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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第三章:赦しへの旅路
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案内人を探して

今日は調子に乗って8000文字も書いてしまった・・・

 ノーラムへと出発したアルト達は翌日の昼下がりに、エグラド伯爵領第一都市ノーラムに着いた。途中の道は、豪雪で塞がり迂回しながらの道となった。


「綺麗だ・・・」


 丘から見たノーラムの景色は美しかった。吹雪が落ち着きキラキラと輝く雪と照明などに使われるパルメラ石で照らされた領主屋敷と思われる城が幻想的な景色を作っていた。


「昔、絵本で見たことがある風景みたい」


「実際に絵本になってる光景だぞ。ここはパルメラ石の産地だからな。光の石って絵本でこの光景が元となった絵が描かれている」


「あの絵本の光る石ってパルメラ石の事だったんだ!」


 幼い頃に読んだ絵本を思い出しながらノーラムへと近づいていく。ラーグは門に近づくとフードを深く被った。


「ラーグ、どうしたの?」


「知らないのか? 南部人は北部人に嫌われているんだ。特にノーラ地方に行くほど差別意識が強くなる」


「知らなかった。どうして?」


「ノーラは人類発祥の地と言われている。それもあって、人間族を至上とする教会の教えに敬虔な人が多い」


「あ~、なるほど。エスト帝国を倒した教会と最後まで抵抗した南部地方の関係になるんだ」


「そういうことだ。だから、追放を決めた教会の上の連中は俺への嫌がらせを含めて北部のノーラ地方に行かせたんだ。それに俺の黒髪黒目はセレス地方の象徴だからな。隠しておいた方が、余計な面倒事を起こさなくて済む。だから、ここからはアルトが前に出てくれ」


 ラーグから先導を渡されてアルト達は町の門へと行く。門にはノーラムに入る列が出来ていた。それをラーグと話ながら待つ。


「次!」


「エストから来た旅人二人です」


「・・・・・・連れの方は、どうして顔を隠している?」


「御覧の通り寒がりなんで、雪が入らないようにしているんです。それより、入門税ですよね。どうぞ」


 アルトは門番に入門税を渡した。そこには二人分の入門税銀貨一枚と、そっともう一枚銀貨を渡した。


「ふん。面倒は起こすなよ。次!」


 入門した二人は、しばらく進んでから笑い始めた。


「・・・くくく。どうだ、初めての賄賂は?」


「・・・ふふふ。緊張したー。良かった、捕まらなくて!」


「敬虔な信徒でも、寒い中ずっと立たされてたら少しくらいお小遣いが欲しくなるものだ」


 アルトはラーグの指示で、初めての捕まるかもしれない悪事をした。とても緊張して、手汗をかいていた。


「はぁ~、ドキドキした」


「ははは。それじゃあ、宿を探そうか。途中、ワインを買っていこう。アルトの初めての悪事に酒場で乾杯したいが、隠れていないといけないからな」


 二人は笑いながら、ワインを買い宿を探した。


 夜、宿の食堂で二人は食事をした。

 ここでは、ノーラ地方の料理を出された。味付けした肉を羊の腸に詰めて茹でた料理だ。太く渦巻いた形をしており、ナイフで斬ると肉汁で溢れた。切り分けた肉と肉汁を染み込ませたパンと一緒に食べると食が進む。


「あの、これ何ていう料理ですか?」


「それはサウサージっていう料理だ。ノーラの古い言葉で豚肉と香辛料って意味。美味いだろ?」


「はい。ワインとも合って美味しいです!」


「良かった良かった。兄ちゃんら、ノーラムにまだいるんだったら酒場にでも寄ってみるといい。色んな味のサウサージがあるし、麦酒も置いてある。美味いぞ!」


 サウサージを満喫した二人は部屋へと戻り、買って来たワインでアルトの初めての悪事に乾杯をした。

 二人はサウサージの美味しさとアルトの悪事をネタに話て、いつの間にか寝てしまった。


 翌朝、食堂で朝食を食べながら今日の予定を話し合っている時に宿の主人が二人に話した。


「兄ちゃんら、大街道を通ってホワイトランディングに行くつもりだったのか! 今あの道は昨日の大雪崩で道が塞がっているんだ」


「えぇ! それじゃあ、行けないって事ですか?」


「あぁ。今、領軍が除雪作業をしているが一か月はかかりそうだって話だ」


「まずいな」


「ラーグ?」


「エストを出発してここまで来るのに一か月。ノーラムからアカウィルに行くのに半月の予定だった。遅れても二か月。あっちについてアカウィルの司教からの連絡無しに戻りが遅くなると、逃亡したと見なされて討伐隊を派遣する口実になりかねない」


