迷走
村の避難場所に向かいながらアルトとミーナは夢の内容を話し合い、今後の行動について考えていた。
「夜に襲撃があってどこから侵入してくるかはわかっているんだ。ただ、いつかがわからない。ミーナが過ごす二晩のどちらかなんだ」
「夢の中と今との違いはなかった? 村の風景とか?」
「・・・。特に変わった事はなかったと思う。とりあえず、避難場所を教えたら侵入する場所を見に行こう。何か気付きがあるかもしれない」
「そうね。今は時間が惜しいから避難場所に急ぎましょ」
避難場所に着いたアルトはミーナに入口の場所や入り方を教えた。
その後、侵入場所である市場に行った。市場にはオーロンの店や他の店も集まっており、柵を隔てて村の外に面している。
「市場から入ってくるのね。何か気付いたことある?」
「この位置から、市場を見てたんだ。・・・何か引っかかてるけど、思い出せない。なんだろう」
「焦らないで、まだ夜にはならないから。私も何か手伝えたらいいのだけれど」
アルトは焦らないようにはしていたが、ミーナや村人の命が懸かっていると思うと思わず焦ってしまう。
そんな悩んでいる二人に声がかかった。
「アルト君、ミーナさん。どうしたんだい、こんな所で。遊びに来たの?」
「マールさん。そうだ! マールさん、今日、村で変わったことなかった?」
「変わったこと? あるよ」
「「ほんと!?」」
「ビックリした。二人してどうしたの。今日、ミーナさんと行商人が来たじゃないか」
まさかの答えに、期待していた二人は目に見えてガッカリした。そんな二人の様子に戸惑いながら、マールは思い出したようにミーナに伝えた。
「そういえば、一緒に来た行商人がミーナさんを探していたよ。伝えたいことがあるから、見かけたら工房に来てほしいって」
「工房?」
「そうか、場所わからないよね。アルト君、連れて行ってあげてくれる。今、買い出しの途中でさ」
「わかった。行こうミーナ」
「でも」
「とりあえず、今すぐには思い出せないから工房に案内するよ。それじゃあマールさん、案内してくるよ」
「ありがとう。助かるよ」
ミーナはマールにお礼を言いアルトと一緒に工房に行った。
工房には職人と行商人がいた。
「あっ、ミーナちゃん。探したよ」
「ごめんなさい。ルンダさん。村の案内をしてもらってたの」
「そうだったのか。実は荷車の車輪が壊れちゃってね。今、修理してもらってるんだ。なんとか今日中には直せるかもしれないけど、一応、帰るのが遅れるかもしれないって伝えようと思ってね。すまんね。お父さんが病気なのに」
「わかりました。お父さんも大丈夫ですよ。案外、帰ったころには治ってるかもしれませんし」
「すまんね。今日直せたら予定通り、明日は市場で商売して、明後日の朝に出発になるから」
その時、アルトに衝撃が走った。夢の中で見た市場と今の市場の違いがわかった。
行商人と別れた後、アルトはミーナの肩を掴み興奮気味に言った。
「アルト、どうしたの!」
「ミーナ、わかった! 荷車だ! 夢の中の市場には行商専用の場所に荷車があったんだ」
突然、肩を掴み叫んだアルトにビックリしながらミーナは尋ねた。
「荷車の位置が決まっているの?」
「あぁ、市場の決まった場所で行商人は商売をするんだ。今日はその位置に荷車が無かった。あの時に感じた違和感はそれだったんだ」
「その場所以外で商売することはないの?」
「あの場所以外はないんだ。市場で人通りが多く、荷物を保管できる倉庫近くのあの場所でしか商売をしない。商品が盗まれないために、その場所って決めてる」
「わかったわ。それなら、今日は荷車を直すために工房から出ないから今夜は襲われないわけね。でも、夢の中の話でもあるから少し不安はあるね」
「そうだね。夢がハッキリ見え始めているけど、見方が違う事もあるかもしれない。夜に村を見回れたらいいのに!」
「複数人はいって来るかもしれないのに一人で見張るのは危険よ! やるなら、私も着いていくわ」
「ダメだ! ミーナが攫われる光景が見えているのに、危険は冒せない。どうしたら・・・」
二人は悩んだが、答えが出せないでいた。
歩き続けて市場に着いたアルトはオーロンの店を見て、決心した。
「ミーナ、俺達が考えても出来る事は限られてる。それなら、いっその事、父さんを頼ってみる。話を信じてもらえるかはわからないけど、やるだけやってみる」
「そうね。今夜、襲われないとしても夜に村を見回る事は必要だから。オーロンさんは夢のこと知ってるの?」
「夢でティトが出てくる所しか話してない」
不安と緊張を感じさせる顔をするアルトの手を握ってミーナは言った。
「心配をかけたくないのね。でも、勇気を出して。これから起きる事はアルトと私しか知らない。夢の事を私に話そうと思ったのは、村のみんなや私を守ろうと思ったからでしょ。勇気を出して」
アルトは大きく息を吸い込み、顔を上げミーナを見て強く頷いた。
「ありがとう」
店の扉を開けると、マールがカウンターで本を読んでいた。
「マールさん、父さんいる?」
「親方なら森に行ったよ。子供たちが森の近くで変な草を触って、体調を悪くしたんだ。その子は門番小屋にあった薬で治ったけど、モルがその草を調べてほしいって言ってきた。僕も今、聞いた特徴の草が何か調べているんだ」
「森か・・・」
「どうかした?」
「父さんに相談したいことがあって来たんだ」
「なるほど。それなら、門番小屋で待ってるといいよ。森にどこまで入ったのかわからないから」
「わかった。ありがとう、マールさん」
マールはヒラヒラと手を振りながら、再び本に目を落とした。
「ミーナ、村の入口に行くことになったけど着いてくる? それか家で休む?」
「ううん、アルトに着いていく。一緒にオーロンさんに話しましょ」
「・・・ありがとう、ミーナ」
ミーナは優しく微笑み、アルトと門番小屋へ向かった。
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