかった。


「離せ!」


 腕を大きく振り、狼を振り払おうとするが噛みつく力が強く離れない。その間にも武器を持った獣人がアルトを狙いに迫る。一瞬の判断を下し、足だけに身体強化を集中させて狼の体を思いっきり蹴り上げる。その強烈な衝撃に耐えられずに狼は口を離し悶えた。

 その間に距離を取り、迫る獣人と戦う。全力で足のみに身体強化をした分、腕の力が弱まっているがそれでも獣人と対峙できる腕力を持っている。それは村に住んでいた頃の研鑽とエレーデンテの訓練の賜物だ。

 武器を振り下ろす獣人の攻撃に剣の鍔を使い弾き返す。衝撃に怯む獣人を斬る。生命のマーラがポツリと消える瞬間は、今でも慣れずに胸を締め付けられる。

 蹴られた痛みから立ち直った狼に変身した獣人も斬り伏せて、辺りを見渡す。マードックの方にも襲い掛かった獣人は倒されていた。

 その様子を襲い掛からずに見ていた獣人が奥へと逃げようとした。


「待て!」


 追いかけようとするアルト達は後ろから大勢の人が来る気配を感じた。振り返るとエリー達が向かった道から、衛兵が子供や攫われていた人達を救出していた。


「あっちは上手くいったみたいだな。すぐにサラール達も来る。私は先にあいつを追いかける。アルトは合流してから来い」


「はい。気を付けて!」


 マードックはそう言い残すと、奥の道へと走って行った。アルトは衛兵が救出して来た人の中で、今すぐには動けない人をマーラで癒した。しばらくの内、奥からエリー達がやって来た。


「アルト君、マードック卿は?」


「マスターはあの奥の道に獣人を追いかけに行きました。二人と合流してから来るように命じられました」


「わかりました。それなら急ぎましょう!」


 アルトはサラール達を連れてマードックの元へ向かう。進んで行くと金属音が聞こえた。そこには、通路を塞ぐように獣人達がマードックと戦っていた。


「来たか! アルト、衝撃波を放て!」


 その言葉に瞬時に従い、マードックのいる方向へ手を突き出した。アルトの力を知るエリーは焦った様な顔をしたが、マードックもアルトのタイミングを見計らい剣を交えていた獣人を蹴飛ばし体を伏せた。その結果、狙い通りに衝撃波は獣人達を一気に吹き飛ばした。倒れた獣人達を制圧する為にアルト達もマードックに加わり戦う。


「やっと終わったわね。それにしてもアルトがマスター・マードックに衝撃波を放った時はビックリしたわ!」


 道を塞いでいた獣人達を倒して一息つき、エリーは最初の出来事の驚きを話した。


「マスターとずっと訓練していたんだ。放った時に、どれくらいで衝撃波が来るかとか。だから最初みたいに連携が出来た」


 アルトの力を研究するマードックとの連携が成せる、技の使い方だった。


「二人共、まだ奥がある。油断をするなよ。それとアルト、感じるか?」


「はい。広間にいる時は気付きませんでしたが」


 マードックが言わんとする事をアルトは理解して、道の先から伝わるものに身を固くする。


「マードック卿、この先に何かあるのですか?」


 サラールは二人の会話の意味がわからず問いかける。


「この先に、強力な存在がいる。とても強力な。・・・あの人みたいな」


 マードックの最後の言葉にサラールは息を飲んだ。その雰囲気とサラールが思っている疑問を先回りして答える。


「いや。あの人と似てるだけだ。あの人は間違いなく」


 その先に続く言葉をマードックは止めた。

 アルトとエリーは二人の上級騎士が繰り返して表す言葉に、疑問を持ちマードックに聞く。


「マスター、『あの人』って誰ですか?」


 マードックはアルトの方を向き、苦笑いとも言えない微妙な笑みを浮かべ質問には答えなかった。


「さぁ、二人共! 気を引き締めて先に進みましょう。強敵が待っています」


 サラールはマードックに向かられた問いを遮るように空気を変えて、二人の下級騎士の気を引き締める。


(マスターが答えれない事)


 マードックは常にアルトの疑問に導きや様々な方法で答えて来た。そんなマードックが初めて何も言わずに、ただ困った様な顔で自分をみつめる。師事して来た時間の中で初めての出来事に、少しだけ動揺する。

 当然、言えない事や言いたくない事はマードックにもある。だが、あの様な顔は初めて見た。


「すまない」


 ポツリと謝罪を呟く。


「いえ、すみません。余計な事を聞きました。奥に行きましょうか」


 四人は気を引き締め直し、奥へと進む。松明が道を示していく。

 アルトはずっと感じている強力な気配に知らない内に手が震える。

 道の先にほのかな明かりがあった。出口は近い。息を整え震える拳を握る。


「これは・・・」


 出た先の光景は神秘的だった。天井は高く、滝の様に流れる水は輝いて中を照らす。奥は段々としていてよく見れば家の様な物もある。


「っ!」


 アルトはローブを大きく翻す。弓矢が飛んで来たのだ。矢はローブを貫通する事なく床に落ちる。何度かの弓矢の攻撃を受けて、落ち着くと顔を出す。そこには、弓を構えた獣人達がいた。一つ違うのは子供と女の獣人だった。

 一人の女獣人が前に出る。


「侵入者、何をしに来た!?」


「攫われた人達の救出と、その犯人の捕縛だ!」


 後ろに誰かいるのだろうか。女獣人は顔を後ろに向けて話す。


「気を付けろよ」


 マードックが小声で全員に伝える。アルト達四人の周囲には人の気配があり、囲まれている状態だった。


「ここには女子供しかいない。犯人と言うなら、そいつらはお前達が殺した奴らだ。ここから、出て行け!」


「そうはいかないだろう。ここにお前達のリーダーがいる。そいつを捕縛する」


 マードックの言葉に女獣人はアルト達を睨みつける。女獣人は手を振り下ろした瞬間に様々な方向から矢が飛んでくる。アルト達は先程と同じようにローブを大きく翻し防御する。しかし、その中に別の気配を感じ飛び避ける。二本飛んで来た矢は不破のローブを貫通した。体を動かした事で当たらなかった。矢の攻撃は止まる。


「今のを避けるとは、さすが、教会騎士だな」


 女獣人の隣には、月長石を使ったような青白い輝きを放つ弓を持った獣人がいた。だが、その獣人の特徴を言うならば持っている弓ではない。マードックやアルトだけではなくサラールやエリーにもこの感覚は伝わっているだろう。この存在が放つ、強力なマーラの気配に。

 月長石の弓を持つ獣人の黄金の瞳は、鋭くアルト達を威圧する。


「お前は、誰だ?」


 アルトは、その威圧に耐えながら相手を問う。


「俺は勇者マス・ラグム。ナリダスに選ばれし者だ!」

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