「それは、まずいな」


「とりあえず、周辺のこと書いてある地図を探しに行こう。そこから、他に道が無いか探そう。店主、地図を置いてそうな所ってありますか?」


「置いてそうな所か。それなら、酒場に行ってみるといい。あそこは、雪道の案内人とかがいるから、地図もあるかもしれんな」


「雪道の案内人?」


「あぁ、この時期は大街道を通って行くって言っても雪に覆われているからわかりにくいんだ。それで、ここからホワイトランディングまでの大街道の案内人ってのがいるんだ。そいつらに聞いてみるのも良いかもしれんな」


「ありがとう。酒場に行ってみるよ」


「あぁ、そうしてみな。お前達にプルセミナ様の加護があらんことを」



 ***



 二人はノーラムで一番大きい酒場に行った。大勢の人が集まると情報も得やすい。ただ、ラーグのことがあるのであまり気乗りがしない選択肢だった。


「ここが一番大きな酒場だな。フードがズレないように気を付けないとな」


「ここで面倒事は嫌だからね」


 酒場に入ると人でごった返していた。周りの声を聞くにホワイトランディングに行こうとした人達が雪を呪っている声だった。


「納期が間に合わない!」


「家族の元まで帰れないじゃないか・・・」


「皆、大変そうだね」


「あぁ。年も変わるのにこれじゃあな。あそこに大きい地図がある見てみよう」


 二人は壁に貼られたノーラムとホワイトランディングまでの大きな地図を見た。大街道の所には×印がつけられていた。


「えっと、他の道は・・・」


「・・・・・・ん~、山越えの道しかないな」


「この雪の中で山越えかぁ」


 二人は唸りながら考える。アルトは平野部で育ったこともあって、山越えの知識は無い。ラーグは山越えの知識はあるが、南部育ちゆえに極寒の山越えの経験が無い。


「どの道、案内人は必要だからな。案内人を探して、山越えに付き合ってくれるか聞いてみないか?」


「わかった。手分して探そう。マーラを使えば直感で良い人を見つけれそうだね」


 二人はマーラに頼りながら、めぼしい人に声をかけていくが山越えに関しての意見では皆から大人しくした方が良いと言われた。

 一通り声を掛け終わった二人は、集合して昼食を食べる事にした。本当は酒場を出るべきだったが、二人は他の味のサウサージを食べたい欲に駆られた。


「はい、お待たせしました! ニンニク入りと香草入りのサウサージです。あと、麦酒二つ!」


「ありがとう!」


「これは心付けだ」


「銀貨! あ、ありがとうございます!」


 金髪の給仕は銀貨を両手で持ち走って行った。

 二人はサウサージを半分に切り分けて交換して食べた。


「ん~、美味い! 刻まれたニンニクが良い味を出してるよ!」


「こっちは、香草の香りが豊かでサッパリとした味付けだ。美味いな」


 麦酒を飲み、またサウサージを食べるを繰り返す。


「リスクを取った甲斐があったな。とても美味かったな」


「うん。ちょっとだけノーラムを離れるのが惜しくなったよ」


 サウサージの感想を話していると、心付けを渡した金髪の給仕がやって来た。


「お兄さん達、さっきの銀貨ありがとうございます。お兄さん達が店に入って来てから様子見ていたんだけど、案内人を探してるの?」


「うん。そうなんだ。ホワイトランディングの山の近くにアカウィル村ってのがあるんだけど、そこを目指しているんだ。でも大街道が封鎖になって、急ぎの旅だから山越えするために案内人を探している」


 金髪の給仕は悩む様子から、案内人を紹介してくれるのかと期待した。


「・・・・・・ちなみに、アカウィル村には何しに行くの?」


「アカウィル村に教会があるらしいんだけど、そこの司教様に会って働きに行くんだ」


「そうなんだ。フードを被っているお兄さんも一緒?」


「そうだ」


「どうして、フードを深く被っているの?」


「目立つ容姿をしていてな。無用な争いを起こさないために被っている。ところで、どうして詮索するんだ?」


「紹介できる案内人がいるんだけど、どうしようかなって思って。でも、心付けくれたお兄さんが怪しいから迷ってるの。このご時世で銀貨をポイって渡せるのに質素な身なりで顔を隠してるって怪しすぎるわ」


