エスト・ノヴァと継嗣様
キケロは緊張してる二人に笑いかけながら、掌を上に向けジッと見つめた。すると、さきほどまで子供達を賑わせた虹色の鳥ができる前の『光の粒』が発せられて集まった。それは周囲に湿り気を感じさせて、水球が二つ出来た。
「二人とも両手を出してごらん」
アルトとミーナはドキドキとしながら両手をキケロに出した。二つの水球はそっと二人の両手に一つずつ乗り、プカプカと浮いている。
「その水でも飲んで落ち着いて。身体に悪いものじゃないから。宙に浮いてる綺麗な水だ」
初めての体験に尚更、緊張をしながら二人は水球に口をつけ飲んでいく。それは弾ける事はなく球形のまま小さくなり二人の喉を潤した。
「おいしいです・・・」
「そうだろ。ここは空気が綺麗だから良い水を作りやすい。首都と比べると空気の匂いが全く違う」
「首都エストにも行ったことがあるのですか!?」
「あぁ。教会騎士はエストにあるザクルセスの塔で修業をする」
『いってみたいなぁ』と呟くミーナを横に見ながら、アルトはミーナの胆力に震えた。この貴族であり上級騎士と名乗るキケロは、自分たちの生殺与奪を握る相手だ。貴族達はほとんどが褒められた人格ではないと昔からオーロンに聞かされていた。
自分が毎晩見る夢の話や未来予知について聞こうと思った相手がよりにもよって貴族。どうしたものかと困った。キケロに悪い印象はない。むしろ、好感を持っているが、貴族という壁がアルトに立ちはだかる。
そんな悶々としたアルトの気持ちをおいて、キケロとミーナは話す。
「エストよりも、もっと良い場所がある。『エスト・ノヴァ』。カバヴィル大陸一の港町であり、自由の象徴だ」
「もしかしてキケロ様は、エスト・ノヴァがあるセレス地方のご出身ですか。セレス地方の方は黒髪が多いと聞きました」
「よく知っているね。ミーナさんはバラール地方の生まれだよね? 君の言う通り、私はセレス地方出身」
おずおずとアルトは二人の間で交わされる聞いた事のない名前を尋ねた。
アルトの質問にキケロは笑みを浮かべながら答えてくれた事に安心した。
「あの、セレス地方ってなんですか? エスト・ノヴァ?」
「セレス地方は、大陸の南にある地域だ。そうだな。砂漠が多いニクス地方の東。首都エストのあるサーリア地方のバラルト海を挟んで南だね。エスト・ノヴァはセレス地方の海に面している巨大な城塞都市で、大貴族であるセレス公爵が治める領地。あそこの継嗣、あ、後継者って意味。継嗣は良い人柄で領民にも慕われているんだ。会ったら二人ともすぐに仲良くなれるよ」
そんな大物とそうそう会えるもんかと、二人はツッコミを内心いれてキケロの話を聞いた。
「あの港町にはこの大陸が必要としているモノの全てがある。自由と競争。明日はより良くなるという希望。・・・・・・そして、平等」
最後の一言に一瞬、キケロの顔が曇ったのをアルトは感じた。気のせいかと思える一瞬を払いキケロは、黄金に輝く瞳で遠くを見ているような様子でアルトとミーナに告げた。
「いつか二人で来るといい。そこには掛け替えのない幸せが待っている。きっと驚く!」
「・・・キケロ様、それは未来予知ですか?」
アルトの質問に答えず、笑顔を浮かべただけだった。
「さて、緊張はほぐれたかな? そろそろアルト君の問題を話し合おうか」
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