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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第三章:赦しへの旅路
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地下室

 翌日、モグドがトルアーの宿にやって来た。元衛兵の家の見張りの報告だ。


「あれから張り付いて見ていましたが、痩せた男が一人家の中に入って行きやした。それだけで、他に動きはありません。今も奴は家にいるはずですぜ」


「そうか。元衛兵一人か。ご苦労だった」


 モグドはラーグから金を受け取り宿屋を出た。


「これなら俺達で家に入って元衛兵を抑えたら、捜査が大きく進むね」


「そうだな。俺は衛兵長の所に行って今の話をして衛兵の出動を要請してくる。アルトは家の見張りをしていてくれないか」


「わかった。それじゃあ、家の近くで集まろう」


 アルトとラーグは手分けをして、家に向かった。

 そこでソフィアが二人に声を掛けた。


「あの、二人共。頑張ってください!」


「うん!」


「あぁ」



 ***



 朝を迎えたホワイトランディングは夜の眠りから徐々に目を覚まし活気のある街へと変わっていく。そんな街の繁華街を外れた所でアルトは目的の家を見ていた。

 あの家の秘密こそが今回の誘拐事件の鍵を握っている。

 しばらくするとラーグもやって来た。


「お待たせ。今、衛兵隊は準備してる。家に変化はあったか?」


「いや。何もないよ。それじゃあ、元衛兵に話を聞きに行こうか」


 二人は出来るだけ足音を消して家に忍び寄る。扉は鍵がされているがラーグが開錠の技術を持っていた。


「よし、開いた」


 静かに家に入ると家は暗いままだった。薄っすらと入る太陽の光を頼りに家を見て行く。家を探っていくと、アルトはある事に気付いた。


「ラーグ、この家のどこかに地下がある。そこに人がいる」


「なるほど。通りで人の気配はするのにいないわけだ。どこに地下があるんだ」


 二人は注意深く、隠された地下室を探す。すると、壁の一部が大きく薄っすらと色違いになっている事に気付いた。アルトは、壁に手をつき撫でていくと隙間を見つけれた。


「ラーグ、これ」


 他を探していたラーグもアルトの方へ来て壁の違いに気付いた。


「これは、ここが取っ手か。・・・開いた」


 ゆっくりと壁を押すとわずかに動いた。アルトはそのまま音を出さないように扉を開けた。すると、地下へと続く階段があった。階段はロウソクに照らされていた。

 二人は剣を抜き、アルトを先頭に地下へと進む。


「この家にこんなに広い地下があるなんて」


「ここなら人の声も聞こえないな。誘拐するなら良い隠し場所だ」


 二人は進む先に一つ部屋を見つけた、その部屋の状況に二人は口を抑える。


「肉が焼け焦げた匂いだ。ここで何かを焼いたんだ。・・・何だこれは」


 ラーグの視線の先を見ると床には紋章が書かれていた。アルトも見たが、何故か見覚えがあった。


「ラーグ、誰か来る」


 二人は剣を構え部屋の入り口を向く。すると、コツコツと足音が聞こえた。それは明らかにアルト達の方へ来ていた。


「やっぱり来たな」


 そこには、ニックスダムに行く途中にあった元衛兵がいた。元衛兵は頬がこけて疲れたような顔でニヤリと笑った。


「元衛兵、下手に抵抗はするなよ。お前に近頃の誘拐について話してもらおう」


 元衛兵は大きく息を吸うと叫んだ。


「誰か来てくれ! 助けてくれ!」


「なっ・・・」


 男の声が地下室に響くとドタドタと走って来る足音が聞こえた。それはアルト達のいる部屋に着くと、愕然とした。


「そんな・・・」


「まったく、面倒な事に首を突っ込んだな。見習い教会騎士」


 衛兵隊を引き連れた衛兵長がいた。

 アルト達は自分達が騙された事に気付いた。この家の捜索を指示したのもアルト達をここにおびき寄せる罠だったのだ。