「ふふふ。よく考えているな。君の名は?」


「メアリーよ。ノーラムに出稼ぎに来ているの」


「俺はラーグだ。こっちはアルト。俺達はエストからの旅人だ」


 アルトは紹介されて笑顔で手を振る。メアリーも笑顔で応えた。


「ところでメアリーは、教会の敬虔な信徒か?」


「他の人よりは不真面目かも。でも信仰しているわ。大陸のほとんどの人がそうでしょ?」


 ラーグの質問に不思議がりながらメアリーは答える。ラーグは質問を続けた。


「そうだな。あと、南部人についてはどう思う?」


「ニクス地方とセレス地方の人の事よね。特に思う所は無いけど、エスト・ノヴァって町を治めている人は会ったことが無いけど嫌いかな」


 メアリーの言葉にアルトは目を少し見開く。ラーグは面白そうに理由を聞いた。


「昔、旅の画家さんがエスト・ノヴァに行った時の絵を見せてくれたんだけど、すごい絵だったの。町の人は皆、豊かで獣人達や亜人種が笑顔で働いているの! それに買い物で金貨が使われていたの! 金貨よ! 金貨なんてここでも使い道の無いお金なのにエスト・ノヴァでは、物をいっぱい買った時に金貨を使うの。その絵を見て驚いたわ。でも驚いたのは他にもあるわ。造幣所っていうお金を作る所に行ったら金貨、銀貨、銅貨、鉄貨が山の様に在ったのよ。怖い人達が厳重に見張っていたから絵は描けなかったけど、山の様にお金があるのよ。画家さんはそれを見て、エスト・ノヴァの領主がお金を貯め込んで外に出さないから、教会や領主が税を取られた後もこんなに貧しいんだって言ってた」


 メアリーの言葉にアルトはそうなのかと驚きラーグを見る。ラーグはその視線を受け笑いながら、メアリーに再度、質問した。


「君は、その画家の言う事を信じるのか?」


「話は信じるけど、最後の画家さんが言った領主が貯め込んでいるから私達が貧しいは違うと思うの」


 ラーグは興味深そうにメアリーに銀貨を渡し話を続けて欲しいと頼んだ。


「お金を払ってまで私の話を聞きたいの? いいわ。私が調べたことと考えを聞かせてあげる!」


 メアリーは一度、カウンターに戻りアルト達に麦酒を出してくれた。


「この話を真面目に聞いてくれる人っていなかったから、これは私からのお礼ね」


「ありがとう。早速聞かせてくれ」


 そこからメアリーは自分の考えを話した。途中からアルトは話について行けない所もあったが、頑張って聞いた。ラーグは終始、面白そうに話を聞いていた。フードで表情は見えないが、笑っていることは確信があった。


「まずは、エスト・ノヴァで金貨が買い物で使われていた事だけど、それだけ商品の値段が高いって事よ。何で商品が高いか。それは、高くても買える財布の余裕があるから。画家さんは街の食堂の料理でも、あまりの高さにビックリしたらしいわ。そこだけじゃなくてほとんどの食堂がよ! それでエスト・ノヴァでの生活は大変だったって言ってたわ。その後に造幣所って言われる所でお金の山を見て、さっき言った通り領主がお金を貯め込んで町に使っているって思ったわけ。でも、真実は違うと思うわ」


「ほう、真実か。それは?」


「結論から言うと、この国はエスト・ノヴァの領主にお金で今も戦争をされているの! しかも、それを誰も気づいてない」


「お金で戦争!?」


 アルトはまさかの話に驚いた。戦争でお金がかかるのはエレーデンテ教育で知っているが、お金自体で戦争をしているなんて聞いたことが無かった。ましてや、戦争をしているのに周りが気付かないなんて信じれない。

 ラーグは口元を上げながら、メアリーの考えを聞いた。


「金銀で戦争なんて出来るのか?」


「私が調べた結果、出来ると思ってる。最初は、自分でも信じれなかったわ。お金で戦争だなんて。説明するわね。

 まずは、教会に置いてある本で教会とエスト帝国が戦った『大戦』と、大戦後の教会と今の非選任貴族って言われている南部貴族の戦い『聖戦』を調べたの。

 そしたら、『大戦』以前はエスト帝国時代のエスト・ノヴァはゴール島っていう金銀が採掘できる鉱山がある島を支配していたの。おまけにセレス地方は銀鉱山と銅鉱山がたくさんある。そこで鉱石を採掘して、帝都エストに運んでお金になっていたの。

