<3>
その時。
首筋にヒヤリとしたものが当たり、わたしは思わず声を上げた。
「ひゃっ」
「……ヒッ」
後者は舞だ。
横を向くと、座った姿勢のまま後ろに手を付き後退りをしている。
「え、な、なに?」
舞のただならぬ様子にわたしは左右を見回した。
「お……おっ…………!」
「“お”って?」
視線を少し落とすと、見慣れたものが畳の上に落ちている。
四隅に貼られていたはずのソレ。
「……なんだ、お札か。驚かせないでよ」
舞はただ首を横に振っている。
「ここ……で、出よう」
よろよろと舞は立ち上がった。わたしにも立ち上がるように促している。
「急になに?」
「……早く!」
それだけ言うと、舞はくるりと背を向けて走り出した。
「ちょ、ちょっと!」
わたしが声を掛けても舞は振り返らない。
わたしも部室を出て、舞の後を追う。
廊下を走り、階段を降り、そのまま中庭へ出たところで舞は止まった。
肩を上下に揺らし、荒い呼吸のまま大きく息を吐いた。
「だ……大丈夫?」
「わたしは別に。舞こそ大丈夫?」
舞は顔を上げ、なんとも言えない顔をした。
「別にってホントにホント? なんともないの!?」
舞はわたしの両肩を掴み強引に揺さぶった。
「う、うん」
「はぁ~……良かったぁ」
それだけ言うと、わたしの肩に舞はおでこをこつんと乗せてきた。
しばらくそのままでいた舞がふと顔を上げた。
「……落ち着いた?」
わたしの問いかけには答えず、舞は神妙な顔つきのままポツリと呟いた。
「なんだったのかな……アレは」
「アレって、古くなったお札がたまたま剥がれただけじゃないの?」
「そうじゃなくて、んっと。なんて言ったらいいのかな」
舞は視線を芝生に向けたまま泳がせた。
「あ、あたしの気のせいかもしれないけど、女がね。女が麻子のすぐ後ろに居て、目が合ったらなんか笑って、麻子に覆い被さるようにして、消えたの……」
「うん……それで?」
「それでって、怖くなって逃げて来たんじゃない。あたしの気のせいじゃなかったらさ、その……」
舞は言いにくそうに言葉を詰まらせた。
「その、麻子の……中に入ったように見えたんだけど」
舞が嘘をついているとか、冗談を言っているようには見えなかった。
「……この通り、わたしは全然なんともないよ」
わたしはにっと笑顔を作った。
「う……うん、そうみたいだね」
舞は小さく頷いた。
「そうだ。お弁当箱置いて来ちゃったから、取りに戻るね。舞は先に教室戻ってなよ」
「……えっ?」
舞の不安そうな声を聞いたが、わたしは返事を待たなかった。
時間をあけてしまうと、部室に戻るのが怖くなってしまうような、そんな気がしたから。