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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第三章:赦しへの旅路
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マリーダ伯爵の依頼

小説更新について。

適時、更新していきますのでよろしくお願いします。

引き続き、お楽しみください。

 翌朝、アルト達は教会税と領地税を納めるべく教会と領主館へと向かうことにした。


「前に来た時はラーグの事もあって、良い印象が無かったけどこうして見ると活気に溢れてる町なんだね」


「はい。ホワイトランディングはノーラ地方の東西を結び、南にはサーリア地方に行ける交易地点の中心にある町だから、人や物も多いんです」


 一泊したトルアーの宿から市場方面に出ると人の往来も多くなり、雰囲気が活気づいていく。

 市場を抜けると白い大きな建物がある場所に出た。教会の聖堂だ。重厚な両扉の上には鮮やかな色合いのステンドグラスで教会のシンブルである太陽が描かれていた。建物には細やかな彫刻がされており、威厳をかんじさせる。


「ただの張りぼてだ」


 アルトは初めて近くで見る聖堂に圧倒されていると、横からラーグが言った。苦笑いでその言葉を返していると、ソフィアは今日の自分の使命を二人に話した。


「それじゃあ私、教会へ税を納めに行って来ますね」


「わかった。俺達はここで待ってるよ。行ってらっしゃい」


 ソフィアは聖堂に入るとアルト達は扉の近くで待っていた。二人は壁に背を預け、先程から感じていた違和感について話した。


「気付いているか?」


「うん。二人だね。どうしようか? 捕まえる?」


「いや、様子を見る。ソフィアもいるし、次は領主館だ。そこまでついて来るなら捕まえて衛兵に渡そう」


 ラーグの提案に乗り、アルトは様子を見ることにした。建物の陰からアルト達を見る二人の目線はソフィアが戻るまで続いた。


「お待たせしました」


「おかえり。何か変わった事は無かった?」


「変わった事ですか? 金髪の女の子の誘拐事件で、ちょっと雰囲気が悪くなってる感じがしました。あと、ここの司教様が領主館に引き籠ってる話もありました」


「領主館に逃げているのか・・・」


 ラーグが嫌悪した顔で呟く。アルトは、小声でソフィアに大事な話しをした。


「ソフィア、実は市場に入ったあたりから誰かに尾行されているんだ」


「えっ」


「声を抑えて。誘拐事件の事もあるから、もしかしたらソフィアを狙っているかもしれないし、違うかもしれない。とりあえず俺達から離れないでね」


「はい」


 アルト達は次の納税先である領主館に行った。尾行は案の定、ついて来ていた。ゆっくりと縮まる距離にソフィアの後ろいるアルトは剣をいつでも抜けれるようにしていた。先頭を行くラーグもその気配を察していた。

 尾行者の手がアルトにかかる寸前、剣を抜いて後ろを振り返った。


「誰だ!?」


「っ!」


 尾行者は予期しなかったアルトの行動に驚き、動きを止めた。その隙を見てアルトは尾行者に襲い掛かった。それに対して尾行者は抵抗はしたが、身体能力を上げているアルトには勝てなかった。一人を組み伏せた後にもう一人の尾行者は仲間を見捨てて逃げた。


「待ってくれ!」


 仲間の声が虚しく響くだけであった。そこへ騒ぎを聞きつけた町の衛兵がやって来た。


「何があった!?」


 衛兵は、アルトとアルトに組み伏せられている人とフードを被っているラーグとソフィアを見た。ソフィアの容姿を見た衛兵は最近の事件を思い出し、アルト達に事情を聞いた。


「状況はわかった。こいつは俺が連れて行こう。お前達は領主館に納税に行ってもいい」


「・・・・・・わかりました。ところで、あなたの名前を聞いても? あとで必要になるかもしれないので」


「その心配は無い。俺が後で衛兵長に報告する。騒ぎを大きくしない為にも、この事は言いふらすなよ。さっさと行け。立て、お前はこっちだ!」


 衛兵は尾行者の一人を連れて、以前ラーグが入れられた牢獄のある方向へと去って行った。アルト達はそれを見送り、ソフィアを連れて領主館へと向かった。


「あの衛兵、怪しい」


「あぁ。タイミングが良すぎるのと、他言するなって。俺は怪しい人です感があるな」


「あの、どうしましょうか?」


 オロオロするソフィアをアルトが落ち着かせて、これからの事を話した。



 ***



 ホワイトランディングの領主館は館ではなく城であった。

 丘の上に建つホワイトランディングの町の頂上に建築された城は、かつてのエスト帝国様式で造られていた。教会騎士団本部ザクルセスの塔にある古い書物には、サーリア地方を統一したエスト帝国は北方民族の略奪に困っていた。

 そこで時のエスト帝国皇帝は北方征伐を決意し、軍勢をノーラ地方へ向けた。ノーラ南部を攻略したエスト帝国はノーラ地方中央部まで侵攻し、東西の要となる地に拠点を作った。それがホワイトランディングの始まりであった。その後、皇帝親征もあった事から、ホワイトランディングの丘には皇帝の居住地として、『ニックスダム』が建設された。皇帝が帝都エストを恋しくならないように作られたニックスダムは帝国様式で造られ荘厳な城となった。そこから、ホワイトランディングはノーラ地方の総督府としてサーリア地方の北方の守りとして重要な地位とした。

