温泉を楽しむ
小説更新について。
適時、更新していきますのでよろしくお願いします。
引き続き、お楽しみください。
様々な試練が待ち受けたルーダム山地の雪山越えを乗り切ったアルト達三人は、大雪崩で塞がっていた先の大街道に戻った。ここから道沿いに行けばホワイトランディングに着く。
先頭を歩くメアリーが後ろの二人に伝える。
「今日は、この先にある宿場町で一泊するわよ。もう大街道に出たから特に難所も無いから、のんびり進みましょう。ラーグは体調は大丈夫?」
ラーグの暗殺を狙った教会騎士達の策略により雪崩に巻き込まれたラーグは、風邪を引いて、しばらく休んでいた。その体調も万全とは言い難いが、アルトやメアリーの支えがあって二人に順調について来ている。
「あぁ、大丈夫だ。そういえば地図に書いてあったが、この先のフォンスカリの町って温泉があるんだろう?」
「そうよ! ここの宿屋は温泉宿ばかりなの。こんな寒い中に入るフォンスカリの温泉は気持ち良いわよ」
「温泉かぁ。初めて行くよ!」
初めての温泉にアルトは心を弾ませる。ワクワクとしたアルトの声に先頭を歩く二人は笑う。
「せっかくフォンスカリの町に来たんだから、絶対にフォンスカリの卵は食べないとね。特にラーグは食べたほうがいいわ!」
「フォンスカリの卵?」
「見てからのお楽しみ!」
メアリーは楽し気に笑うと先へ進んで行く。
しばらく歩くと、煙の立つ町が見えて来た。フォンスカリの町だ。
町に近づくにつれて独特な匂いがしてきた。
「この匂いって何だろう。なんか腐った卵みたいな・・・」
アルトは嗅いだことが無い匂いに顔をしかめるが、ラーグとメアリーは懐かしいと言った。
「これは硫黄って物の匂いだ。最初は臭いが次第に鼻が慣れて来る。硫黄泉っていう温泉は体に良いんだ」
「へー、硫黄泉。うっ、やっぱり腐った卵だ・・・」
「あはは。ラーグの言う通り町で過ごすと気にならなくなるわ。ちょうど人も少ないし、良い宿に泊まりましょうよ! 私はラーグからの報酬もあるし、ラーグ達もお金があるんでしょ?」
「そうだな。良い温泉宿に泊まって、体の調子でも整えるか。アルトもそれでいいか?」
「うん! 温泉、どんな感じなんだろう・・・」
無事にフォンスカリの町に入ったアルト達の光景に移ったのは、町を横ぎいる大きな川だった。それは湯気をモクモクと立て、下流へ流れていく。
「上流に温泉の源泉があるの。そこから流れている川ね。ちなみにここに落ちると大火傷するから気を付けてね」
「・・・わかった」
身を乗り出し川を見ていたアルトは急いで身を引っ込めた。
三人は川の上流を歩く。この先に、メアリーがお勧めする温泉宿がある。ラーグは念のためフードを深く被りアルト達と歩く。
「町の熱気で蒸れるな・・・」
フォンスカリの町はノーラムとホワイトランディングの間の大街道の大雪崩の影響で人が少なかった。年の変わり目という事もあり、ノーラムへ行こうとしていた不運な客がいる程度だ。
「ほら、あそこよ!」
メアリーが指を差した場所は、一軒の宿屋だった。宿屋の奥には大きな湯気が見える。
「あそこの温泉宿は部屋に温泉が備え付けられているの。ラーグもそこなら見た目を気にせずにゆっくり温泉に入れるわ。そこから見える光景は絶景らしいわ」
「そうだったのか。気を遣わせたな」
「ううん。それ以外でも良い宿屋だから、泊まりたかったの」
メアリーは笑いながら宿屋へ走った。二人はそれを追いかける。
***
入った温泉宿の人にラーグの姿を訝しまれながら、嘘の説明をして温泉付きの個室に泊まれた。アルトとラーグは一緒の部屋で、メアリーは別部屋だ。夕食の時間を合わせて、部屋へと入る。
「おぉ・・・」
アルトは思わず感嘆の声を上げた。清潔で広々とした部屋で奥には大きなガラスで隔てられた温泉があった。その温泉の先の光景は日が沈みつつあるフォンスカリの町の転々とした明かりと雪の粒が幻想的な光景を出していた。
「良い部屋だな。ふー」
ラーグも部屋と温泉と街の光景に満足し荷物を降ろしてフカフカのソファに座り息をつく。
「こんなに良い部屋に泊まれたのって旅を始めてから初めてじゃない?」
「そうだな。ずっと体を拭くか川で水浴びだったな。あれは寒かった。アルトの正気を疑ったよ」
