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第五話


 王太子コンラートはいつも大噴水が見える庭園で昼食をとる。

 周囲には側近の優秀な文官武官のタマゴがいる。


 話題はどこそこの株が上がりそうだとか、どこそこの新商品がとか、ビジネスチャンスに関わるものが多い。

 ただ、今日は違った。


「殿下、気になる噂がございます。なにやら殿下が一般生徒をご寵愛し、高価な品物を贈っているとか」


「俺が一般生徒を寵愛? フン。ずいぶんと面白い噂だな。 だが、学園の風紀問題は俺の管轄外だ。生徒会長に進言して何かあったら手伝ってやれ」

 鷹揚に構えるコンラートに側近の一人が心配そうに眉を寄せる。


「ですが、万一アリシア嬢が信じてしまったらどういたしましょう? 婚約者の不貞に心を痛めるのではないでしょうか?」


 気づかわし気に声をかける彼に、コンラートは笑い飛ばす。

「ハッ。あの女が噂を鵜呑みにするはずないだろう。むしろ逆に高笑いして高みの見物を決め込むだろうよ。噂はそれだけか?」


「ええと、殿下の婚約者のアリシア嬢が女生徒に対して嫌がらせを行っているとのうわさが流れております」


 側近のセリフにコンラートは鼻で笑った。

「フン、あの女は性格が悪くて傲慢で鼻持ちならない女だが、一般生徒に無体な真似をするような奴じゃない。大方、アリシアに嫉妬した誰かがアイツを陥れようと画策しているんだろう」


「ではアリシア嬢のために噂を打ち消す手はずを整え……」

 と有能な側近が言ったところでコンラートは言葉を被せる。



「その必要はない。あいつは自分で火の粉を払える女だ。それにその程度の噂であいつのこれまでの信頼が崩されるようなことはないさ。なんだかんだで人望も厚いからな」


 そう言い切るコンラートの顔はどこか嬉しそうだった。

 言葉の端々からアリシアに対する信頼の高さが感じられ、側近たちはなんともくすぐったい気持になる。


『悪態をつつきながらも結局コンラート殿下はアリシア嬢の事すごく好きなんだな』

 口に出したい衝動をなんとか抑え、側近たちは言葉の代わりに紅茶を飲み込む。


 ちょうどそのとき、コンラートが口を開いた。


「それに下手に俺が手を出して『わたくしのために手を下すなんて、もしかしてあなた、わたくしのことが好きなんですの?』とか言われでもしたらはらわたが煮えくり返って眠れなくなる。絶対に手は出さん!!」


 コンラートの発言に側近たちは思わず紅茶を吹き出しそうになった。マナー違反とかそういうレベルではないので必死に口をおさえ、

『この人、普段は優秀なのにアリシア嬢が関わると途端にポンコツになるんだよな』

 と内心で思ったが、けして口に出さなかった。



 一方、アリシアも似たような状況だった。

 取り巻きの一人が噂について注進したのだ。


「アリシア様が一般生徒に嫌がらせを行っているという噂があるのです。ご許可を頂ければすぐにでも調査を開始しようかと思いますが」


「あら、オホホホ。噂でしかわたくしを攻撃できない小物など放っておけばいいわ。あなたの手を煩わせることもないでしょう」

 アリシアは余裕の微笑で返す。


「あ、あの、噂は他にもありまして……その、コンラート殿下が一般生徒をご寵愛しているそうで、手を繋いで帰ったとか、高価な贈り物をしているとか専らの噂ですわ」

 アリシアの取り巻きの一人が困惑した顔で言うとアリシアは鼻で笑った。


「フフ。神経質で年中カルシウム不足で怒ってばかりの殿下ですけど、自分の立ち位置を忘れるような人じゃありませんわ。大方、コンラート殿下に嫉妬した誰かが陥れようと仕組んだのでしょう」


