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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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番外編 パトロの日記:黒と緑の妖精

第一部第第二章番外編その3です。

お楽しみください。

 

 アルト達と出会った歓迎会の次の日、パトロは二日酔いに苦しんでいた。ラーグの恋話でエリーと盛り上がり飲み過ぎた。子分が主の秘密を話すなど言語道断だが、二人の関係はそんなものだった。


「パトロ、アルトが二日酔い止めの薬を作ってくれるそうだ。昼過ぎに食堂で銀貨二枚で売るそうだぞ」


「二日酔い止めの薬? そんなのあるんだ。教えてくれてありがとう。買いに行くわ~」


 主のありがたい情報に感謝しぐったりと休むが暇なので、日記を読むことにした。二日酔いの時に文字を追うのは普通は辛いが、パトロは活字中毒者。苦ではない。ラーグは情報だけ与えてどこかへ行った。


 水を飲みながらページを捲ると、思いついたようにある日付の日記を見た。


「出会いかぁ」


 パトロが受難を受け、同時にその先で感謝することになった運命の日。黒と緑の妖精と出会った日であった。その日のことを思い出しながら日記を読む



 ***



 パトロ9歳の日。エスト・ノヴァの住宅街にて。


「母ちゃん、マルトとクアラのとこに行って来る!」


「はーい。いってらしゃい。気を付けてね!」


「うん」


 パトロはエスト・ノヴァの城壁側の住宅街に母親と共に住む少年だった。お気に入りの木の棒を持ち、友達のマルトとクアラに会いに行く。待ち合わせ場所は倉庫街の広場だ。


「おう、パトロ。ここには来るなって言ってるだろ。危ないぞ!」


「そんなこと言うなよ。俺達がエスト・ノヴァの安全を守ってるんだぜ。それにしても獣人のおじさん、今日も耳毛がカッコイイな!」


「ははは。お前に俺の耳毛のカッコよさがわかるかよ。気を付けるんだぞ。あと、作業の邪魔はするな!」


「はーい」


 大きな木材を運ぶ顔見知りの獣人と話をして待ち合わせの広場に出る。すでに友達二人は来ていた。


「おはよう、パトロ! 今日は何する?」


「今日は市場の見回りだ! 最近、フードを被った怪しい奴がウロウロしてらしいぞ」


「この町で怪しい奴って言ったら、公爵様の敵かもしれないな。教会の奴らかも」


 パトロは広場から見える、エスト・ノヴァの象徴、マグナーサ宮殿を見た。光り輝く屋根はエスト・ノヴァの富と豊かさを示す象徴だ。そこへ、子供達なら憧れる宮殿の近衛師団式の敬礼をする。

 パトロと三人組の夢は近衛師団に入団して、エスト・ノヴァとセレス公爵を守る事だった。


「昨日の祭り楽しかったな! 公爵様は本を捧げた時はすごい歓声でびっくりした」


「な~! 本が光の粒になって消えていくんだもんな。どんな仕掛けがあるんだろ?」


「バカ。あれは神様が本を持って行ったんだよ!」


 星の民が信奉する神、マグナスへの捧げものの儀式が前日に行われた。

『マグナーサ祭』。マグナーサはマグナスを表す古語である。二年に一度、優れた知識を記した本をマグナスに捧げる儀式だ。捧げられた本の著者は、セレス地方において絶大な名声と公爵家から報奨金を得れる。


「俺、近衛師団もいいけど、神様へ送られる本も書いてみたいな!」


 マルトの言葉にそれもいいと二人は頷く。


「だったら、学士の称号を取らないと。学校の勉強を頑張らないといけないぞ」


「それは嫌だな。だったら近衛師団が良い!」


「だよな!」


「本を捧げるのも良かったけど、近衛兵もやっぱカッコイイよな。あのマントを早く着たいな!」


 パトロが憧れる近衛兵が着用する制服は、人の目を惹くデザインだ。黒を基調とした制服に、セレス領軍の中で所属を示す白いベルトを右肩から左脇腹へと掛けて締める。ズボンも黒を基調とし、太ももに沿うように赤いラインが入る。何より目立つマントは、右側は黒色で左側は赤色と分かれている。黒はセレス人の髪や瞳の特徴を表し、赤はエスト・ノヴァの成立に至るまでの先祖達の情熱を表している。

