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風のじゅうたん 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 みんなは風向きを読みたいと思ったとき、どのような方法をとっているだろうか?

 よくゴルファーの人は足元の草をちぎり、宙へ放ることによって風を読む。道具なしでやろうとしたら、指をしゃぶって、冷たく感じる方へ向けてみるかな?

 しかし、これらは自分たちが立っている近辺の高さでしか、はかることはできない。先のゴルフの例なら、高く浮かぶボールは、上空だと異なる向きの風に流されるかもしれない。

 そうなると鳥の羽ばたきとかで、風を見ないといけないとも聞くね。気球に乗る人は雲の動きも大切で、色がついているかのような見分けが必要って、話も昔に聞いた。


 だが、ド素人が大半であろう我々でも、風に気をつけるべきときがある。

 先生の昔話だが、聞いてみないか?



 漫画では許されても、現実だと許されがたい行為は、いろいろある。

 その最たる例のひとつが、スカートめくりだろう。お風呂ののぞきと並ぶ、男子が3人集まったら、十中八九、実施しにかかる代物だ。

 マンガならそのあと、ギャグならではのどぎつい制裁を下されるから、笑い話で済むことがほとんど。しかし実際にやると、どれほどの被害が出るか分からない。

 先生ながらに思ったのが、現実は何をやろうが後を引くということ。いいにつけ、悪いにつけだ。

 水に流したつもりでも、いつ蒸し返されて表面化することやら。何年、何十年越しの恨みを晴らすとか、考えただけで恐ろしい。

 そうなると故意ではなく、事故でなくては少なくとも助かる道はないのでは、と考えてしまうんだ。



 いまはラッキースケベというのか? 強い風などが吹いて、スカートをまくり上げてしまうケース。

 まさについていなくては、あり得ないシチュエーション。過失であることは明らかだから、わざとやるよりは心証は悪くないだろう。

 正直、先生のクラスの男子は思春期の真っ盛り。見た見てない、触ったの触ってないので大騒ぎだ。話を合わせるうちに、どこか先生の思考も毒されていたのは否定できない。

 一回くらい、ラッキーな目がやってきてくれないかなあ、とその日も学校からの帰り道を歩いていた。



 その日は校門をくぐったあたりから、断続的に強い風が吹き寄せていた。

 数秒吹いてはやみ、また数秒吹いてはやみの繰り返しだ。しかし、それは女性の方々の注意を促すのに、十分すぎる。

 服やスカートを初めから抑えつつ、行き来している人たちを見て、「そうじゃねえんだよなあ」と風に毒づいてやる。

 つくづく俺はスケベには縁がないんだろうなと、駅前につながる坂道を、のっしのっしと歩いていたとき。



 不意に、背後から強い風が吹いた。

 これまでで一番強いもの。うなじ側の髪が逆立ち、着ていたブレザーが前へ強くなびいていく。

 しかし、今度はそれだけにおさまらない。

 風の吹く向き、いや位置が変わったんだ。

 身体のより下の方、ひざから下の部分にかけてのみ、強烈に吹き付けてくる。

 ズボンが前方へはためく。それこそ腕でも突っ込んだかのように、思い切りよくだ。それでいて膝より上は、まったく風を感じていないと来ている。

 これはおかしい、と盛り上がってくるズボンの生地を、手でおさえようとしたところで。



 耳にやたらと残る、高めの音。

 ズボンの生地が裂ける音だった。そのまま前方へめくり上がる先生のズボンは、おさえようとする手さえもはねのけ、一気に上へ。

 まるで兎の耳のように思えたよ。足首からももへかけてきれいに破けたズボンは、おそらく先生のすね毛の生えかけた足を、無残にさらしていったと思う。


 しかし、まだ終わりじゃなかった。

 必死に破れた部分を被せなおそうとする先生の足元を、風とは違う何かがなでていく。

 はたきか? いや、もっと動物の毛を集めたような、さわさわ、ごわごわとした物体が、先生のむきだしの肌をなでていく。

 ほんの数秒程度だったが、自分の全身が総毛立つ感触がしたあと、風ははたりと止んだ。

 破れたズボンのまま、長く外を歩く度胸なぞなく、真っ先に家へ帰った先生。


 ズボンを脱いでみて、驚いたよ。

 先生は当時より、すね毛が濃い体質だったんだが、そのすね毛たちが、きれいに一本ずつ。かた結びをするような形で肌に浮かんでいたんだ。

 大仏様の螺髪。あれを無数に細かくしたような感じで、しかもどこに触っているわけでもないのに、足を動かすとチリチリとしたしびれが走る。

 はさみでひとつずつ切る、地味な作業の途中で、仕事に出ていた父親が帰ってきてね。先生の惨状を見るや、そいつは風のじゅうたんの被害だと、教えてくれたんだ。



 大名行列があるとき、あらかじめ道を清めるものだが、それは風に対しても同じらしい。

 先生のズボンをめぐり上げたのは、いわばその清めの風であり、直後の奇妙な感触が本命の行列の通過だったらしい。

 そして、その途中でぼうぼうと生える先生のすね毛に出会った。よって行列の一行が「無礼打ち」するかのように、毛たちの頭を下げさせた結果、このような毛のかっこうにさせられたのだろうと、話してくれたのさ。


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