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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第二部:殿上の陰謀 第一章:暗闇の弓矢
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洞窟侵入

 リンドから小隊の援軍とバラール地方の近くにいた一組の教会騎士の援軍がやって来た。


「アルトー!」


 遠くからアルトを呼ぶ声が聞こえる。エリーだ。エリーと上級騎士がやって来た。


「マードック卿、情報をありがとうございます」


「サラーㇽ卿、よく来てくれた」


 エリーの師匠、女性の上級騎士セス・サラールはマードックに礼をする。エリーも礼をした。


「初めまして、マスター・マードック。下級騎士のエリー・レドロと申します」


「あぁ。よく来てくれた。君の事はアルトから聞いている。よろしく頼む」


 エリーが笑顔でアルトの方向を向く。その顔には『何を話した?』と訴えけて来る。アルトは何を話したか思い出していると隣でマードックが笑う。


「大丈夫だ。女性の沽券に関わるような話は聞いていない」


(マスター、ありがとう!)


 マードックの言葉で救われたアルトは笑顔でエリーを見返す。エリーは肩をすくめ、やれやれとした。


 サラーㇽはウェールド北部の誘拐事件に関して選任貴族と農家の代表者達の対立が深刻化している事を伝える。その結果、ウェールド地方の子供達の救出を優先する事となった。他の人達はどうでもいいのかと言いそうになるが、肥沃地帯のウェールド地方の混乱は大陸の食料事情に関わる。元々、アルトや教会騎士が派遣された理由はウェールド地方の混乱を収め、食糧危機を招かない為である。優先順位では重要なのであった。

 マードックは調べた情報をサラーㇽ達と衛兵隊に話て作戦を考えた。サラールとエリーは子供達の救出。マードックとアルトは洞窟にいる獣人の捕縛あるいは討伐。衛兵隊はそれぞれの教会騎士に従い行動する。


 教会騎士と衛兵隊は馬を進め、旧ダボンの町の北にある洞窟に向かう。

 進路の途中、滅んだダボンの町を通ってみると壁は崩され建物は崩壊していた。魔物との戦いの激しさがよくわかる。同時に襲われたリンド村は、アーブとラウの二人の教会騎士とゴル村で魔物と戦った経験のある村人、そしてアルトがいたからこのような被害は無かった。自分達がいなければリンド村はこのような惨状になっていた。自分達の存在が運命の分かれ道だったのだ。一呼吸し、アルトは道を進む。


 ダボンの町から北に登り、辺りを捜索する。さらに北に行くと洞窟を見つけることが出来た。散らばっていた衛兵達も集結して、侵入に備える。


「先鋒は私とアルト。次にサラールとレドロ。衛兵隊はその後に」


「はっ」


「恐らく、どこかで分かれ道があるはずだ。その時にサラール達は子供と人質を頼む」


「はい。救出が完了次第、そちらに向かいます」


 サラールの言葉に頷き、アルトを見る。


「中に入ってからは直感を使って警戒しろ。何故か、ここからだと洞窟の中の状態が私の生命探知でもハッキリ見えない。何かあるのは間違いないだろう。祭壇を作っているとも言っていたから、その影響もあるかもしれない。用心するんだぞ」


 アルトも先程から洞窟の中を生命探知で感じようとしていたが出来なかった。

 マードックの言葉に従い、アルト達は洞窟へと進む。

 中は火が灯されてほんのりと明るい。足音を限りなく消して進むが警戒からの緊張か汗が顔を伝う。湿った空気に小さな音が伝わる。先を行くマードックは全員を止めて、音に耳を澄ませる。マーラの気配から生命探知を使っているのがわかる。


「マスター・・・?」


 アルトの呼びかけに答えず、ジッと身動きせずにマードックは集中している。


「この先に、大勢の人の気配を感じる。だが、弱々しいな」


「捕らわれている人達でしょうか?」


 マードックは頷き、歩を進めた。

 次第に大きくなっていく音に全員の気が引き締まっていく。それは石を砕いているような音だった。視界がゆっくりと開けて、大きな広間があった。広間には誘拐されたと思われる男達が祭壇と思われる物を作らされていた。男達の表情からは酷く疲労が見られる。


