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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第三章:赦しへの旅路
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時間との戦い

総合評価100ポイント達成しました!

読者の方々には感謝が絶えません。これからも頑張って、アルトの物語を書いて行こうと思いますので、お楽しみください。


 襲撃者によって引き起こされた、雪崩に巻き込まれたラーグはそのまま崖の方へと雪と共に流された。


「ラーグ!」


「待って! 今、行っちゃダメよ。すぐに二度目の雪崩が来るかもしれないわ。こっちよ!」


 メアリーに手を引っ張られて峠道を戻り、安全な場所まで逃げた。


「はぁ、はぁ。ここなら雪崩の心配はないわ」


「くそ! 俺がもたついたから・・・」


 アルトは逃げ道を塞いだ襲撃者を殺せなかった。それが原因で雪崩から逃げる時間がかかり、ラーグが代わりに襲撃者を倒し、アルト達を身体強化した体で雪崩に巻き込まれない場所まで投げたのだ。

 アルトの迷いが原因だった。


「相手が強かったんだから仕方がないよ・・・」


「いや。俺は人を殺す事を躊躇ったんだ。そのせいで逃げる余裕が無くなって。それでラーグが。くそ!」


 アルトは雪に八つ当たりをするがポスッと気の抜けた音しかしない。


「・・・・・・助けないと」


 ハッとこれからしないといけない事を思い出し、メアリーに崖の方へ行く道を聞く。だが、メアリーは何も答えずに目を瞑っている。


「メアリー、道を教えてくれ! ラーグを助けに行かないと!」


「・・・・・・アルト。あの雪崩でラーグが生きている可能性は低いわ」


「なっ、何言ってるんだよ! ラーグがこんな事で死ぬはずがない!」


 アルトの叫びにメアリーは冷静に状況を伝える。だが、アルトの動揺は収まらない。


「アルト、落ち着いて。ここでパニックになっても悪い方向にしか動かないわ。あの雪量と速さ。おまけに流れた先が高い崖。言いたくないけど、ラーグは見つからないわ。それに落ちた先は、さっき見たけど木々を倒して広かったそこから見つけるのは無理よ」


 メアリーの言葉に膝を付き、涙を落とす。


(俺のせいだ。言われた通り、逃げれそうな時に逃げなかったからラーグは・・・。俺のせいだ)


「アルト、無理に探そうとすると私達までここで死んでしまうかもしれないの。食料は私の持っているのもあるけど、ラーグが一番持ってた。雪山は生きる為の資源が少ないの。悲しいだろうけど、進まないと共倒れになるわ」


 アルトの背中にソッと触れて道を促す。

 膝を付き涙を溢しながら、必死に考えた。ラーグを見捨てるか、探すか。


「・・・・・・メアリー。メアリーの言ってる事はもっともだと思う。だけど、ラーグを探すよ。ラーグを絶対に見つける。助けれる命は助けたいんだ。それにラーグは・・・。メアリー、崖下まで連れて行ってくれ。あとは自分で探すよ。その後は、帰っても構わない。メアリーも俺達と共倒れする必要はない」