 そして、時は移りプルセミナ教会の時代になってからは、『大戦』の功労者である、マリーダ伯爵家の領地となった。マリーダ伯爵は他の選任貴族達より堅実な領地運営を行った結果、ノーラ地方で随一の大家となった。


 ラーグからホワイトランディングの話を聞きながらアルトとソフィアは領主館『ニックスダム』に着いた。

 見る者を圧倒させる城は、やはり、皇帝が住んでいただけはあると、アルトは思った。城門の衛兵に納税の話をして中に入れてもらう。扉をくぐると、天井は二階まで吹き抜けて柱には何かしら彫刻がされていた。隅にはサーリア地方の植物が植えられて雪に閉ざされた地方とは印象が異なる。ラーグの説明の通りエストを思わせる造りだった。


「すごいな・・・」


「あの二階から弓兵がここに狙いを定めて放って来るんだ。隅の植物は燃やすと有害な煙になって一階の敵を苦しめる事が出来る」


「・・・急に現実的になった」


 感動しているアルトの横でラーグは物騒な話をした。ソフィアは二人の言葉にクスッと笑い、納税の手続きに向かう。


 アルトはソフィアと一緒に行動し、ラーグは先程の事件を町を管理する人に話に行った。


 しばらくして、三人は合流した。


「納税の方も無事に終わりました。護衛をありがとうございました」


 ソフィアは礼を言い、頭を下げる。アルトは気にしないで、と言う。二人はラーグに勧められて、壁際に置かれたソファに座る。何かを待っている様子だった。


「ラグ、何か待ってるの?」


「あぁ。マリーダ伯爵とワイド司教に呼ばれたんだ」


「伯爵と司教に呼ばれた!?」


 アルトとソフィアは驚いた。司教はともかく、選任貴族に会うなんて通常は無い機会だ。驚くのも当然である。


「町の代官の秘書に尾行者と衛兵の件の言伝を頼んだら、代官に呼ばれて話をしたら伯爵と司教に謁見することになったんだ」


「その、ラグの見た目とか大丈夫だったの?」


「黒髪黒目どころじゃないらしい。誘拐事件にあっちも神経を尖らせてるみたいだった。ん?」


 ラーグがアルト達に向かって走って来る人を見た。


「ラーグ殿とアルト殿ですな。マリーダ伯爵とワイド司教がお待ちです。さぁ、こちらへ。お嬢さんは別室でお休みください」


 アルトとラーグは謁見に呼ばれ、ソフィアは別室に移動となった。

 広々とした廊下を進むと、大きな扉の前に来た。この先が謁見室だと話、案内人は下がった。

 扉が開かれると、目を細める程の光が入った。大きな窓ガラスから太陽の光が差し込み光に包まれたのだ。大きな窓ガラスの前には二つの玉座があった。一つは豪華で煌めく服装をした壮年の男性。もう一つには、白を基調とした祭服を着た老人が座っていた。

 アルト達は中に入り跪いた。


「そなた達が教会騎士団を追放されたアルトとセレスか。面を上げよ」


「「はっ」」


「わしは、ホワイトランディングの教会で司教を務めるエルダン・ワイドじゃ」


 次に壮年の男性が話した。


「私は、ホワイトランディングの領主。ラマンド・マリーダだ」


 玉座の二人の自己紹介が終わるとアルト達も簡潔に自己紹介をした。二人が何故ここに来たか話すとエルダン・ワイド司教は顔をしかめた。恐らくは、ウェル・バーンズ司教の事だろうとアルトは予測した。

 ラマンド・マリーダ伯爵はアルト達に依頼を出した。


「今この町で、特定の容姿をした女性の誘拐が多発している。衛兵達も捜査をしているが、一向に事態は進まない。そんな時に、セレスが情報をもたらした。尾行者と連行した衛兵についてだ。衛兵達にその事を聞いたが、誰も報告を受けていない。とても怪しい。君達の連れに金髪と碧眼の女性がいるのだろう。状況的に今までの誘拐事件と似ている。だから、伯爵として君達に依頼したい。この事件を解決してほしい。バーンズ司教にはワイド司教が手紙を届けてくれる」


「閣下、それは私どもの仲間を使い事件を解決しろという事ですか?」


 ラーグがマリーダ伯爵に聞く。その問いに伯爵は薄っすらと笑い答える。


「そうは言っていない。捜査方法は問わない。私は事件を解決してくれればそれで構わない」


「セレスよ、教会に仕える者が攻撃をされておるのじゃ。つまり、選任貴族出身の者達が攻撃されている。現状、追放された身とは言え、そなたらは教会騎士見習いじゃ。伯爵の依頼を受けるのだ。バーンズ司教には事情を書いた手紙を送る。何も心配はいらない」


 アルト達にとってこれは依頼ではなく命令なのだと受け取った。せめてもの抵抗でソフィアを巻き込まないようにとラーグは念を押していた。


「捜査方法を問わないのであれば、その依頼、お受けします」


 ラーグの言葉に二人は満足気に笑った。

読者のみなさまへ


今回はお読みいただきありがとうございます! 


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