 セレス人と誇りと星の民の情熱を示す姿だ。


「早く剣術の授業にならないかな。やっぱ近衛兵は公爵様を守るんだから強くないとな!」


 パトロの言葉に二人も剣術の授業が待ち遠しく、持って来た木の棒を振るう。


 三人組が道を進んでいくと街の中心部に立つ、大聖堂へと着いた。


「いつみても、すごいよな。これ絵が描いてあるガラスでいっぱい」


「何ていう神様の教会だっけ?」


「プリンとかだった気がする」


『バカ。プルセミナだ』


「え?」


 パトロは後ろを振り向こうとした時、パリンッと割れる音が聞こえた。


「あっ、ガラスが割れた!」


「え? お前がやったのか!?」


「違うよ! さっき石が投げられたんだ」


「こらー! またお前か!?」


 割れたステンドグラスの先から老人の怒鳴り声が聞こえた。


「ヤバい! 逃げろ!」


 逃げようとした瞬間に見えた、フードを被った二人の子供を見た。フードからはみ出す黒い髪と緑の髪が揺れる。


「パトロ、急げ! 捕まったら拷問されるぞ!」


「う、うん」


『ラグ、あの子達が可哀想よ』


『あいつらなら逃げきれるさ』


 走る瞬間に聞こえた会話に、あの二人のどちらかがガラスを割ったのだとわかったが、教会の人間がパトロ達を追いかけて来た。


 悪魔の様な形相で追いかけて来る教会の関係者を撒いた三人組は、ゼェゼェと息を切らした。


「だ、誰がやったんだよ・・・」


「さっき、チラッと見えたけど、フードを被ってる二人の子供を見たんだ。あいつらのどっちかがやったんだ!」


「フードを被ってる奴って、噂の怪しい奴じゃないのか!?」


 クアラの言葉で三人は今日の目標を決めた。


「そうに決まってる。絶対に見つけてやろう!」


「おう!」


「うん!」



 ***



「どこにもいないな~」


「この街でフードを被ってるって目につきやすいんだけどな」


 カーン、カーン、カーン


「あ、船が到着した音だ! 港に行こうよ!」


「うん! 今日はどんな荷物が来たんだろう!?」


「もしかしたら、あいつらも見に来てるかもしれない!」


 三人は港を目指して走った。港に近づくにつれて大きな船が見えて来る。獣人達の故郷である東大陸からやって来た船だ。


「すげ~!」


「おじさん、おじさん! これってもしかして東の大陸からやって来た船!?」


「おう、そうだ! 海を越えてやって来たんだ。ほら、見てみろ。船長が出て来たぞ!」


 港で働く人にパトロは話を聞き、船長と言われた人が出てくると歓声に包まれた。


「カッコイイ!」


「あの船、乗ってみたい!」


 マルトとクアラも大興奮で見る。


『セラ、あれがカレリア大陸からやって来た船だ』


『すごい・・・。船ってあんなに大きいのね。お城で見るのとは大違い』


 歓声に包まれる中、聞き覚えのある声が聞こえた。パトロは周りを探すと、フードを被った二人の子供がいた


「あいつら。マルト、クアラ。さっきガラスを割った奴がいたぞ! 追いかけよう!」


「パトロ、邪魔するなって! 船から荷物が降りて来るぞ!」


 マルトは降りて来る荷物に夢中で話を聞かない。フードを被った二人は市場に行こうと言って姿を消した。


「おい、マルト、クアラ! 俺は市場にあいつらを追いかけて来るから後で来いよ!」


「わかった、わかった!」


「ったく」


 たくさんの人混みの中、スイスイと通って行く二人は市場に出た所で見失った。

 しばらくすると、マルト達もパトロに合流する。


「フードを被った奴いたか?」


「見失った。どこに行ったんだ?」


「ねぇ、あれ見てよ! すごく綺麗な人がいる・・・」


 クアラが指を差す方向を見ると、一瞬で目を奪われた。


「妖精様・・・?」


 薄い緑色の髪はキラキラと輝き。同じ色の瞳は儚げだった。その美しさにパトロ達は絵本や物語で聞くような妖精に会った気持ちになった。


「あれって、どこかの貴族のお姫様とかじゃないかな?」


 クアラの推測にきっとそうだとパトロは思った。