 それで、大戦後はエスト帝国は崩壊したけど、ゴール島とセレス地方を支配するエスト・ノヴァの領主セレス公爵とニクス地方を支配するニクス侯爵は同盟を組んで独立して教会と戦う事になったの。ここが『聖戦』の話。

 でも、南部貴族は教会に負けたわ。だけど、記録だと不思議な事が書いてあったの。セレス公爵にとっても教会にとってもゴール島は重要な島のはず。だけど、ゴール島はそのままセレス公爵の物になったままだったの。何故、そのままになったのか。セレス公爵にとって、とても有利な条件よ。そこで一つの仮説が浮かんだの。『教会はセレス公爵に負けた』。教会が酷く負けたけど、セレス公爵も継戦する余力が無かったのかもしれない。そこでどっちかが、ゴール島の所有含めてセレス公爵に有利な条件でセレス地方は併合されてプルセミナ共和国が出来た。これだったら、ゴール島の所有権を持っている理由がわかるわ」


 そこでメアリーは水を飲んで一呼吸入れた。アルトはラーグの様子からまさか、という気持ちになって行った。背中に冷や汗をかきながら。ラーグが『星の民』と言われる民族であることを思い出していた。


「そこで問題になるのが、今、誰が、お金を作っているか。鉄貨はドンゴ地方のバルニア島から採掘される鉄を使っているにしても、教会の影響力があると思うの。だけど、銅貨、銀貨、金貨は誰が作っているの? そこで画家さんが見つけた物。造幣所とお金の山よ。つまりはセレス公爵が作っているの。非選任貴族だから教会の政治的影響力が及ばない所でお金が作られているの」


 そこでアルトは疑問をメアリーに聞いた。


「でも、それとお金を使った戦争の繋がりが見えないよ。お金を作るだけで戦争になるの?」


「ここからが、戦争の話よ。エスト・ノヴァで作られたお金はある程度は世の中に出ていると思うの。教会もエスト・ノヴァに教会税として吸い上げていると思うし。だけど、量の問題よ。セレス公爵がどれ程のお金を世の中に出しているのかがわからない。そこで旅人やさっきの画家さんの話によると、物の値段が他の地域とエスト・ノヴァでは長年、倍近く違うの。この差は何なのか? ずっと考えたわ。それで気付いたの。セレス公爵はお金を少ししか世の中に出していない」


 メアリーの最後の言葉に、フードに隠れているラーグの顔は間違いなく笑っている。そして、とても楽しんでいるのか興奮しているのかマーラが揺れているのを感じ取った。


「世の中に流れているお金の量が少ないと、どうしても物の値段が下がるわ。パンを買いたいのにお金が足りないもの。それはパンを作るパン屋も一緒よ。だから、値段を下げて売れるようにする。そうすると、売上が少なくなるから、給金も少なくなる。その繰り返しで人々が貧しくなる。そこに止めを刺すように教会税と領地税でお金が人から取られていく。またこの繰り返しでどんどん貧しくなって生活に苦しむことになるの。何より大変なのが仕事が無くなる事よ。店は売上が低いから従業員が雇えないどころか、やめさせないといけない。農業以外の仕事は無くなるも同然よ」


 アルトは自分の中でメアリーの言葉を整理して理解に努め、嫌な汗をかき始めた。


「対して、エスト・ノヴァの方は、私は行ったことが無いから全容はわからないけど、物の値段が適切になっていると思うの。なんせ、お金がたくさんあるから。町に流すお金の量を調整できる。ということは、物の値段が上がれば、給料も上がり、上がり過ぎれば税という形でお金をセレス公爵が吸い上げて値段を調整する。あと、こっちの場合だと売上も高いから人を雇えて、大勢が仕事に就けるわ。それと物の値段が下がれば、給料も下がり、下がり過ぎればセレス公爵が持っているお金を放出して、飢えないようにする。そうすると人はお金をたくさん持つようになるから、物を買う余裕が出来て、店の売上も上がり、給金が増えて、物の値段が元通りになる。