「まあ、では殿下を貶めた不届き者を懲らしめますのね! すぐに人をやって探させ……」

 優秀な側近の一人が言い切る前にアリシアは言葉を被せた。



「その必要はありませんわ。コンラート殿下はあれでなかなか頭がキレる方ですの。そんな雑魚程度、ご自分で処理するでしょうね」

 そうコンラートを語るアリシアの目元は柔らかである。


 取り巻きの令嬢は『やっぱりアリシア様はコンラート殿下のことを好いてらっしゃるのだわ』と微笑ましい気持になった。

 しかし、次の言葉で甘酸っぱい空気がぶち壊される。

「それに、わたくしが動けばコンラート殿下に『お前、俺のこと好きなんだな』とネチネチネチネチ言われるにきまってますもの。ああ、想像しただけでも腹が立って仕方がないですわ! 土下座で頼まれない限り、絶対に助けてあげないんですから!!」

 アリシアは目を吊り上げて声を荒げる。

 取り巻きの令嬢は怒り狂うアリシアを見て苦笑した。



 当の二人がスルーする中、行動を起こしたのは生徒会長モブールである。

 エレナにまつわる不穏な噂を耳にした彼は地道に聞き込み調査を続けていた。


「こんなうわさが立つなんて絶対におかしい。エレナさんは真面目な人だ。コンラート殿下がいくら美形でも婚約者持ちの男性と関係を持つような女性じゃない!!」

 モブールは普段の仕事の合間に一生懸命、噂の出所を調べた。


「ウチの学生の中に一次情報を持っている者はいません。いずれもカフェや廊下、中庭などで誰かが話していたのを聞いたようです」


「それと、少し前から出入りの業者に数名の子供が混じっているんです。見習いだとかいうので通していたそうなのですが、どうも様子がおかしいんですよね」

 

 調査に協力してくれた新聞部員の情報をまとめあげ、モブールは真の黒幕にたどり着いた。

 学内をうろうろしていたカミルの部下をひっつかまえ、彼らの悪事を全て吐かせた。

 元々忠義心もない彼らは

「ごめんなさーい。カミル様が王位に就けばいい暮らしができると思ったんですー!」


 さすがに王弟の子息が関わっているということでモブールは独断で処理できず、コンラートに話を通した。


 まさか従弟が諸悪の根源とは思わなかったコンラートは頭を抱えた。

 まさしく王族の面汚しである。しかもアリシアから「まあ、あの騒動は殿下のおイトコ、カミル様のお遊びでしたのね。楽しいおイトコをお持ちですことオホホホ」と嘲笑されたのである。コンラートにこれは堪えた。


「だからあれほど甘やかしすぎだとおばあさまたちにも忠告したのにっ!!」

 コンラートはげんこつの一発でもお見舞いしたい気持ちだったが、カミルが子供だということと、見た目が可憐であるため、どうしてもコンラートが悪役に見えてしまい、カミルの見てくれに騙された祖父母や年配のご夫人からは非難を受けるだろう。


 コンラートはぎりぎりと悔しがりながら、ゲンコツは諦めて叔父の公爵に話を通し、厳しくしつけてもらうことにした。


 ところが、親ばかの公爵はコンラートの話を笑い飛ばした。

「いやいやコンラート。ワシの可愛いカミルがそんなおかしな真似をするわけがないだろうワッハッハ」


「叔父上!! 冗談を言うために俺がわざわざ来るわけないでしょうが。証人もいますし証拠もあります。なんなら本人からの自供も取りましょうか?」

 静かに怒るコンラートに睨まれて公爵は冷や汗をかく。

『この怒り方、ひいおばあさまにそっくり……! 怖いんだよなあ』


 恐怖に震えた公爵はコクコクと頷き、ようやくコンラートの機嫌が直った。



 学校には公爵の名前で謝罪文が届き、エレナには十分な慰謝料が支払われ、おかげで男爵家の財政も持ち直した。エレナは嫌がらせの犯人が分かり、ようやくほっと一息付けたが、今もなおモブールとコンラートを混同しているため、好きになってはいけない人に恋した自分を嫌悪している。


 一方、脈なしだと勘違いしたモブールは自習室の明かりを見て、胸の痛みを覚えるのだった。



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