ピンクデタミネーション!団傑せよキズナイジャー!!(前編)
「こ、ここは・・・?」
まばゆい光に包まれたと思ったら、辺り一面近未来的な機械でいっぱいな異様な空間にいた。専門的なことはよくわからないけど、地球じゃ見たことないような機械ばかりだ。
「ようこそ戦闘母艦『ドラゴンコンドル』の中へ。すごいでしょ!ワープしてきたんだよ!私も初めて来たときは驚いてね!!」
「ちょちょちょ、ちょっと興奮しすぎだ」
「ああごめんごめん」
テンションの上がりきった赤の子を諫める。ジュンやマナの扱いでこういうのは慣れてる。(妹たちと他人を同じにするのもどうかとは思うが)
「じゃあまず自己紹介するね。私は赤崎ホムラ。キズナイジャーのリーダー、フレアレッドやってるの」
そう言って自己紹介した子は髪を後ろに一纏めにしてポニーテールにしていた。服装は剣道部の道着のようなものを着ているけど、普段着として着用するようなものでもないと思うが。
「で、この眼鏡をかけた人がアクアブルー、源ナガレ。サブリーダーでとっても頭がいいの」
「よろしく」
青みがかった短い髪の女の人だ。背は俺より低いけど、見た感じ年齢は上っぽくみえる
「頭がいいからよく四字熟語を使う」
「焼肉定食」
それは頭の悪いキャラ付けだろ。
「こっちの金髪のがグランイエロー、大岩ライザ。このチームで一番の力持ちで特攻隊長?みたいな?」
「よっろしくぅ!」
パァンと背中を大岩さんに叩かれた。見た目通りの豪快な性格らしい。
あと目を引くのが色んな部分のデカさだ。特に背丈なんか男の俺の一回り上くらいある。年が上だったとしても大きすぎるくらいの背の高さだ。
「あ、今私のこと、デカ女って思ったろ」
「い、いや。そんなことは」
「あーかなしいなー気にしてんのになーショックだなー」
「大丈夫?ライザ?」
「ちょっと男子」
「ええ・・・。なんかごめんなさい」
「嘘だよ。そんな気にしてないって!あははっ」
豪快だけじゃなく明るいらしい。
「そしてこの子が」
「私は明 風鈴。中国人だけど5年前に親の仕事の都合で日本に帰化してる」
中国人だったのか。纏っている雰囲気が何となく違うなとは思っていたけど。
いや、そんなことより。
「なあ、君」
「何」
「もしかして小学生?」
「は?見りゃわかるでしょ。こんだけ背丈小さいんだから」
その女の子はあんたバカァ?みたいな顔を向けて吐き捨てるように言った。
推定小5くらいだろうか。うちのジョウたちが小2なのでそれよりかは年上だ。
こんな小さな子まで俺の知らないところで戦っていたのか、メグミは胸の奥がチクリとした。
『自己紹介は終わったようだな』
突然艦内に人工音声のような加工された声が響き渡った。
『驚かせて済まない。私はキズナイジャー長官である。ここにいる者たち4人をキズナイジャーとして選んだ者だ』
「そうそう。私たちもこの人に選ばれたの」
「まあ言ってもどんな人なのかは知らないんだけどな」
「知らない?」
赤崎さんと大岩さんの話を聞き、俺は怪訝な顔をする。
「聞いたことのあるのは声だけ。姿は私たち4人の誰も見たことない」
源さんが話を補完してくれた。
『そういうわけだ。まあ夜も遅いし単刀直入に用件を言おう。君にもキズナイジャーの一員となって戦ってほしい。今この地球は奴らの手により未曽有の危機に』
「断る」
自分でも驚くほど秒速で答えが出た。
赤崎さんと大岩さんはずっこけていた。源さんは冷静な顔をしつつも姿勢をずるりとさせていた。明さんはジトーッとした目でこちらを見つめていた。こうして見ると4人ともそれぞれ個性が強そうだ。
「いやなんでよ明らかに『俺も地球のために働きます!』って言う"流れ"だったでしょ」
「私?」
「違う違う」
赤崎さんと源さん、この掛け合いを見るに仲は結構いいんだろうか。
「なんでよって言われても、俺らが地球のために命かける義理なんてないだろ」
「いやでもせっかく選ばれたんだし」
「俺たちみたいな素人を兵士として選ぶより、自衛隊とか国連軍みたいな訓練されてる人たちを選んだ方が勝率上がるだろどう考えても」
「それができないから私らが選ばれたんだっつーの、空気読めよこのヤクザ顔」
そう言ってくる明さんは今にも蹴り入れそうな勢いだ。でも俺は間違ったこと言ってないはずだ。
「そうだとしても俺たちはまだ社会の世知辛さも右も左も分からない子供だろ。まあ百歩譲って俺みたいな高校生はともかくだ、この明さんみたいな年端もいかない小学生まで命がけの戦いに巻き込んで、責任者の長官は顔も見せずに高みの見物だなんて。断る以外の選択肢が見つからねえ」