 大勢の衛兵に囲まれるが、マーラの力を使った身体強化の前では敵ではない。二人は剣を構え戦う姿勢をとった。


「おっと、抵抗はするなよ。連れてこい!」


 衛兵長の言葉に一人の衛兵がやって来た。そこには美しい金髪と碧眼を持った女性がいた。


「ソフィア!」


 トルアーの宿にいるはずのソフィアを連れて来た。


「抵抗するならこの女を殺す。武器を捨てろ」


 アルトはマーラによる衝撃波を出そうとも考えたが、ソフィアが盾にされている形になっているので出来なかった。抵抗できずに、二人は剣を置いた。衛兵長は二人を拘束した。


「マリーダ伯爵め。面倒な奴らを送って来やがって。だが、少しは役に立ったのかもしれんな。まさか、別の場所とは言え、教会に仕える金髪碧眼の女を連れて来るとは」


「ソフィアをどうするつもりだ!?」


「ふふ。まぁ、見ていろ。儀式の準備をしろ」


「はっ」


 連れて来られた衛兵達はアルトが立っていた場所に書かれていた紋章を書き直した。書き直されていくにつれ、アルトの記憶が次第に蘇って来た。


(これは、ゴル村の森の時の。まさか・・・)


「魔物を召喚する気か!」


「ほう、よくわかったな。生贄を差し出し、ここを門としてリンドアとマーラの世界を繋げ、強大な魔物を召喚するのだ!」


「リンドア? マーラの世界? 何を言っているんだ?」


 アルトは衛兵長の言っている意味がわからなかった。ただし、リンドアだけは聞き覚えがあった。リークトに憑りついたノーラ王レバレスが『リンドアに帰ってこれた』と言っていたのを覚えている。


「何故、お前がリンドアとマーラの関係を知っている・・・」


 ラーグは衛兵長の言葉を聞き、その意味を理解していた。


「お前はこの意味がわかるのか。そういえば、お前はセレス地方の生まれだったな。ははは。友達が俺の言葉がわからない所を見ると、教会は帝国の存在を消すのに基本的な事まで葬ったんだな。俺は魔物をマーラの世界から召喚し、強大な力を手に入れる。そして、玉座にふんぞり返っているマリーダを倒して、この町やノーラを征服する!」


 衛兵長はソフィアの髪を引っ張り立たせた。


「痛い!」


「今までの教会に仕えていた女では外ればかりだったが、こいつには何か違う物を感じる。女、もしかしてお前は強力なマーラの感知者じゃないのか?」


「えっ」


 衛兵長の言葉にソフィアは驚いた。


「そんな、私はマーラの感知者じゃありません!」


「それは今にわかる事だ」


 ソフィアを紋章の中心へと投げ入れた。紋章は輝き始める。


「やめろ!」


 アルトは叫ぶが儀式は続く。衛兵長は小さく言葉を呟き始めた。輝きを増す紋章。部屋が光に満たされる。


 バリンッ


 何かが割れ音がした。光は収まりアルトはソフィアのいた所を見ると、ソフィアは倒れていた。そして、ソフィアを中心に床が円状の波打つ水に変わっていた。


「これは、成功か? マーラの海なのか?」


 衛兵長もこの状態に戸惑っていた。

 すると、水から黒色の腕が伸びて来た。それはソフィアを抱きしめようとしていた。


「させるか!」


 ラーグが突然、ソフィアを水から伸びた腕からすくい上げた。


「ラーグ!」


「これで、縄を切れ!」


 ラーグから投げられたナイフを受け取り、手の縄を切っていく。


 そして、ソフィアを捕まえれずに宙を抱いた水から出た腕はそのまま沈んでいく。すると、水からおびただしい光の粒マーラが出て来た。アルトは頭痛に襲われた。ラーグも頭痛がしたのか頭を抑えた。


「おぉ・・・。おぉ・・・」


 衛兵長と部下達はその光景に釘付けになっていた。光の粒はゆっくりと形を成していく。人の形をしたものが現れていく。だが、アルトはその人型を見て目を見開いた。


「ドヴォル?」


 そこには、黒い鎧を着て背には大剣を背負ったドヴォルの姿があった。

読者のみなさまへ


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