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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第三章:赦しへの旅路
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ホワイトランディング

小説更新について。

適時、更新していきますのでよろしくお願いします。

引き続き、お楽しみください。

 フォンスカリの町を出発したアルト達はメアリーの妹ソフィアの心配もあり、急いでホワイトランディングへ向かう。

 吹雪に見舞われながらも到着したホワイトランディングは丘を全て使った都市だった。城壁は厚く高く、巨大な門はどことなくエストの正門を思いださせる。


「大きな門だね」


「ホワイトランディングは、かつてエスト帝国時代にノーラ地方の総督府として使われていた都市なんだ。だから、扉に刻まれている彫刻とかエストで見覚えのある物が多いだろ。街並みも帝国式の物が多い」


 ラーグの解説を聞いて街を見渡すと、確かに首都エストの様な光景に似ている。そして、一番目を惹くのは丘の最上段に置かれた旧総督府。現領主館だ。雪が屋根に積もり過ぎないように尖った屋根をした大きな建物だ。馬の旗が翻る。


「アカウィル村へは半日もあれば着くけど、先にここの教会にソフィアがいるか確かめたいの。それに、今日中に行こうとすると夜道を歩くことになるからここで一泊しましょう。明日の朝、アカウィル村へ行きましょう。宿はこの先にある『踊る子馬亭』がいいわ」


「わかった。それならメアリーの荷物も先に一緒に宿に運んでおくよ。メアリーは早くソフィアさんが無事かどうか聞きに行って。それと行く途中は気を付けてね」


「ありがとう、アルト。それじゃあ、宿で!」


 メアリーは急いで教会の方へと向かった。

 アルト達はメアリーに言われた通りの道を行き、踊る子馬亭へと着いた。部屋を取ろうとしたが、そこでひと悶着あった。


「怪しい旅人を泊めるわけにはいかないな。フードを取って顔を見せろ」


 宿屋の主人は深くフードを被ったラーグの姿に警戒していた。


「すまない。見た目が良く無くてな。騒ぎを起こしたくないからフードを被っているんだ。これで勘弁してくれないか?」


 カウンターにソッと置かれた銀貨を見て宿屋の主人は眉を上げたが、断った。


「・・・・・・銀貨よりもその醜悪な顔が気になるな。顔を見せな」


 カウンターでやり取りしている内に人が周りに集まり始めていた。嫌な雰囲気にどうしたものかと困っていると、囲っていた一人がラーグに手を伸ばしフードを取ろうとした。


「おい、やめろ!」


 アルトはその男の腕を掴むがラーグは抵抗することなく、フードを脱がされた。


「なっ!」


「南部人だ!」


 艶やかな黒髪が露わになり、周りの人間が声を上げる。その声を聞き、店の中にいた人はアルト達に詰め寄った。


「異教徒の南部人がここに何の用だ!?」


「宿を借りに来たんだ。面倒事を起こす気はない。それと、そこのお前。武器を抜くなら覚悟はあるんだろうな?」


「待って、ラーグ。店主さん、宿を借りに来ただけなんです。部屋を貸してください」


「誰が南部人に部屋を貸すかよ! お前達、こいつらを表に引っ張り出せ!」


 宿屋の主人の言葉に従い、酒を飲んでいた人達はアルト達を追い出そうと掴みかかる。ラーグは溜息をついた。


 しばらくの乱闘の内、立っているのはラーグとアルトとカウンターにいた宿屋の主人のみだった。ラーグは机に置かれていた酒瓶に口を付け飲んだ後、フードを被り直し宿屋を出た。


「アルト、行こう。ここはダメだ。外で待ってメアリーと合流しよう」


「・・・わかった」


 アルト達が店の外に出た瞬間の隙をついて、宿屋の主人が外に出て叫んだ。


「南部人だ! グハッ」


 宿屋の主人の叫びと殴られる光景を目にした通行人たちは、悲鳴を上げて或いは武器を構える。


「南部人ってこんなに嫌われているんだ・・・」


「すごいだろ? あっ、衛兵が来た。荷物を持っていてくれ。しばらく牢屋に入って来る。メアリーにも伝えていてくれ。差し入れはサウサージをパンで挟んだのが良いな。それと俺の名前はラグって通しておく。それじゃ」