「迷子かもしれないから、助けに行こう!」


 パトロ達三人は緑の妖精へと近づいていく。


「おい、お前、迷子か?」


 パトロの言葉にビクッと肩を跳ねさせた女の子はパトロ達を見て固まる。するとフードを被って逃げようとした。


「あ、そのフード! ちょっと待て!」


「キャ」


 パトロは逃がすまいと細い腕を掴む。その瞬間、パトロは飛ばされた。


「いってー!」


「セラ、大丈夫か!?」


「う、うん」


 フードを被ったもう一人の子供がパトロを殴ったのだ。


「お前、もう一人の! お前達が教会のガラスを割ったんだろ。怪しい奴。二人共、捕まえろ!」


 パトロの言葉にマルト達が二人に寄っていく。


「ちっ、やりずらいな」


 もう一人のフードの被った子供はフードを脱いだ。


「え?」


 その光を反射して輝く黒髪と黒い瞳、美しい容姿に三人は固まった。


(黒色の妖精・・・?)


 三人が黒髪の少年の美しさに惚けていると、少年は殴りかかって来た。


「ぐはっ!」


「こいつ!」


「ラーグ!」


 三人はもみ合いとなり、お互いを殴り合った。しかし、最後に立ったのは黒髪の少年だった。

 パトロはボロボロにされて、胸倉を掴まれていた。


「お前がリーダーだな。セラーナに何しようとした!?」


「・・・・・・迷子かと思ったから、助け、ようとしたんだ。お前こそ、教会のガラスを割った奴だろ」


「・・・・・・知らん」


「嘘つけ!」


 黒髪の少年ラーグは知らない振りをしたが、パトロは確信を持った。もうひと殴り合いという所で声が掛かった。


「若!」


「姫様!」


(若? 姫様?)


 子供達の喧嘩だと見守っていた人々を掻き分けて、壮年の男達が出て来た。パトロ達を怒鳴る。


「貴様ら、何をやっている!」


「姫様、こちらへ」


「うん」


「若もこちらへ」


「・・・待て、こいつらと戦闘訓練をしていたんだ。手出しは無用。いいな」


「せ、戦闘訓練?」


「あぁ。そうだろ、子分?」


「子分?」


 聞き返したパトロの胸倉が締まっていく。


「ぐぇ。そ、そうです。子分です。親分の命令でやっていました」


「・・・ふん。ほらな、言ったとおりだろ?」


「はぁ、わかりました。とりあえず、宮殿に帰りましょう」


(宮殿?)


「その子から手を放してください。ラーグ様」


(ラーグ!?)


「わかった。おい子分。明日、宮殿へ出仕しろ。ラーグ・ボルティア・エスト=セレスの子分だと言えば通れるようにしておく。行こう。セラーナ」


「うん。ラーグ、大丈夫?」


 黒と緑の妖精は宮殿の方向へと帰って行った。


「パトロ、大丈夫か?」


「というか、さっきの黒髪。ラーグ・ボルティア・エスト=セレスって言ってたよ」


「公爵様のお世継ぎ様じゃん!」


 マルト達の言葉にパトロは気が遠くなりそうだった。


「あの方、明日、宮殿に来るように言ってたぞ!?」


「・・・まさか、冗談だろ。多分、俺を護衛みたいな人から助けてくれたんだ。多分」


「そうだよな・・・」


「そうだよ・・・」


 三人は無理矢理、納得しようとした。


「きょ、今日はもう帰ろうぜ」


「あぁ・・・」


「でも二人共、すごく綺麗だったね。黒と緑の妖精みたいだった」


 三人はこうして家路へとついた。


 パトロは家に着くと、母親に言った。


「母ちゃん。俺、お世継ぎ様と会った・・・」


「何言ってるのよ。ラーグ様が街に来るなら大騒ぎになってるわよ。ほら、帰って来たなら手伝って」


「・・・だよな。そうだよな」



 ***



 こうして、パトロの受難は始まった。

 日記を閉じたパトロは溜息をついた。


「はぁ~、懐かしい。セラーナ様、元気かなぁ」


 最初に会った緑の妖精は今や、深窓の令嬢となり主を思い続けているであろうとパトロは想像する。


「あ、そろそろアルトが薬を売る時間か。銀貨二枚っと」


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