 こうすることで、エスト・ノヴァは豊かな場所で強い領軍を作り上げ。片や、エスト・ノヴァ以外では税で身売りした人と徴兵された兵士。おまけにお金が無くて食料が十分ではない領軍。どっちが強いかなんてわかり切っているわ。

 まさにセレス公爵のお金を使った戦争よ。お金を使って貧しい人に教皇と貴族を背負わせて、教会と貴族の足下を弱らせる。自分はその足を屈強な足でいつでも払える状態になっているの。どう? 私の読みは!?」


 ラーグは静かに拍手をした。メアリーは拍手に喜び、アルトは拍手に頭を抱えた。


「見事だ、メアリー。見事だよ!」


「それじゃあ、お兄さんは私の仮説が当たっていると思うの!?」


「そうだ。当たっている所じゃない。その仮説は正しい。大正解だ」


 アルトは今まで見て来た光景を思い出し、少しだけ涙を溜めてラーグに聞いた。


「ラーグ、何でそんなことを・・・。お前も見て来ただろう。貧しい人がどんな生活をしているか」


「アルト、これが戦争なんだ。エスト・ノヴァとセレス地方、ニクス地方を守る為の」


「でも、その戦争のせいで子供だって! ・・・・・・先に宿に帰る」


 アルトは走って酒場を出て宿に帰った。まさか、自分の親友がこんなに恐ろしい戦争をしていたとは思ってもいなかった。



 ***



「ビックリした。アルトはどうしたの?」


「アルトはとても優しい奴なんだ。今、メアリーが話した戦争の恐ろしさを、これまでの旅で見て来たからな」


「そうなんだ」


「ははは。メアリーも実感したら、この戦争の恐ろしさがわかるよ」


「私は仮説の段階でも怖かったわ。ところで、ラーグ。あなたは何者なの? 私の仮説を正しいって断言できるなんて」


「メアリー、俺の正体を知っても騒がないなら教えてあげよう」


「・・・・・・わかったわ。騒がない」


「俺は、ラーグ・ボルティア・エスト=セレス。セレス公爵の縁者だ」


 ラーグはフードを少し捲り、自分の顔と黒髪と黒目を見せた。


「!」


 メアリーは口を抑えて、声を出さないようにした。そして、小声で話しかけた。


「セレス家の人間だったのね。確かに黒髪黒目はここだと騒ぎになるわね。あと、ごめんなさい。アルトの前で、さっきの話をして」


「気にしてない。嫌われるかもしれないが、君の見事な才覚を確かめたかったんだ。本当に見事だ。この戦争に気付いた人なんて、今まで見たことがない。給仕なんてやめてエスト・ノヴァに行かないか? 安全に向かえるように旅費と紹介状を出すぞ?」


「・・・・・・ごめんなさい。すごく良い話だけど、故郷は捨てられないの。話した通り出稼ぎで来てるから。それに司教様にも良くしてもらってるから、側にいたい」


「教会に良くしてもらえてる? 君の故郷はどこなんだ?」


「アカウィル村よ。あなた達が目指しているアカウィル村。そして、紹介したいって話した案内人は私の事なの。私なら、ノーラムから山を越えてホワイトランディング。そしてアカウィル村まで連れて行けるわ」


「そうだったのか。なら君を雇いたい。論理的でしっかりとした観察力だ。命を預けられる。金貨は邪魔になるな。銀貨二十枚でどうだ?」


「銀貨二十枚! 本当に良いの?」


「あぁ。準備費として、銀貨三枚も上げよう。どうだ?」


「うん。雇われる! アカウィル村に案内するわ! それとさっきの話の続きを聞かせて!」


「あぁ。エスト・ノヴァとセレスとニクス地方の状態をハイフレ経済で、それ以外の地域がロウフレ経済と言うんだ。それとセレス公爵がお金を作れる権利を通貨発行権と言って、聖戦の後に・・・」


 こうして、アルト達は有能な案内人を見つけ雇う事が出来た。

 しかし、間違いなくアルトとラーグの心の結びつきは弱まった。アルトは枕に顔を埋め、かつて出会った賊になった人達と奴隷にされる女性と処刑される子供達の声を思い出していた。

日本が陥ってたデフレの恐怖を小説の設定としました。インフレも怖いですよ?

ちなみにハイフレ経済=インフレ経済、ロウフレ経済=デフレ経済って意味です。


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