 アルトは崖下に連れて行くように強く願った。メアリーはその覚悟を決めた眼差しを受け、頭を掻いた。


「あー、もう! 一緒に探すわ。もしかしたら、襲撃者に会うかもしれないし。その時は守ってよ!」


「・・・ありがとう」


 アルトは立ち上がり、雪を払い、メアリーの後を追う。



 ***



「流された場所はここよ」


 連れて来てもらった場所は雪原となっていた。木々は倒されて、なだらかになっていた。


「ここから、どうやって探すかよ。それによって、助かる可能性もあるわ。シャベルは私とアルトの分があるから、掘るのは楽だけどどうやってこんな広い場所から見つけるか」


 メアリーの言う通り、広い雪原を二人で探すのは途方もない時間がかかるだろう。その間にラーグは凍死してしまう。だが、アルトにはここまで来る間に思いついた事があった。


「メアリー、未来予知が出来ないか試してみる。それがダメだったら、マーラで高めた直感力で大体の場所を決めてみるよ」


「そうか! マーラの感知者だと、そういう事も出来るのね」


 適当な場所に座り集中していく。ゴル村以来、明確な未来予知が出来ないでいたが、雪崩の未来予知が起きた事で、もしかしたら今なら出来るのではないかと期待する。

 しばらく、微動だにせずに意識を集中して瞑想をする。メアリーも邪魔にならないように離れた場所でアルトの様子を見る。

 長い沈黙が続いた後、アルトは立ち上がった。


「アルト! 何か見えたの!?」


「未来予知はダメだったけど、あの場所ら辺から探してみるよ。何か感じる」


「わかったわ!」


 アルトが差し示した場所を二人で広げて掘っていく。ザクザクと重い雪を掻き分けていく。すると、メアリーの方で何かに当たった。


「アルト、来て! こっちに何かある!」


 アルトは掘った穴から這い出てメアリーの元に向かい、周辺を掘り進めていく。すると、人が出て来た。目当ての人ではないが。


「これって・・・」


「うん。足止めをしてきた襲撃者だ」


 埋もれていたのはアルト達を足止めして、ラーグを逃がさないように足を抑えていた襲撃者だった。 

 アルトは冷たくなった遺体を穴から引きずり出して、襲撃者の正体を確かめた。


「やっぱり、そうだったのか」


「何かわかったの?」


「この厚着の下のローブと剣」


「半分の太陽・・・。教会騎士」


「下級騎士の物だ。それにこの剣って教会騎士専用の剣なんだ」


「ラーグが言った通り、本当に教会が狙いに来ていたのね・・・」


 溜息をつき、自分の運の無さをメアリーは呪った。ただの賊なら、倒してしまえば済む話だが教会騎士を動かせる存在。つまり、プルセミナ教会がラーグの暗殺に教会騎士を送った。そして、自分達が向かう先には教会がある。ただ、メアリーは目的地の教会に行ってしまえば安全だと確信があった。それを思い起こし、気持ちを上げた。

 日は沈み始めていた。次にやらなければならない事がある。


「アルト、そろそろ野営の準備をしましょう。暗くなるわ」


「・・・・・・うん」


 後ろ髪を引かれるような思いがあるが、ここまで来る道中にメアリーと約束をした。『メアリーの指示に従う事』。何も言わなければ暗くなってでもラーグを探すが、現実的にすぐに見つかるはずも無く野営をして体を休めて捜索をしないといけない。一生懸命に掘り続けると共倒れになってしまう。

 アルト達は、雪が薄い所まで移動して、雪を払いのけてテントや食事の準備をする。


「ねぇ、アルト。気持ちはわかるけど、落ち着いたら? 今、出来る事は休むことよ」


「わかってる。だけど、今もラーグが雪の中で凍えてるって思うと・・・」


「ふふ。あなた達って本当に不思議ね」


 湯を飲みながらメアリーは呟いた。アルトは理由を聞いた。


「山に入る前は私のせいで、アルトはラーグと距離を取って避けて。ラーグはアルトを心配をして後ろから見てる。次の日の朝は普通に喋るようになったけど、アルトはラーグのことを『セレス』って他人行儀な感じで呼び始める。ラーグは、急に『私』って他人行儀で接していても相変わらず後ろからアルトを心配して見てる。想像だけど、あの夜にお金の戦争について話したんでしょ? それで、アルトはラーグとの仲を決別することになったけど、心が離れているのはアルトだけでラーグは側にいる。今は、そのラーグを探そうと共倒れの危険も持ちながら一生懸命。ラーグが死んだとしてもアルトが悲しんでる事は変わらないから、自分が生き延びる事だけでも良いのに。それにアルトは教会騎士に使命感を持っているんでしょ? 尚更、生き延びないと」


 メアリーの言葉にその通りだと思った。ラーグ自身が言っていたように、ラーグが死んでも生きていても、アルトが悲しんでいる出来事は変わらない。それなら、前に進み自分が理不尽を正せるような立場になる事を急ぐのが合理的だと思う。だが、こうしてラーグを懸命に探す理由もアルトの信念やアルトらしさと少しの不純な動機によるものだった。


「・・・俺は、自分の力で助けれる人は絶対に助けたいんだ。そのために村で薬師をしていた頃は、薬を作って傷や病を癒し。魔物に襲われた村を、教会に連れて行かれる覚悟でマーラを使って戦い村を救った。助けれる人は助けたい。理不尽に命を奪わせない。その思いで、選任貴族に対抗できる立場を手に入れようと頑張っているんだ。だけど、理不尽に命を奪うラーグ達の戦争を受け入れる事が出来なかった。だから、あの夜、決別を決めたんだ」


 火に照らされたアルトの顔は苦悩を表していた。二つの感情が反発するが、せめぎ合う。そんな気持ちを持っていた。


「決別したって、自分で決めたのにラーグの優しさを思い出すんだ。剣の腕を鍛えてくれた事や、暗闇に沈みそうな時に手を掴んで引き上げてくれた事。仲が悪くなってしまった仲間達との関係を戻す為に、発破をかけてくれた事。教会騎士団に入ってから、たくさんの優しさをくれたんだ。その恩返しをしたいってのもあるし、今、ラーグを助けられるのは俺しかいない。だから、助けたい。それと、最後は優しさを利用したいってのもある」