「ザクルセスの塔の設備のせいだよ。毎日、大浴場に入っていたんだからしょうがないだろ!」
アルトはタオルに水を湿らせた状態で体を拭く旅路に我慢が出来ずに、川で盛大に水浴びをした。真冬の冷たい川で水浴びをするアルトを、信じられないような目で見ながらラーグは体を拭いていた。
「それよりも、夕食の時間までまだあるから温泉入ろうよ!」
「わかった、わかった」
アルトに引っ張られてラーグも準備をして温泉に入る。
「すごい・・・」
「アルト、入る前に体を洗おう」
ラーグの言葉に体を洗うアルト。
「ん? この石鹼、馬油を使っているな」
「馬油?」
「髪や体が艶々になるんだ。香り付けもされているな。これ、高級品だぞ」
ラーグの言葉通り、石鹸にはハーブの香りが付けられて高級感がある。
「これ、ミーナに贈ったら喜ぶかな?」
脳裏に浮かぶ晴れた空の様な青い髪の女性を思い浮かべながら、彼女への贈り物へと考える。
「良いんじゃないか。これは滅多に手に入らない物だし、女性からすれば嬉しい効果がある。贈り物にちょうどいい。売ってたから、アカウィル村から帰る時に買おう」
「そうだね」
ミーナの喜ぶ姿を思いながら体を洗い、ハーブの香りを纏う。
「白濁してる・・・」
「硫黄泉は白濁してるのが特徴なんだ。見えづらいから足を滑らすなよ」
足からゆっくりと入っていく初めての温泉にアルトは感動した。
「結構、熱いんだね」
「熱くなり過ぎたら、一度上がってそこの椅子に座って休むんだ。それを何度も繰り返す」
「わかった。お湯もトロってしてる。不思議だ」
温泉の不思議に興味を持ってラーグと景色を見ながら話をする。
「景色、綺麗だね。何か、幸せ過ぎて後で罰が当たりそう」
「何言ってるんだ。罰を受けてるから今、ここにいるんじゃないか」
「ははは。そうだった。でも、雪山越えはするし、雪崩に巻き込まれるし、上級騎士には襲われるし。今ぐらい、ゆっくりしても良いよね?」
「あぁ、今ぐらい良いさ。どうせ、アカウィル村に行った後も何かあるだろう。今はゆっくりしよう」
アルトはラーグと共に、幻想的な外の風景を見ながら温泉を楽しんだ。いつか、世界が平和になれば彼女をここへ連れてきたいと思いながら。
温泉から上がり、夕食の時間となった頃にメアリーも合流して食事となった。
「これがフォンスカリの卵よ!」
器の中には、ゆで上がる前のトロンッとした卵と薄い色のスープが入っていた。
アルト達はフォンスカリの卵を食べる。濃厚な卵の黄身がトロッと溢れて、薄い鳥のスープと混ざり合い、絶妙な味わいとなった。
「美味い!」
「これね、温泉に卵を入れて作ってるの。ちょうどいい温度で茹でられるから、半熟みたいになるの。ここの卵は栄養がいっぱいだから、病み上がりのラーグはたくさん食べてね」
フォンスカリの卵と、種類の違うサウサージをとワインを貰い、楽しい夕食となった。
***
一泊したアルト達はホワイトランディングに向けて出発する。しかし、出発する前に宿屋の主人から『ある話』を聞いた。
今、ホワイトランディングで誘拐が多発していると。狙われているのは金髪と青い瞳を持つ女性だけ。年齢を問わず誘拐されて失踪していると。その話にアルトとラーグは後ろを振り返った。後ろにいるのは金髪と青い瞳をした女性。メアリーだ。
しかし、この話には続きがあった。狙われている女性の共通点がもう一つあった。それは教会で働いている女性だと。それに、ホッとするアルトだがメアリーの顔色は悪くなった。
「あたしの妹が、金髪で青い瞳で教会で働いているの・・・」
「でも、ホワイトランディングじゃなくてアカウィル村の教会で働いているんだよね?」
「ソフィアは、バーンズ司教の手伝いでホワイトランディングにも行くのよ・・・」
「条件は揃っているな。だが、ここまで話が来るくらいだ。妹のソフィアも知っているんじゃないか?」
「そうよね。でも、心配だわ。あの子、可愛いから人の目につきやすいの」
「それなら、早くアカウィル村に行って無事を確かめよう!」
アルトの言葉にメアリーは頷き、フォンスカリの町を出発した。ルーダム山地で見た美しいホワイトランディングを目指して。
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