「何、寝てるんだ! 早く運べ!」


「ッ!」


 石を運んでいた男が力尽きる様に倒れた。それを監視役と思われる獣人が鞭を背中に鞭を打つ。悲鳴を上げる力も無いのか、男はヨロヨロと立ち上がり作業に戻った。

 後ろでエリーが顔を逸らしているよな気配がした。マードックはサラールにある方向を指差す。そこには別の道へと繋がる穴があった。


「あの先に、別の集団の弱い気配を感じる。今、ここにいる男達と似ている。もしかしたら子供達と女がいるかもしれない」


「わかりました。私達はそちらに行きます。ただ見張りが邪魔ですね」


「あぁ。少しだけ待ってくれ。アルト、あの岩に衝撃波を放て。あの様子だと崩れるだろう。そちらに気を引いている時にサラール達は行くんだ」


 アルトは言葉に従い、マードックが示した岩へと衝撃波を放つ。岩はゴゴゴと音を立てる。


「岩が崩れるぞ!」


 岩は地面へと落ちて辺りに砂煙をたてる。その隙にサラールと衛兵たちは別の道への穴に移動した。

 アルト達は砂煙が晴れていく中、集まった獣人達の数を把握した。


「九人ですね」


「そうだな。微かだが、生命探知で見ても数は合っている。・・・衛兵達は、男達の保護を優先してくれ。アルト、行くぞ」


「はい」


 先程の落石で、働かされていた男達は別の場所へと逃げていた。そして、獣人との距離がひらいていた。その隙を突いてアルト達は広間へと侵入した。衛兵達が男達の元へと走る。それに気付いた獣人が叫ぶ。


「侵入者だ!」


 獣人達は衛兵達の方へと迫っていく。そこへ割り込むようにアルトとマードックが入り、そのままの勢いで数人の獣人を斬り伏せる。


「お前達は・・・」


 獣人達は太陽が刺繍された黒と灰色のローブを見て、言葉を詰まらせた。


「教会騎士!」


「・・・教会の犬が!」


 アルト達を見た獣人達の殺気が高まっていく。怒り、憎しみが空気を通じて伝わって来る。後ろにいた避難を促す衛兵と逃げる男達はその空気に思わず震える。


「逃げろ!」


 マードックの叫びに衛兵と男達は我に返り、避難した。


「大人しく捕まってくれと言ってもそうはいかないよな」


 アルト達はそれぞれの剣術の型の構えをして、獣人達は襲い掛かって来た。



 ***



 攫われた子供達の救出に向かったサラールとエリーは道を進んだ。進む道の奥からは段々と異臭が漂い、思わず口を塞ぐ。


「この臭いは・・・」


 サラールは何も言わなかったが、臭いの元が何かは確信していた。


「止まって」


 先を進んでいたサラールは全員を止めた。耳を澄ませば、微かな声が聞こえる。その声は笑い声と苦しみを伝える女の声だった。

 エリーや衛兵達はその声を聞き、急ぎ助けたいと衝動に駆られるが冷静なサラールの静止によりグッと堪える。


「声の数だと、四人くらいね。行くわよ」


「はい」


 エリーは力強く頷き、一行は相手に気付かれないように進む。臭気は強くなる。ある程度、進んだ所でサラールは剣を抜く。それを察してエリーや衛兵達も剣を抜いた。そこからは一気に道を駆けた。


 門番と思わしき獣人に悲鳴を上げさせる事なくサラールは一閃の内に斬った。そのままエリーは道を進み、牢屋の前にに出た。牢屋内を一瞥して押しかかって来る獣人達と戦う。

 エレーデンテの頃に見せた踊るような剣の舞いで軽やかに攻撃をいなし、獣人達に反撃をする。しかし、エレーデンテの頃より変化がある。速さだった。それはエリーの最愛の人リークトの戦い方を思わせる速さだ。リークト亡き後、アルトが感知したようにエリーの周囲には強いマーラが漂っていた。いつしかそれはエリーに力を与え、エリーも使えるようになった。身体強化に使えるマーラが増えたことでリークトの戦い方と自分の剣術を組み合わせ、不規則に来る剣筋と速さで相手を圧倒する。マーラの感知者でもなければ、エリーの剣術には敵わない。


 二人の獣人を倒した。


「うぐっ」


 獣人達を倒しエリーが油断していると思い、隙を突くように隠れていた最後の獣人が襲い掛かったが、エリーが見逃すはずがなかった。


「他に獣人はいないようですね」


 サラールに報告して、先程は一瞥した牢屋内を見たが、思わず目を閉じ顔を逸らすようにしてしまった。衛兵達は、強く拳を握り震えている。


「・・・衛兵の皆さんは、先に子供達の非難をお願いします。その後に」


「わかりました。ただ、少しだけでいいので祈らせてください」


「えぇ」


 牢屋内に置かれた惨たらしい遺体と辱めを受け朦朧としている者達に、衛兵達とエリーは短い祈りを捧げた。

 その後、牢内にいる攫われた子供達と残りの人達を衛兵は救出した。

 サラールとエリーは広間で戦っているアルト達の元に向う。

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