「私を断る出汁にすんじゃねえよ。兄気取りか何かか」
実際俺は5人兄弟の兄だ。自分の弟たちが戦いに巻き込まれたなんて思うとゾッとする。だからこんな小さな子が戦いに巻き込まれてるなんて、正義の戦いだとしても耐えられない。
「だからあんたたちもすぐやめた方がいいぜ。誰かが戦わなきゃいけないんだとしても、それは俺たちじゃなくていい筈だ」
「それは・・・。でも・・・・・」
赤崎さんは言い淀んでいる。流石に言い過ぎたか。少し悪い気分になるが前言を撤回するつもりはなかった。
『・・・そうか。確かに君の言うことも一理ある。それでは今日は帰りたまえ。君の家の前まで転送する。突然連れてきて済まなかったな』
加工された音声だが申し訳なさそうにしている雰囲気は伝わってきた。でも絆されるつもりはない。
「ここでのことは一生誰にも話さないでおくから、心配しなくていいぜ」
そう言って愛野メグミは消えた。自宅の前まで転送されたのであろう。
残された4人の少女たちには重苦しい雰囲気が漂っていた。
「あんなに言わなくてもいいじゃん」
「まあでも言ってることは間違っちゃいねえよ」
「冷静沈着。まともな判断ができる子」
「こっちは一方的にガキ扱いされて腹立ってんだけど」
4人の反応はそれぞれだった。確かに彼の言っていることも間違いではない。というかまともな思考を持つ人ならば、地球を守る命がけの戦いをしてくれといきなり言われても断るだろう。素人の書いた小説じゃないのだから。
「はぁ~。せっかく5人揃うと思ったんだけど」
ホムラは至極残念だった。キズナイジャーに選ばれてた時から、5人の仲間をそろえ地球のために戦うことを夢見ていた。だがまだまだそれは叶いそうにない。
「しょうがない。また4人でがんばろっか」
いつまでもくよくよしていてもしょうがない。私はこのキズナイジャーを纏めるリーダーなのだ。暗い顔をせずに皆を引っ張っていかないと。そんな自覚で彼女は自分を無理やり再起させた。
「ただいまー。遅くなってごめんな―」
短い間に色々ありすぎて、久しぶりに思える我が家。転送されて夜の町内をぼんやりと照らす家の明かりが見えた時はホッとしたものだ。
「おかえり!メグミにぃ!」「おかえり兄貴」「兄さんお帰り」「お兄ちゃんお帰り。遅かったね」
「ああごめんな。ちょっと帰り道で色々あって」
帰ってくるなり飛び出してきたのは弟のジョウ、レン。妹のジュン、マナだ。俺が帰るまで掃除や洗濯を一通りしてくれていたらしい。全く、我が兄弟ながらよくできた弟たちだ。
「お腹減ったろ?すぐご飯にするからな」
うちは母さんが昔病気で死んで、父さんも単身赴任で都会にいるから兄弟で分担して家のことをきりもりしている。特に料理は刃物や油を使うので、一番年上の自分の担当だ。
「あれお兄ちゃん?エコバックは?」
「あ」
怪人どもに襲われたあの時だ。
「ごめん落とした」
「えー!?何やってんだよ兄貴―!!夕飯はー!?」
「ごめんな。今日はレトルトで我慢してくれ」
「やだー!!日曜はカレー曜日って決まってるだろー!?メグミにぃの嘘つき!!」
「ほんっとごめん!このお詫びは今度するから!」
「ジョウ、あまり兄さんを困らせちゃダメだよ」
「何だよレン!お前もカレー食べたいだろ!?」
「でも連絡もなしでこんなに遅くなるなんて、兄さんにしては変だよ。何か事件にでも巻き込まれたんじゃないかな」
「確かに・・・。大丈夫だったの?お兄ちゃん?」
カレーが台無しになったのに、俺のことを心配してくれてる。父さんと母さんの優しさが遺伝してるのかな
「大丈夫だよ。マナ達が心配することじゃない」
おれは両手でそっと4人の弟妹の頭を撫でた。
「それよりカレー台無しにしちゃったからさ。今度ジョウが欲しがってたゲーム買ってやるよ」
「ホント!?じゃあ許す!」
「ずるい兄貴!あたしも!」
「わ、わたしもなにか欲しい」
「兄さん、ボクもいい?」
「ああいいよ。みんな平等にな」
そう言ってみんなの体をそっと抱き寄せる。
温かくて、いい匂いで、安心する。
早くレトルトカレー作らないとな。買いだめしていたキャベツがあるからそれを切ってサラダとして付け合わせよう。お腹すかして待ってたんだから早くしないとな。
メグミは改めてこの家庭に幸せを感じていた。
もし、この幸せが壊されたら。そんなことが頭によぎり一瞬身震いした。
テッテッテッテーテッテ(手描きのアイキャッチ絵)
後編に続く。