「え、ちょっと待って!」


 ラーグは伝えるだけ伝え、走って来た衛兵に囲まれた。


「南部人! 騒乱罪で逮捕する。ついて来い!」


 ラーグは手に縄を掛けられて、衛兵に連行されて行った。


「どうしよう」



 ***



「ラーグが捕まった!?」


「うん。宿屋で南部人ってことがバレたんだ。そこから乱闘になって、店主が南部人がいるって叫んだら街で騒ぎになって、衛兵に連れて行かれた」


「そうだったの。踊る子馬亭の人、代替わりしたのかな? 安全な場所だと思って選んだんだけどな」


 騒ぎがあった広場で休んでいたアルトはメアリーと合流して、別の宿屋で休んでいた。


「南部人ってだけであんなに騒ぎになるなんて思わなかった」


「ここは帝国と教会の大戦の時に、ノーラ地方で最初に独立を勝ち取った所だからね。南部人への偏見は強いわ。でも、逮捕されるなんて思わなかった」


「これからどうしたものか。そういえば妹さんは無事だった?」


「ソフィアは来ていないみたい。まだアカウィル村にいるみたいね。安心もつかの間で今度はラーグかぁ」


「とりあえず、明日は牢屋に差し入れ持って行くよ」


「わかったわ。ラーグには悪いけど、もう休みましょうか」


 翌朝、アルトとメアリーは領主館の下に位置する衛兵詰所に行った。


「えっと、ラグの面会に来ました」


「ラグ? あぁ、南部人か。あいつのお陰で昨日は大変だった。荷物は何だ?」


「食べ物です。昨日は大変だったって、何かあったんですか?」


 衛兵は差し入れを確認した後に溜息をついた。


「行けばわかる。それと、妙な事はするなよ!」


 二人は衛兵の様子に疑問を抱きながら地下牢へと進む。それぞれの階で牢にいる囚人がメアリーをからかっているのをメアリーは不快に思いながらラーグを心配する。


「ラグに何があったのかな。まさか、あの美しさだから暴漢に何かされたとか?」


「多分、それは無いかな。・・・もしかして」


 アルトは自分の想像に冷や汗を流した。そして遂にラーグのいる牢に案内された。


「ここが南部人のいる牢だ。牢に近づき過ぎるなよ。捕まると殺されるかもしれないからな」


「何だと、クソ衛兵! ラグ様のご友人に手出しするわけねぇだろうが!」


 牢屋に入っている囚人は顔をアザだらけにしながら、アルト達を案内してきた衛兵に突っかかり、衛兵はやれやれといった様子で去って行く。

 アルトは自分の予感が当たった事を確信した。


「ラグ様、ご友人がお着きになられましたぜ!」


「今の声で聞こえている。ご苦労だったな」


「とんでもございません・・・」


 衛兵に突っかかった囚人はペコペコと頭を下げて、ラーグに場所を譲った。ラーグの後ろには、寝ている囚人がたくさんいた。


「面会に来てくれてありがとう。こっちは退屈しない夜を過ごしたよ。そっちは休めたか?」


 いつもと変わらない様子でラーグはアルト達の面会を喜んでいた。


「こっちはメアリーの案内で別の宿を取れたよ。それにしても、すごいね・・・」


「アルト、どういうこと?」


 アルトは後ろで寝ている囚人に憐みの目を向けながらラーグと話した。メアリーは状況がわからずにアルトに聞く。


「後ろの人、ラグによって強制的に寝かされた人達だよ」


「強制的に寝かされた?」


「牢屋式の歓迎会をして、一晩中殴り合った」


「え、殴り合った!?」


 ラーグは何も気にする事なく、メアリーに話す。アルトは、ラーグの話を聞くまでも無かったので差し入れの準備をする。