 自嘲気味に笑い湯を飲む。アルトの意外な顔にメアリーは興味が湧き、聞く。


「ラーグの優しさを利用したいってどういう事?」


「ラーグの優しさは嘘じゃないって思う。ラーグは本当に優しい人なんだって思う。だけど、ラーグの優しさは基本的には故郷と南部人にしか向けられない。それをもっと広げさせれば、俺なんかより大勢の人を助ける事が出来ると思うんだ。ノーラムに来る前に、崖の下に住んでいる盗賊が商人を襲っていたんだ。商人を助けた後に、報酬って名目で食料やお金をたくさん貰い、それを活用して盗賊達とその家族を助けてエスト・ノヴァに行くようにしたんだ。俺には出来ない事だったよ。今にして思えば優秀な人を見つけたから、故郷に行くようにしたのかもしれないけど、それでも助けた。

だから、ラーグがその気になれば大勢の人を救えると思うんだ。お金の戦争だって終わらせる事が出来ると思う。だから、生き延びてその優しさで大勢の人を救ってほしい。それが出来るように俺も頑張ろうと思うし、ラーグと一緒なら色んなことが出来るはずなんだ。だから、助けてラーグの優しさを利用したいんだ」


「なるほどね。それで利用したいか・・・。確かに出発の前にラーグと色々と話したけど、その力は今でさえ大きいと思うわ。そこに成長が加われば、英雄の一人になると思う。良いわね。ラーグの優しさを利用してみて。どんな世界になるんだろう」


 想像する未来の世界を思い浮かべてメアリーは笑う。アルトも笑い、言葉を続ける。


「きっと、すごく良い世界になると思う。飢えも無く、理不尽な死が無い世界。誰もが自由で平等に生きれる世界。行ったことは無いけど、きっとエスト・ノヴァみたいになるんじゃないかな。だから、お金の戦争を知って言い表せない複雑な気持ちがあるけど助けたいんだ。・・・それと身勝手だけど仲直りもしたい」


 最後の一言は声が小さくなったが、ハッキリとメアリーに聞こえていた。


「あははは。本当に身勝手ね! でも、ラーグの優しさを利用するなら側にいないといけないもんね。今の話をラーグに伝えてみたら? 笑って受け入れてくれると思うわ。あとの利用方法はアルトの頑張り次第よ」


「そうだね」


「それじゃあ、雪の中で眠っている素晴らしい世界を掘り起こすためにも今日はもう寝ましょ。朝日が昇ったら捜索再開よ」


「わかった!」


 アルト達は雪の下に眠るラーグの救出の為に、早く休んだ。凍え死んでしまわないように時間との勝負だった。

 アルトは袖越しに付けていた冷たい特別なバングルを触った。



 ***



 翌朝、ザクザクとアルト達は雪を掘っていく。下級騎士がいた所を重点的に掘っていく。


「ラーグ、すぐに助けるからな」


 アルトは決意を固め、急いで掘っていく。すると、周辺の雪が動いた。


「メアリー、来てくれ! 雪が動いた!」


「すぐに行く!」


「ラーグなのか!?」


 動いた雪の辺りを声を掛け続けながら、掘っていくと荷物が見えた。


「ラーグ!」


 それはラーグが背負っているリュックだった。二人は急いで持って行くと湿った黒髪が現れた。


「あると・・・?」


「ラーグ、良かった!」


 朦朧とした意識の中で、ラーグはアルトの名前を呼んだ。


「アルト、上にあげて楽にさせましょう!」


「あぁ!」


 荷物を外させ引き上げて、楽な態勢にさせた。荒いが呼吸をしてる事にアルト達は安心した。

 メアリーはラーグの体を触り、体調を確認する。


「風邪をひいていると思う。とりあえず、体が冷え切っているから温めましょう」


「わかった。薄めた炎薬を飲まそう!」


 持って来た薬を飲ませて、拠点にしていた場所まで運ぶ。焚火を起こし、ラーグを温める。


「はぁ・・・」


 ラーグから溜息が出た。

 額に張り付いた、黒髪をかき上げてアルトは生きていた事に感謝した。


「ラーグ、本当に良かった」


「・・・ありがとう。アルト」


 安心をしたのか、ラーグは眠りについた。

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