「俺が牢に入った後、こいつら曰く歓迎会をしてやるって言われたから、こいつら流の歓迎会に応じてやった。殴るのが乾杯代わりらしかったから、全員に乾杯をしてやった。料理も代わりに拳を食わせるらしかったから、俺の拳を食わせてやった。ほとんどの奴が飲み過ぎて寝たから、俺も寝たら夜会もあったらしくてな。その夜会にも応じてやって全員に拳を食わせ飲ませて寝かせた。途中から、衛兵が槍を牢の隙間から突き出したから、歓迎会も夜会も終わったんだ。そうだよな、モグド?」


 ラーグの後ろに控えていたモグドというアザだらけの男は、ラーグの呼びかけにビクッと体を震わせ返事をした。


「は、はい! ラグ様には、お酒もお料理もたくさん頂きました!」


 ラーグの話を聞いたメアリーは、モグドや後ろにいる囚人が怯えている様子に口を開けたままだった。


「さ、流石、ラグね・・・」


「ちなみに俺は、何も飲み食いしてないから腹が減った」


「はいはい。ご要望のサウサージをパンに挟んだやつとワイン」


 アルトに差し出された物を食べ飲みしながら、ラーグは、料理ってのはこういう物だ、とモグド達に言った。モグド達はラーグに声を掛けられる度にビクッと体を震わせてコクコクと頷く。


「自業自得だけど哀れだ・・・。パトロを思い出すよ」


「ははは。パトロにはこんな酷いことはしないさ」


「ラグ、自分の胸に手を当てて記憶を辿ってみて」


 こうして、牢屋で無事をラーグの確認したアルト達は、これからどうするか話し合った。


「とりあえず、衛兵長に釈放をお願いするしかないかな」


「あの!」


「何だ、モグド?」


「あの、衛兵長は金に汚い奴なので、金でも積めばラグ様は釈放されると思います! 何度かそうやって釈放された奴がいました」


「そうなのか。アルト、それなら俺の荷物に金があるから、それで賄賂を渡してみてくれ。それと衛兵長一人の時に渡すんだぞ」


「わかってるよ。それじゃあ、今からやって来るよ」


「あぁ、頼む」



 ***



 アルト達はラーグの金を持って、再度、衛兵詰所に入り衛兵長との面会を求めた。


「衛兵長に何の用だ?」


「衛兵長にお届け物がありまして、こちらです」


 アルトは金貨一枚を衛兵に渡した。


「なるほど。それは大事な届け物だな。・・・衛兵長、特別なお客様です!」


「入れ!」


 扉の先には、鎧を装着した屈強な男が椅子に座っていた。アルト達は中に入り、お辞儀をする。


「それで、どの囚人を開放してほしいんだ?」


「え?」


「囚人を釈放してほしくて金を渡しに来たんだろう? で、どの囚人だ?」


「は、はい。南部人のラグを釈放してほしくてお願いに上がりました」


「あぁ。昨日、囚人達を寝かし付けた奴か。それなら、金貨十枚だ。南部人が街をうろつくのは安くはないぞ」


「わかりました。こちらが罰金、金貨十枚と衛兵長の寛大さに金貨一枚を献上いたします」


「ほうほう、わかっているじゃないか」


 衛兵長は満足気に髭を撫でて、衛兵を呼びラーグの釈放するように命じた。


「要件はすんだろう。さっさと出て行け。あぁ、そうだ。寛大な私から忠告だ。女、周辺に気を付けろよ。お前みたいな女が誘拐されている」


「は、はい。ありがとうございます」


 寛大な衛兵長からの忠告を聞き、噂は本当だったのかとアルトは思いながら詰所を出てラーグを待った。

 しばらくすると、地下牢からラーグが荷物を持っ出て来た。


「うーん! 太陽の下が一番だな!」


「お勤めご苦労様でした。宿に行こうか」


 体を伸ばしたラーグはフードを被りアルト達と共に宿に向かった。

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